表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/320

08 想いと責任




 私は、お姉さまに言われたことを頭の中で反芻します。


 私がリグと結婚すれば、確実に内乱の火種になる。

 そう考えれば、私とリグが婚約したり、恋仲にあると噂されるだけでも危険です。

 ただそれだけで、関係の無い人をたくさん巻き込み、犠牲にするかもしれないのです。


「――私は、リグのことを諦めたほうがいいのでしょうか」


 私はつい、言葉にしてしまいます。


 これが単なる二人の町娘なら、話は違ったでしょう。

 でもリグは大公令嬢。私は国の軍事力を支える子爵家の跡取り次女。


 リグのことは大好きです。好きで好きで仕方ありません。

 でも……もしも私がリグを好きなせいで、たくさんの人が傷つくのだとしたら。

 誰かが死ぬような、大きな事件の引き金になってしまうのだとしたら。


 私は、リグを好きでいてはならないのかもしれません。


「ファーリ。悪い方向にばかり考えているみたいだね」


 お姉さまが、優しい声をかけてくれます。

 そして、まるで心の中を見透かしているようなことを言ってくれます。


「別に、好きになっちゃダメだって言いたかったわけじゃない。むしろ、ダメだなんて思っていないよ。何をするかは、ファーリが自由に選べばいいさ」

「自由に、ですか」

「そう。ファーリが好きなように、思うがままにやればいい」


 お姉さまに言われて、私は考えてみます。

 思うがまま。それは、私にとって、リグと愛し合う未来を望むことです。


 でも、それを望んでしまった時、私は誰かが傷つくことを、たくさんの人が死ぬことを自ら選んでしまったことになります。


 それが、とても恐いことのように思えてしまい、私の心は竦んでしまいます。

 私なんかの為に、誰かに犠牲を強いるなんて、できません。

 だって私は、そんな大層な人間じゃないのです。


「ほら、また難しい顔をしてる」


 お姉さまは言って、私のほっぺたをむぎゅっと手ではさみます。


「むぅ」

「考えすぎちゃダメだよファーリ。どんな選択をしてもいい。私は、いつでもファーリの味方でいる。たとえ反乱の火種になろうとも、私はファーリのそばにいる。いつでも君を救える場所に立ち続けていてあげるから」

「ん……ありがとうございます」


 私は、お姉さまのストレートで熱烈な言葉に、つい気恥ずかしくなってしまいます。

 それでも、言ってくれたことは嬉しかったので、ちゃんと感謝の言葉を返しました。


「でも……どうしてですか?」


 自然と、私は浮かんできた疑問を口にします。


「お姉さまは、本当なら私とリグの関係を止めるべき立場だと思うのです。なのに、どうして私の味方をしてくれるのです?」


 そう。お姉さまも貴族の一員であり、ダズエル家の長女です。

 本来なら、国の安定を乱すようなことは選んではいけない立場なのです。


 ましてや、私とリグが結婚すれば内乱に繋がると指摘してくれた張本人です。

 なのに私の味方を――内乱の火種になる人間の味方をしてくれるというのは、不思議な話です。


「そんなの、簡単な話さ」


 お姉さまは爽やかに微笑み、なんでもないように言ってみせます。


「私は、君を愛しているからね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ