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46 芽生え




「どうしたのです、ファーリ? にやにやと一人で笑って。みっともないですわよ?」


 私の隣を一緒に歩く、リグがそう声をかけてきます。

 どうやら、考え事をしているうちに表情に出てしまっていたようです。


「いえ、なんでもないのです」


 私は頭を振って気を取り直し、リグに微笑みかけながら言いました。

 今はちょうど、授業が終わって寮に帰る道すがら。

 すれ違う人の視線もありますから、確かにニヤニヤと一人で笑っているのはみっともないかもしれません。


 そんなみっともない姿を見せるのは、あんまり良くないのです。

 特に、リグには見せないほうがいいのです。



「ほら、早く帰りましょう、リグ?」


 私は、そう言って――リグの手を、握りました。

 普通の握り方じゃありません。


 指を絡めて、手の平を合わせて。まるで恋人同士がやるような形で、手を繋ぎました。

 途端に、リグは驚いて顔を赤くします。


 でも、拒否はしません。

 嬉しそうに微笑んでくれます。


「そうですわね。早く帰って、ファーリをかまって遊んであげないといけませんもの」


 言いながら、私に優しい表情を向けてくれるリグ。

 そんなリグが、私はとてもかけがえのない存在のように思っています。



 ――ケントちゃんとライゼンさん改め、カティちゃんとリーゼさんを見ていて、私はあることに気付きました。


 恋人同士となって、お互いを尊重して、心の深い部分で繋がり合う。

 そんな二人の関係を、私はとても羨ましく思っていました。


 でも、なぜ羨ましく思うのでしょう?


 私は考えました。

 答えは簡単です。私も、そんなふうに誰かと繋がりたいと思っていたからです。


 前世の私は変な奴で、親しい友人もろくに居ない、寂しい人生を送っていました。

 寂しい。悲しい。寒い。一人はいやだ。

 誰かに触って欲しい。誰かに分かって欲しい。


 今にして思えば、そういう気持ちはずっと私の中にあったように思います。



 では私は、いったいどこの誰とそんな関係になりたいと思っているのでしょう?


 触ってもらって、分かってもらって、心も身体も暖かくしてくれる、幸せにしてくれる、そんな役目を、どこの誰に求めているのでしょうか?



 いえ、考えるまでもないことでした。

 答えは明らかでした。


 ――リグ。

 私の、初めてのお友達。

 一番のお友達。

 私は、他でもないリグとこそ、深く繋がり合いたいと思っていました。



 それはつまり、私は、リグとの関係をカティちゃんとライゼンさんのような段階まで進めたいと感じていることであって。


 もっと単純に言えば――私、ファーリ・フォン・ダズエルは、リグレット・ベーゼ・クラウサスと恋人同士になりたいと思っているわけなのです。

ついに……ついに! ファーリちゃんが! 恋心を理解しちゃいました!!!



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