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33 ライゼンの真実




 ケントちゃんの胸の中(そのままの意味)で十分に泣いたライゼンさんは、ケントちゃんに真実を教えて欲しいと頼み込まれた結果、全てを話してくれました。


 それは、思いもよらない話――ライゼンさんが二十年前、街を滅ぼしたのではなく、むしろ被害者であったという話でした。


 当時、ライゼンさんはここからは遠い小国の伯爵であり、小さな領地を治めていたそうです。

 ある時、ライゼンさんは領地の片隅にある農村から奇妙な依頼を受けました。

 それは、ライゼンさんの死霊術で死者を操り、労働力を増やして欲しい、という依頼でした。


 奇妙に思ったライゼンさんは、村に直接赴きました。

 村長いわく、不作に重ねて若者がモンスターに襲われ負傷し、今年の作付けが厳しいものになるとのこと。

 不作はともかく、労働力が無ければそもそも農業を行えず、怪我をした若者も、老人や子供までもが飢えて死ぬことになる。

 そこで、領主たるライゼンさんの死霊術で既に死した者たちを呼び起こし、労働力として使役できないか、という話だったそうです。


 村を見捨てるわけにも行かず、ライゼンさんは不作の村の為、アンデッドを労働用に使役する為の魔法を開発することにしました。

 ただし、使用は今回だけ。そして、対象は村の墓地にある死体のみ。

 そして、すべてが終われば死体は英霊として祭り、その魂を癒やし、怨念をよく祓うこと。

 これらを条件としました。


 数日の不眠不休の作業の末、ライゼンさんは魔法を完成させました。

 そして翌日、村で魔法を行使するため、その日は領主館で眠りにつきました。


 しかし、それがいけませんでした。


 ライゼンさんが作った魔法に、村の人間は欲を出してしまいました。

 領主だけではなく、自分たちでも魔法を使いたい。

 そうすれば、今回の危機を乗り越えるだけでなく、来年も、再来年も楽ができる。


 そこで村の人達は、ライゼンさんと同じく闇の魔法適正が高かった魔術師崩れの男を使い、ライゼンさんの作った魔法の術式を盗ませたのです。


 しかも、欲はそこで留まることを知りません。

 アンデッドを作るなら、村よりも領主館のある領都で。

 その方が、たくさんの労働力を得られるから。

 そういった理由で、ライゼンさんから盗まれた魔法は領都で使用されることとなりました。


 しかし……そもそも、ライゼンさんの作った魔法は難解なものでした。

 そこいらの魔術師崩れの男では、とうてい真似が出来ません。


 本来なら、意味を成さない術式になって終わっていたところですが……間違った術式は、奇跡的に意味を無し、本来の目的とは異なる方向で発動しました。


 アンデッド使役の魔法は、一定範囲に存在する、保存状態の良い死体に仮初めの魂を植え付け、その魂に刻まれた情報通りに動くアンデッドを生み出す魔法でした。

 しかし、間違った術式では、一定範囲に存在する人間の魂から、魂を半端に剥ぎ取り、残った魂だけで動くアンデッドを生み出す魔法となっていました。


 つまり――領都にいた人間は、魂から労働や勤勉などの性質だけが剥ぎ取られ、食欲などの欲望だけに突き動かされるアンデッドと化してしまったのです。


 この魔法により、領都は壊滅。すべての人が危険なアンデッドへと作り変えられてしまいました。

 生き残ったのは高い闇魔法耐性を持っていたライゼンさんと――術者本人だけでした。


 ライゼンさんが気づいた頃には、すべてが手遅れでした。

 何が起こったのか、アンデッドを見ておおよその予測をつけました。

 そして領都にひっそり隠れ逃げ延びていた術者を見つけ出し――すべての真相を聞き出した後、禁呪とも言える魔法を知っている男を生かしておくわけにもいかず、その場で殺したそうです。


 その後のライゼンさんは、周囲の人々に恵まれませんでした。

 農村の人々の根回しにより、ライゼンさんは「満足な税を収めることのできない民に対して怒りをぶちまけた悪しき領主」として既に噂が広まっていました。

 元より、ライゼンさんは政治がうまくなくて、魔法で物事を無理やり解決するタイプだったそうです。

 しかも死霊術の使い手というのもあって、誰もライゼンさんをかばうことはありませんでした。


 領地では民を虐殺した男として罵られ、真実を王に訴えたところで、証拠不十分として相手にされず。

 しかも、死霊術使いという負の印象が、領都の惨状はライゼンさんの手によるものであるという噂を助長しました。


 ライゼンさんは、為す術無く犯罪者として、国を追われることとなりました。

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