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異世界転生してもステータスはそのままでって言ったのですが!?  作者: 桜霧琥珀
序章 ファーリ、転生を自覚する
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14 旅立ち




 パパの体調は、その後一週間ほどで完全に回復しました。

 治癒の魔法を扱える衛生兵がいたこと、優秀なお医者様がいたこと、そしてパパ自身の身体の屈強さ。それらのお陰で、回復は思いの外早く済みました。


 その間、私はパパとよく話し合いました。

 ハンター学園――正確には、聖ヴェルベリア王立ハンター学園。そこに入学するための手順について。


 これは修行の為に向かうのです。私は、家の力を頼りにしてはなりません。

 ですから、学園に向かってお屋敷を出たその瞬間から、私はダズエル子爵令嬢ではなく、ただの『ファーリ』になります。

 そして、ただの『ファーリ』は王都までの道のりを自力で踏破し、自力でハンター学園の入学試験に合格してくることになります。


 要するに、自分の身一つで修行をしてこい、というのです。



 過酷に思われるかもしれませんが、実はそうでもありません。

 昔から、ダズエル子爵家というのは子供に対してこんなものです。

 実際、現在16歳の姉もダズエル子爵令嬢という身分を隠し、既に聖ヴェルベリア王立ハンター学園の入学試験を受け、合格しています。


 私もまた、姉と同様のことをやるだけなのです。

 ……10歳の身、というのは少々珍しいことなのですが。


 ただ、私もダズエル家の次女です。生き残る為の最低限の知識は持ち合わせていますし、剣術の腕前もほどほどの自信があります。

 加えて、魔法の才能まで飛び抜けているようです。

 前世の記憶を取り戻したこともあって、妙に頭がよく回る感覚もあります。

 身一つとはいえ、すぐとなりの王都に向かうぐらい、どうということは無いでしょう。



 と、いうわけで。

 現在、私は一人、王都まで徒歩5日の距離を歩き始めたわけなのです。


「……むう」


 私は、困って唸り声を上げてしまいます。

 というのも、後ろから一人、ついてくる人がいるからです。


 それは白髪赤目の少女。カミさまです。

 何やら気まずそうに、きまりの悪い表情のまま、じっと私の後ろをついてきます。

 お屋敷を出てから半日ほど経った頃でしょう、何かを言いたげに現れましたが、それからずっとこうしています。


 ……なんだか、こっちまで気まずくなってきます。

 先日は、つい感情的になってしまい、カミさまを責めるようなことを言ってしまいました。

 でも、それはお門違いというものだったと、今では思います。


 そもそも、強い力を持ってしまい、調子に乗ってパパに全力でぶつかっていった私が悪いのです。

 パパなら私の全力ぐらい、平気だろうという思い込みが起こした出来事だったのです。

 ですから、パパのことに関して言えば、カミさまに怒るようなことは何も無かったとも言えます。


 でも、カミさまが色々隠し事をしていたこと、そして望んだ通りの転生が全く出来ていなかったことの鬱憤もあって、つい感情のままに怒ってしまいました。


 ……いえ、今でも隠し事や転生については怒っています。

 ですが、やはりパパのことは私の責任です。

 それについてカミさまを責めたのは、やっぱり間違いだったように思えてきます。


 ……ちゃんと、あやまりましょう。

 そう考えて、私は足を止めます。


「……っ」


 カミさまは、急に立ち止まった私に驚いたように息を飲んで、一緒に立ち止まります。

 私はカミさまの方を振り向き、言うべき言葉を放ちます。


「……ごめんなさい、です。カミさま」


 私は頭を下げました。


「えっ、な、何!? 急にどうしたのユッキー……? そんな謝るようなこと、ユッキーは何もしてないでしょ?」

「いいえ。私、考えたのです。パパのことはやっぱり、全部私に責任があると思います。私が勝手に興奮して、パパを傷つけたのです。そのことで、カミさまを責めてしまったのは間違いでした」

「それは違うよ! ユッキーは自分の力がそんなに強いなんて知らなかったんだから、私が最初に説明しなきゃいけなかったんだよ。それに、説明してたらあの事故は防げたはずで……。こうして、ハンター学園に一人で送り出されるようなこともなかったはずなんだよ。本当なら、今もパパと一緒に、平穏な貴族生活が出来ていたはずなのに……」


 カミさまの言い分を聞いて、なるほど、と思いました。確かにそういう考え方もできます。

 しかし、もしも、というのはありません。

 カミさまの勝手で望まない形で転生させられ、重要なことを秘密にされて、大切なパパを傷つけてしまいました。

 でも、私が起こしたことは私の責任なのです。


 わたしはカミさまにズカズカと近寄ります。

 そして、カミさまのほっぺたを両手でむぎゅっと挟み込みます。


「みゅうっ!?」

「いいですか、カミさま。私は、秘密にされたことを怒っています。でも、パパのことは怒っていません。こうして望まない形で転生したことも、それほど怒っていません。今の私には今の家族があり、生活があり、それを大切に思っています。ですから、カミさまには勝手に気に病んでほしくないのです」

「でもひょれは……」

「悪気があるのなら私の言うことを聞くのです!」

「ひゃっ、ひゃい!」


 私は語気を強めて、無理やりカミさまに言うことを聞かせます。


「そんなに反省したいのなら、私に秘密を作ることを反省するのです。そして、これ以上は私に秘密を作らない。それを約束するのです。それで、全部許します」


 言って、私はカミさまのほっぺたから手を離しました。カミさまの、答えを聞くためです。


「……わかった、できるだけ秘密はつくらないことにするよ」

「できるだけなのですか~~!?」


 私はカミさまのほっぺたをまた両手で挟みます。


「ぐりぐり攻撃ですっ!」

「ひゃふぇふぇぇ~~~~~っ!」


 両手でほっぺたをぐりぐりこね回して、カミさまをイジメてやります。私が満足するまでぐりぐりしてから、また手を離します。

 カミさまは困ったような顔をしていました。


「あのねユッキー。私、これでも神だからね? 色々制約というか、言っちゃダメなことがたくさんあるんだよ?」

「むう、それを言われると困っちゃうのです」

「だから、秘密をつくるなってのは無理。でも、ユッキーにはできるだけ秘密は作らない。ユッキーが知ってもいいことなら、何でも話すし、嘘もつかない。約束するよ」

「うーん、それなら一応、私の条件どおりとも言えるのでしょうか」


 私は首を傾げながら、考えます。


「……まあ、いいのです。細かいことは気にしない方向でいきましょう」


 私は怒っていた原因がたぶんおおよそ取り除けます。そしてカミさまも、秘密を作らないことで罪の意識を軽くできることでしょう。

 万事オッケー。何も悪いことはありません。


「それではカミさま。これからよろしくなのです」


 私は、カミさまに握手を求めて右手を差し出します。


「うん、よろしくねユッキー♪」


 カミさまは私の手を握り返してくれました。

 これで、カミさまとは仲直り。

 心置きなく、ハンター学園の入学試験に向かえるというものです。

ようやく本編がはじまります。


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