17 いざ、登山!
私は6000近い敏捷性を活かし、矢のような速さで白真龍の山へと向かいました。
途中で何度か、慌てた様子の騒がしいハンターチームとすれ違いましたが、一切気にしません。
相手している場合ではないのです。
私は一刻もはやく宝石の花を手に入れて、リグのところへ戻りたいのです。
そして告白して、今まで以上に甘々に甘えちゃいたいのです。
これぞ、恋は盲目というやつでしょう。
『……違うと思うなぁ』
突然、カミさまの声が頭の中に響きます。
久々に喋ったと思ったら、ツッコミとは。
『いやぁ、だってユッキーったら四六時中リグレットお嬢さんとイチャイチャしてるよね? 話しかけたくても話しかける機会失っちゃうよね?』
そういえば、最近はカミさまにあまりかまってあげていませんでした。
寂しがらせてしまったかもしれません。
ごめんなさい、なのです。
『うん、いいよいいよ。気にしてないから。それにファーリを四六時中眺めてたからそんなに寂しくなかったしね~』
まるでストーカーのようなことを言われたような気もしますが、相手は神です。気にしないことにしましょう。
そうしてカミさまと軽く脳内で対話しながら、街道を駆け抜けていきました。
出発は昼前でしたが、白真龍の山にはなんと日没前に到着してしまいました。
馬車で三日かかる距離を生身の半日で走り抜けてしまいました。
まあ、ステータスのことを考えれば当然と言えば当然なのですが……。
「さあ! いよいよ白真龍の山にチャレンジだねユッキー!」
気がつくと、カミさまが姿を現していました。
「あの、カミさま。今回は1人で登らないといけないので出来れば消えててほしいのですが」
普通に邪魔なので注意してやりました。
「あー、ユッキーには悪いけど、この山を1人で登ってうんぬんって話、単なるジンクス。おとぎ話。真実じゃないから。嘘だからね?」
普通に夢を壊されました。
「まあでも、山頂の宝石の花が愛し合う二人にとって特別な代物だっていうのは真実だから、採取してくるのは悪くないと思うよ?」
普通にフォローされました。
「……そういう情報は登る直前じゃなくてもっと早めに欲しかったのですが」
「まあまあ~、気にしなさんな! 結局登って宝石の花を摘んでくるのには変わりないしね!」
カミさまの言うことにも一理あります。
というかカミさまの気まぐれを気にしても仕方ないので、軽くスルーして予定を続行することにします。
ということで、今日はまだ日没まで時間があるので、少しでも山を登っておくことにします。
普通のハンターなら山頂まで4日ほどの冒険になる、と言われているらしいので、私なら半分の2日と考えておきましょう。
これから2日の間、お世話になる山に生息するモンスターについて頭の中で復習します。
まずはロックタートル。岩で出来た頑丈な甲羅を持つ巨大な亀です。
大して強くはないのですが、モンスター同士で連携を取ってくる時には厄介です。
前衛でタンクの役割を果たしてくるので、邪魔で他のモンスターに攻撃が通らなくなります。
次がスナイプウルフ。身軽で素早い動きが得意な狼のモンスターです。
ロックタートルとは共生関係にあり、ロックタートルの巨体を生かしてスナイプウルフは格上のモンスター相手でも狩りを行い、スナイプウルフが仕留めた獲物をロックタートルも食べます。
ロックタートルの身体を縦横無尽に走り、陰から飛び出し、時には毛皮の中に隠れた毒針を飛ばしてきます。
岩場だと思ったらロックタートルで、その陰からスナイプウルフに襲われて……みたいな被害を受けたハンターは数知れないという話も聞きました。
他にもリザードマン、オーク、ハイゴブリンなどどこでも見かけるような定番のモンスターが生息しているはずです。
「――では、行きましょう!」
私は意気込み、白真龍の山へと一歩を踏み出しました。




