26 新たな無敵の会得
攻撃コードを利用した無敵は、知識を得た段階で思いついていました。
非常に単純な考えです。
まず、攻撃コードには『ダメージ処理の発生する領域』が存在します。
その領域と、私たち攻撃を受ける側の肉体が持つ『ダメージ処理を受ける領域』が重なった時、ダメージが発生するのです。
通常の現象や攻撃では、『ダメージ処理の発生する領域』や、『ダメージ処理を受ける領域』は、実際に存在する肉体や攻撃の占める範囲と一致します。
つまり、身体よりも『ダメージ処理を受ける領域』が大きかったり、小さかったりすることはありません。
同様に、例えば攻撃魔法が炎であれば、その炎よりも『ダメージ処理の発生する領域』が大きかったり、小さかったりすることもありません。
しかし――私は世界を構成するコードにまで及び、変更が可能なスーパーコードの技能を持っています。
当然、この『ダメージ処理の発生する領域』や『ダメージ処理を受ける領域』の広さを自由に変更できます。
自由に変更できるのですから、極大な範囲に設定したり、逆にゼロに設定することもできるのです。
この基礎知識さえあれば、後はとっても単純です。
ダメージ処理は、二つの領域が重ならなければ発生しません。
ならば、片方の領域が存在しなければ、決して攻撃を受けないのです。
無敵の技能よりも、遥かに確実な無敵が得られます。
そこで――私は、私自身が持つ『ダメージ処理を受ける領域』というものを全て削除していきます。
どういうことかと言えば、私の肉体から実体を消滅させる、という感じでしょうか。
攻撃は当たらない。人ともぶつからない。
地面や障害物はすり抜けないような仕組みになっているらしいのですが、命ある存在や攻撃的でダメージの発生しうる現象は、一切私に触れられません。
「それでは、さようなら」
私は自分自身が持つ領域を消滅させ、リザードマンの群れの中を駆け抜けます。
当然、リザードマンは私に攻撃をしてくるのですが、全く当たりません。
爪や尻尾、武器の棍棒や剣などが、私の身体をすり抜けていきます。
また、私は正面に立っているリザードマンのことも無視して突っ込みます。
すると、見事にリザードマンの身体をすり抜け、背後側に飛び出ます。
これは――急いでいるときは、とても便利かもしれません。
1分もしないうちに、私はリザードマンの群れから抜け出しました。
去り際、適当な攻撃魔法を放って牽制しておきます。
追いかけて来られても、面倒かと思った為です。
目論見通り、リザードマンの群れは私を追ってきませんでした。
というか、気づいたら後ろにすり抜けていた私のことが理解できず、混乱しているのでしょう。
十分な距離が取れたところで、私は今回作った無敵に必要な最後の処理に取り掛かります。
今、私は実体が無く、なんでもすり抜けてしまう状態です。
けれど、これでは日常生活に困ります。
リグとイチャイチャできないのは嫌なのです。
なので――私の実体に代わるものを用意することとしました。
やることはシンプルです。
レリック魔法で、アーマーを纏います。
それだけです。
原理は簡単です。レリックアーマーはレリックが攻撃を受け止めてくれるものです。
つまり、レリックアーマーには『ダメージ処理を受ける領域』が存在するのです。
そこで、私の実体から消滅した領域の分を、レリックアーマーに肩代わりしてもらおうというわけです。
私の肉体と寸分違わないレリックアーマーを常にまとっていれば、それは私が『ダメージ処理を受ける領域』を持っているのと同じです。
つまり、普段どおり人と触れ合えますし、攻撃も受けます。
ですが、受けるのは私ではなくレリックです。
ダメージを受けるのもレリック。つまり、私自身は無事なのです。
もちろん触覚やその他もろもろの感覚が無いと困るので、レリックと私が感覚を共有する必要がありますが……その辺も私からレリックを監視し、常に読み取る仕組みのコードを私自身に生み出すことで解決できます。
多分、山頂に辿り着くころにはその辺の技術も完成しているでしょう。
そして、私が自分自身の感覚とレリックの感覚を共有するためのコードを、私自身に書き込んでいる最中のことでした。
ずしん、と大きな足音。
その方向に顔を向けてみれば、どうやらミラークリスタルタートルが現れたようです。
恐らく、その巨体が作る影にはアサシンウルフも潜んでいるのでしょう。
――せっかくの再会です。
私という存在が、どこまでの性能を発揮できるのか、試してみましょう。
コード関係の性能が、だいぶ元ネタを知らないと理解が難しくなってきたかしら……?
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