35 交換条件
その後、私は十数分ほどかけてアイディアについて説明をしました。
「――なるほど。吾輩としては問題ない。むしろ、いたれりつくせり、といったところであるな。これ以上の提案は無いであろうな」
私が説明したアイディアについて、ライゼンさんは頷きました。
「……まあ、今年の給与査定には期待しない方向でいこう」
そう言って、リリーナ先生が賛成の意思を示してくれます。
今回の提案で、唯一損をするのがリリーナ先生です。
けれど、認めてくれたみたいで助かりました。
なんだかんだで、リリーナ先生もいい人なのです。ライゼンさんのような人の話を聞くと、無視できないタイプなのでしょう。
「それで……ケントちゃんはどうなのです? 覚悟はありますか?」
そして、私はケントちゃんに問いかけます。
ケントちゃんは、今までの生活を捨てることになります。
貴族としての地位。そして、贅沢な暮らし。
きっと、大変なことがたくさんあると思います。
それでも、私はケントちゃんは覚悟するべきだと思います。
私にとって、リグが大切であるように。
ケントちゃんも、自分にとって何が一番なのか、よく考えなければいけません。
そして考えれば、きっと答えは一つしかありえないのです。
「――俺は、貴族だ」
ケントちゃんは、しっかりとした声で言います。
男の子だった頃みたいな、偉ぶった口調じゃありません。
自分に自惚れているような、濁った瞳ではありません。
「貴族たるもの、決定に責任を持つのは当然だ」
たった一日、いえほんの数時間で、ケントちゃんは変わったと思います。
きっと、これが覚悟を決めた人間が起こす奇跡なのでしょう。
「そして俺は、帰らないと決めて、ライゼンと共にいる方を選んだんだ。この責任は、取り続ける。これからも、ずっとだ」
つまり、ケントちゃんも私の提案に賛成というわけです。
「よし。それでは、決まりですね!」
私が言うと、ライゼンさんがこちらを向いて頭を下げます。
「何から何まで、助かる。ファーリ殿よ、そなたには感謝してもしきれんな」
「頭を上げてください、ライゼンさん。じつは、タダで助けるというわけじゃないのですから」
「……なに?」
突然の私の言葉に、ライゼンさんは驚いたように、そして疑うような視線をこちらに向けてきます。
ケントちゃんまで、私を睨んでいます。
「どういうつもりだ、貴様!」
ケントちゃんを怒らせてしまいました。
「まあまあ、そんなに怒らないでください。私はただ、シンプルな報酬を要求するだけなのです」
「ほう。吾輩にこれ以上何を要求するというのだね?」
ライゼンさんは、面白いものでも見るように私へ問いかけます。
そして私は、自信たっぷりに答えます。
「それは――ライゼンさん。貴女と、手合わせをしたいのです!」




