05 遠距離魔法の利点
「さて、次に4番。毒や呪いの無効化だ。これについては言葉通り。毒や呪いによる継続ダメージや即死などを完全に防ぐ。原理については、未だ究明中だ」
リリーナ先生が、王家の血筋の耐性について説明を続けます。
未だに究明中ということは、おそらく世界の根源、コードに深く関係するレベルの話になってくるのでしょう。
後でカミさまに詳しく解説してもらいましょう。
私は自分のノートに『毒や呪いの無効化について、カミさまに訊く』とメモしておきました。
「次が5番。蘇生についてだ。これは言葉通り、戦闘不能状態から蘇生するということだ。つまり王家の方々は、ライフが0になっても戦闘不能にならない。これも原理については未だ解明されていない状態だ」
えぇ……蘇生って、強すぎませんか?
そもそもライフ0にならない上に、もし奇跡的にライフ0になったり、何らかの方法で戦闘不能状態にしても、それが無かったことになるなんて。
そんなの、倒せないじゃないですか。
王家、こわい。
「さて、最後の6番についてだが、これはとても重要な考え方だ。恐らく、君たちも今後利用していく技術となる」
リリーナ先生は、ここに来てより強調するような口調で説明し、注目を集めます。
それだけ6番の『全ての攻撃行動が遠距離魔法化している』というのが重要だということでしょう。
私は、よりいっそう注意深く耳を傾けます。
リグもまた、私の頭を撫でながらも、集中しているようです。手櫛の動きが遅くなります。
「全ての攻撃を遠距離魔法で行うことに、何の意味があるのか。恐らく諸君はそう思っているだろう。そこで、まずは遠距離魔法とそれ以外のあらゆる攻撃の違いを説明する前に、一つ前提知識を説明しなければならない」
リリーナ先生は言いながら、生徒の全体を見回します。
「それは、カウンターという技術についてだ。例えば、有名なカウンター技として無属性魔法『ミラーフォース』が存在する。相手の攻撃を受けた時、衝撃波を放って攻撃をやり返すバリアを生み出す魔法だ」
カウンターという言葉に、私はぴくりと反応します。
ゴーストピアスを習得する時に、カミさまから説明された話の中にも、カウンターという言葉は出てきていました。
けれど、その時の私はなんとなくでしか話を理解していませんでした。
当然、今もカウンターについて詳しい知識はありません。
これは、聞き逃がせない話になってきたのです。
「ミラーフォースを直接攻撃すると、身体の自由を奪われ、衝撃波に吹き飛ばされることになる。経験がある者はここには居ないだろうが……この時、身体の自由を奪われる、というのが重要だ。ステータスに関わらず、攻撃がヒットすれば必ず自由を奪われる。例外は無い。アーマーであろうと、無敵であろうと一緒だ。しかも、例え無敵であっても衝撃波によって吹き飛ばされ、ダメージを受けることになる」
リリーナ先生の説明で、教室の中が少しざわつきます。
たとえ無敵であってもダメージを受ける。それは、これまでの授業から得た知識では考えられない事態なのです。
もちろん、私はそれについては知っていました。驚きはありません。
ですが、新しく得る知識もありました。
コードとしてどのように働いているか、については既に知識がありました。
ですが、カウンターという技術がそもそもどのように使われているか、等という前提知識はすっぽり抜けています。
なので、こうしてリリーナ先生から基礎を学ぶことで、私は自分の力をより詳しく理解できたのです。
少しも話を聞き漏らさないよう、私はいっそう集中して話を聞きます。
「そこで話を戻すが、遠距離魔法と通常の攻撃の違いだ。それが顕著に表れるのが、このカウンターに関してだ。例えばミラーフォースにブリッツを打ち込めば、ブリッツは消滅し、衝撃波が飛んでくる。だが、ブリッツを撃った本人の身体の自由までは奪われない。この意味が、分かるかな?」
先生が、生徒を見回します。
それに応じるように、私の後ろでリグが挙手しました。
「どうぞ、リグレット君」
「はい。自由を奪われないのであれば、たとえ衝撃波を跳ね返されたとしても、アーマーや無敵は有効なままである、ということかと思いますわ」
「正解だ」
なんと、リグはあっさりと正解に辿り着きました。
すごいのです。
私はカミさまから教えてもらった知識のお陰で答えは分かっていましたが……リグにはそれが無いのに、答えを導き出しました。
はうぅ……ますます好きになっちゃいます。
私は勝手にドキドキする心臓をごまかすみたいに、リグの胸にぐりぐり、と後頭部を押し付けます。
「リグレット君が答えてくれたように、遠距離魔法はカウンターを取られても身体の自由を奪われない。つまり無敵が有効であり、ダメージを受けないということだ。ここまで言えばもう分かっている者も多いと思うが……つまり、遠距離魔法はカウンターを取られるリスクが無い、安全な攻撃ということになる」
安全な攻撃、という言葉に納得します。
カウンターを取られたら、場合によっては無敵でも即死します。
ならば、カウンターを取られない攻撃というのは即死のリスクが無いと言えます。
その安全性は天と地ほどの違いがあるでしょう。
「さて、ここでまた話を戻そう。6番の意味するところ、つまり全ての攻撃を遠距離魔法で行うというのは、例えば打撃攻撃でさえ遠距離魔法化しているということだ。こうなれば、もうどんな攻撃行動を行っても相手にカウンターを取られる可能性は無い。しかも王族は常時無敵だ。例えカウンターを使っても、一切ダメージを受けるは無いということになる」
リリーナ先生の説明を受けるほどに、私は感動していました。
無敵は、それだけならただの無敵です。
レリックアーマーは、それだけならただのバリア。
全ての攻撃が遠距離魔法であっても、それだけではただカウンターを取られないだけ。
ですが、そういった一つ一つの要素が組み合わさることで、より高いレベルの耐性が発生しています。
無敵とレリックアーマーで偽装が成立します。
無敵と全攻撃の遠距離魔法化で隙の無い耐性が生まれます。
色んな要素の組み合わせによって、想像もしなかったような効果が得られる。
これが、私にはとてもすごいこと、面白いことに思えて、胸が熱くなります。
強くなるために勉強をしているつもりでした。
でも、知れば知るほど、この世界の仕組みは奥深くて、面白いです。
私はいつの間にか、背中のリグの体温すら忘れてしまうほど、リリーナ先生の授業に熱中していました。




