08 想いと責任
私は、お姉さまに言われたことを頭の中で反芻します。
私がリグと結婚すれば、確実に内乱の火種になる。
そう考えれば、私とリグが婚約したり、恋仲にあると噂されるだけでも危険です。
ただそれだけで、関係の無い人をたくさん巻き込み、犠牲にするかもしれないのです。
「――私は、リグのことを諦めたほうがいいのでしょうか」
私はつい、言葉にしてしまいます。
これが単なる二人の町娘なら、話は違ったでしょう。
でもリグは大公令嬢。私は国の軍事力を支える子爵家の跡取り次女。
リグのことは大好きです。好きで好きで仕方ありません。
でも……もしも私がリグを好きなせいで、たくさんの人が傷つくのだとしたら。
誰かが死ぬような、大きな事件の引き金になってしまうのだとしたら。
私は、リグを好きでいてはならないのかもしれません。
「ファーリ。悪い方向にばかり考えているみたいだね」
お姉さまが、優しい声をかけてくれます。
そして、まるで心の中を見透かしているようなことを言ってくれます。
「別に、好きになっちゃダメだって言いたかったわけじゃない。むしろ、ダメだなんて思っていないよ。何をするかは、ファーリが自由に選べばいいさ」
「自由に、ですか」
「そう。ファーリが好きなように、思うがままにやればいい」
お姉さまに言われて、私は考えてみます。
思うがまま。それは、私にとって、リグと愛し合う未来を望むことです。
でも、それを望んでしまった時、私は誰かが傷つくことを、たくさんの人が死ぬことを自ら選んでしまったことになります。
それが、とても恐いことのように思えてしまい、私の心は竦んでしまいます。
私なんかの為に、誰かに犠牲を強いるなんて、できません。
だって私は、そんな大層な人間じゃないのです。
「ほら、また難しい顔をしてる」
お姉さまは言って、私のほっぺたをむぎゅっと手ではさみます。
「むぅ」
「考えすぎちゃダメだよファーリ。どんな選択をしてもいい。私は、いつでもファーリの味方でいる。たとえ反乱の火種になろうとも、私はファーリのそばにいる。いつでも君を救える場所に立ち続けていてあげるから」
「ん……ありがとうございます」
私は、お姉さまのストレートで熱烈な言葉に、つい気恥ずかしくなってしまいます。
それでも、言ってくれたことは嬉しかったので、ちゃんと感謝の言葉を返しました。
「でも……どうしてですか?」
自然と、私は浮かんできた疑問を口にします。
「お姉さまは、本当なら私とリグの関係を止めるべき立場だと思うのです。なのに、どうして私の味方をしてくれるのです?」
そう。お姉さまも貴族の一員であり、ダズエル家の長女です。
本来なら、国の安定を乱すようなことは選んではいけない立場なのです。
ましてや、私とリグが結婚すれば内乱に繋がると指摘してくれた張本人です。
なのに私の味方を――内乱の火種になる人間の味方をしてくれるというのは、不思議な話です。
「そんなの、簡単な話さ」
お姉さまは爽やかに微笑み、なんでもないように言ってみせます。
「私は、君を愛しているからね」




