32 ライゼンの涙
「……いやいや待て待て! ケント君、いかにも相思相愛みたいな雰囲気でごまかそうとしているが、そもそもそこのライゼンシュタイン伯爵は街一つを滅ぼした凶悪犯罪者だぞ!? そんな奴のところに置いておくわけにはいかん!」
イチャイチャしだしたケントちゃんとライゼンさんに向かって、リリーナ先生が声を上げます。
そういえば、忘れていました。
ライゼンさんがあんまりにも無害なので、つい普通の魔法使いのようなつもりで接していました。
いや、普通じゃありませんね。ただの変態ですね。
ともかく、ライゼンさんは危険人物です。
ノリで二人を祝福していましたが、よく考えれば、ヤバイですね。
凶悪犯罪者と貴族の一人息子。いや、娘? どっちにしろ、本来ならくっつけてはならないはずです。
「ですがリリーナ先生。このケントさんを供物として捧げておけば、ライゼンシュタイン伯爵は危険な活動を当分自粛するのではありませんかしら?」
突然、リグがリリーナ先生に提案します。なにげにケントちゃんを供物扱いして酷いのですが、言っていることはおおよそわかります。
つまり、恋人がいるうちは大抵のことがハッピーになるので、いちいち悪さはしないだろう、という考えです。
「いや、そういう問題ではなくてだね……学園の生徒の身柄を凶悪犯罪者の下に預けておくこと自体に問題があるのだが」
しかし、リリーナ先生は一歩も引きません。いえ、教員としてはそもそも引く選択肢が存在しないのでしょう。
困りました。ケントちゃんとライゼンさんが結ばれる上での最後の障害が、まさかリリーナ先生だったとは。
「……ふん、好きに呼ぶがいい。吾輩を貴様らがどのように呼ぼうが、吾輩にはケントがおる。ケントが吾輩を信じてくれる限り、貴様らにどのような汚名で呼ばれようが構わんさ」
ライゼンさんの目つきが鋭くなります。最初に会った時のような、どこか冷たい目。
初対面であれば、ライゼンさんには敵意があるのだ、と視線だけで判断していたでしょう。
ですが、今はどうにもそう思えません。
ライゼンさんは少年を拉致して女の子に調教して自分の嫁にする変態変質者ですが……でも、温かみのある普通の人でした。
街一つを自ら滅ぼすような、そんな冷酷な犯罪者だとは思えないのです。
「……そうか」
すると不意に、ケントちゃんが何かに納得したように頷きます。
「ライゼン。お前も――裏切られたんだな」
そう言って、ライゼンさんの頬に手を添えました。
すると――ライゼンさんの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちます。
「あ――ケン、ト」
そして、ライゼンさんは嗚咽を漏らしながら、ケントちゃんの胸に顔を埋めたのでした。
ケントちゃん、男をみせました!(女の子になっちゃってるけど)
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