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29 そもそもの始まり




「あー……ともかくだ。私は王立ハンター学園の教員として、ケント君を保護し、安全に王都へ連れ帰る義務がある。というわけでケント君の身柄を引き渡してくれないか、ライゼンシュタイン伯爵よ」


 なんだか弛緩しきってしまった雰囲気の中、リリーナ先生が当初の目的を果たそうと発言します。


「それは困るな、お嬢さん。吾輩は、このケントを嫁として貰い受ける為に女体化したのだ。身柄を引き渡すことなどありえん」

「なっ!?」


 驚きのあまり、リリーナ先生は声を上げます。そして、ライゼンとケントちゃんを交互に見ます。


「本気か? ケント君」

「本気なわけないでしょう! これだから下賤な平民は! 俺はこの男によって勝手に女体化され、嫁にされようとしているんです!」


 ふむふむ。なんだか状況が混然としてきたのです。

 そろそろ、情報を整理したほうがいいかもしれません。


「あのー」


 私は、手を上げて発言します。


「そもそも、ライゼンさんはなぜケントくんをさらったのですか?」

「ほう、どうやら吾輩とフィアンセの馴れ初めに興味があるようだな?」


 いえ、ありませんけど。私は曖昧な笑顔を返してお茶を濁します。


「そもそも、吾輩は二十年前の事件以後、姿を隠して各地を転々としておった。ここ一年ほどは、この森に住んでおってな。隠れ住む生活というのは中々に退屈で、暇つぶしにモンスターの研究を行って品種改良を施したり、これまでに無い性能の新たなモンスターを戯れに生み出したりしておった」

「それって……もしかして、集団行動するサイクロプスとかも含まれます?」

「む? もしや既に遭遇しておったのか。そのとおりである。吾輩がちょいと脳をいじる実験を施した結果、サイクロプスのくせして好戦的で集団生活を好むようになってしまったのだ」


 ばっちり黒幕です。どうやら、あの異常行動をするサイクロプスの原因もライゼンさんにあるようです。


「しかし、研究や実験だけでは暇をつぶすにも限界があってな……端的に言えば、伴侶が欲しかったのだ。吾輩の退屈な逃亡生活を支えてくれる、良き伴侶を欲していた」


 なるほど。確かにひとりぼっちの生活は寂しいものでしょう。

 私も前世では、大学時代は一人暮らしでした。人肌恋しくなったこともありました。

 まあ、彼女なんていなかったのですが。


「そして運命の今日! 吾輩の住処に近づく者に警戒するよう配置しておった濃縮オリハルコンゴーレムからの報告があった。そして吾輩が遠見の魔法で確かめてみれば……そこにケント少年がおったのだ」


 ライゼンさんは、妙に暖かくて優しい視線をケントちゃんに向けます。


「吾輩が求める最良の伴侶は、日常を退屈せずに過ごせること。そのためには、性格が何より重要じゃ。こやつほど気位が高く、自分勝手で無茶で無謀で愚かな人間などそうはおらん」

「おいライゼン!」


 ケントちゃんが怒りの声を上げます。が、ライゼンさんは無視して話を勧めます。


「これほど愉快な精神を持つ人間であれば、共に生活する日々はどれだけ愉快なものになるのだろう、と思うと居ても立ってもいられなくてな。さっそくゴーレムにこやつをさらわせて、吾輩の好みに合わせて女体化させたのだ」

「ふむふむ、このおっぱいもライゼンさんの好み、と」

「いや? それはこやつの腹の脂肪が余ったからくっつけただけに過ぎん。吾輩はおっぱいよりもケツ派だ」


 よけいな質問をしてしまったせいで、知りたくもなかった情報を得てしまいました。


「つまりまとめると、ライゼンさんはお嫁さんが欲しくて、たまたま森で見かけた少年を拉致して女の子に調教しようとした、ということであってます?」

「そうなるな」

「変態なのです!」


 私はつい、本心からくる暴言をライゼンさんに吐き捨ててしまいました。


「吾輩はどう呼ばれようと構わぬ。どうせ、既に犯罪者の烙印を押された身だ。しかし、吾輩が見初めたケントだけは譲る訳にはいかない。ケントは、吾輩のすべてなのだ」

「ら、ライゼン……」


 私の視界の隅でケントちゃんが顔を赤らめさせているのが見えます。

 これは……もしかして、脈アリなのでは?

ライゼンさん……嫁を錬成とは、いい趣味してんじゃねぇかよ……


ところで評価ポイントが1000ptを越えました! うれしい!

これもお読みいただいているみなさまのおかげです! ありがとうございます!

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