09 クエラの想い
「えっと……お姉さま?」
私は、お姉さまの言葉の真意が分からず、つい聞き返してしまいます。
「その、愛しているというのは、もちろん姉妹としてですよね? 家族愛の話ですよね?」
「ふふっ、そうだね。確かに私は、ファーリを妹として、家族として愛しているよ」
お姉さまの答えに、私は胸を撫で下ろします。
変な意味でなくて、良かったのです。
「でもね、ファーリ」
ん? でもね、って……?
「その一方で、私は君のことを一人の女性としても愛している」
一人の、女性として。
お姉さまの言葉が、頭の中を何度も響いて跳ね返ります。
その意味をよく考えます。
一瞬のうちに何度も何度も吟味して、出た答えは一つ。
「……お姉さまは、私が、好きなのですか?」
「そうだよ。キスをしたいぐらい。肌を重ねて、愛し合いたいぐらいに君が好きだ」
お姉さまが、かなり具体的に好意の種類について説明してくれます。
それでようやく、私の頭も理解ができて、途端に顔が真っ赤に染まります。
「おっ、お姉さまはえっちです!」
「うん、どうしてそういう反応になるのかな?」
困ったように笑いながら、お姉さまは言いました。
「肌を重ねて、とかキスをしたいとか! そ、そんなえっちな要求されても私は応えられないのです!」
「あー、うん。別に今してほしいってわけじゃないから。安心してくれるかな?」
お姉さまに冷静に諭されて、私は少しだけ落ち着きます。
「でも……えっと。なんというか、お姉さまはそういう意味で私のことが好きだったのですか?」
「ああ。ファーリの恋人になりたいと、ずっと思っていたよ」
「それは……いつからなのです?」
「そうだね。気付いた頃には、もうファーリのことが好きだった、って感じかな」
「な、なるほど……」
一つ一つ、説明されるほどに冷静になっていきます。
というか、衝撃的すぎて頭が冷えていく感じでしょうか。
ともかく、私はお姉さまの話をいたって冷静に聞いていきます。
「最初はね、ファーリ。君のことを、ただ守ってあげたいと思ったんだ。姉として、強き者の義務として。けれど君という女の子を見つめ続けているうちに、私の心の中に愛という感情が芽生えたんだ」
とっても恥ずかしい話をされている気がしますが、私は冷静に聞いています。はい。
「私は、君の切なさに恋い焦がれてしまったんだよ。優しくて不器用で、すぐに人のことを好きになる。けれど繊細で、傷つきやすくて、自分に自身がなくて。他人と関わることをひどく恐れていて、まるで生きていることさえ申し訳なさそうにしていた。幼い頃から、君は切ない君だった」
お姉さまの言葉が続くほどに、私は耳まで真っ赤になって、熱くなります。
でも、ちゃんと話を聞きます。冷静に、です。
「私は誰よりも近くで、君の切なさを見つめていた。だからなのかもしれないね。私は君を守りたいと思った。君が生きることを支える杖になりたいと思った。君のための剣になりたいと、強く思った。だから私は、剣を持って戦うことを選んだんだ。王宮の近衛騎士や、軍の将校、指揮官になる道を父上は用意してくださっている。でもねファーリ。私が本当になりたいのは、そんなものじゃない」
私は、冷静に……聞けません! 無理ですっ!
こんな恥ずかしい告白、色んな意味で胸が張り裂けそうなのです!
「君の、君だけの騎士になりたいんだよ。君の人生の伴侶として、君の笑顔に陰る雲を切り裂く剣となって、生涯を添い遂げたい。だから私は修行してきた。父上に師事して、ハンター学園にも入学した。……まあ、今となってはファーリの方が私よりもよっぽど強いみたいだけどね」
お姉さまは最後に、照れたように笑います。
いやいや! そこを照れてる場合じゃないのですよ!




