26 いよいよ黒幕登場
撃破した濃縮オリハルコンゴーレムは、なんと獲物としてストレージに保管することが出来ました。
どうやらゴーレムは非生物なので、戦闘不能状態であればストレージに保管できるようです。
生物の場合は、しっかり死亡していなければ保管できないのですが。
ゴーレムも撃破したので、いよいよケントくんの捜索再開です。
意気込んで、全員が森のさらなる奥地へと入り込もうとした時のことです!
「ふむ……吾輩が丹念に作り上げた特製の濃縮オリハルコンゴーレムが撃破されたのを感知して来てみれば……これはなかなか、美しいお嬢さん方が捕まったものであるな」
男性の声が響きます。
驚いて、私たちは声のした方向を見ました。
そこには――不気味な男が、年頃の女の子をお姫様抱っこでかかえた状態で宙に浮いていました。
男の外見は、黒髪に黒目。ファンタズムでは比較的珍しい外見です。
そして肌は病的なほどに青白く、痩せこけていて、若いのか年老いているのか判別しづらい顔立ちをしています。
さらにはフード付きの黒いローブを羽織っており、よけいに怪しい雰囲気が増しています。
男に抱きかかえられた女の子は、きらびやかな純白と薄い水色のドレスを着た、茶髪のショートヘアの女の子でした。
あと、おっぱいがやたらと大きいです。メロンかよ、と言いたくなるほどのサイズです。
顔立ちはどこかで見たことがあるような気もするのですが、どうにも思い出せません。
「貴様、何者だッ!?」
リリーナ先生が男に怒鳴りつけます。
見るからに怪しい相手。そして、男が抱きかかえている女の子は、見るからに嫌がっています。逃げ出そうと必死にもがいていますが、男の力が強いせいなのか、びくともしていません。
まあ、様子から察するに、この男が悪い奴だっていうのはすぐに分かりました。
「ふふっ、吾輩のことを知らぬとは……ふむ、存外20年という月日は長いものであるのだな」
言うと、男はゆっくりと浮遊する高度を下げつつ、私たちの方へと近寄ってきます。
私も含め、全員が男を警戒して武器を構えます。私も当然、エクスコルドを呼び出し、先程習得したばかりの全属性合成魔法による刃を生み出します。
「ならば教えてやろうではないか。吾輩の名はライゼンシュタイン伯爵。親しみを込めて、ライゼンと呼びたまえ」
「なにッ!?」
リリーナ先生が驚きの声を上げ、一歩後ずさります。
「先生、ライゼンシュタイン伯爵とは、いったい何者ですか?」
お姉さまが、警戒を緩めずリリーナ先生に訊きます。
「ライゼンシュタイン伯爵……通称『漆黒のライゼン』だ。死霊魔術の研究者であり、二十年前にとある街を一つ滅ぼして姿を消した、国際指名手配犯だ。指名手配前はSランクハンターとしても活動していた男だよ。まさか、こんなところで遭遇するとは」
Sランクハンター。その言葉を聞いて、全身にいっそう緊張が走ります。
そのランクから察するに、おそらくこの場の誰よりも強いはずです。
そんな男、ライゼンは既に私たちの眼の前まで迫ってきているのです。
既に逃げるタイミングは逸してしまいました。
闘争するにしても、交戦して隙を作らなければなりません。
戦いは避けられそうにありません。
「して、可憐なお嬢さん方。なぜこのような森の奥地に足を踏み入れたのかね? この辺りはモンスターが強いわりに、素材としての価値は低い。ハンターにとって旨味の少ないエリアかと思うのだが?」
「私の大切な……うむ、一応大切な生徒が行方不明となっているのでね。そいつを探しに来たんだ」
リリーナ先生にまで、一応と言われてしまうケントくん。なんだか、ちょっと可哀想な気がしてきました。
「一応とはなんですか、一応とは!」
ライゼンが抱きかかえる女の子にまでツッコミの言葉を入れられてしまうレベル。
ああ、あわれケントくん。君の扱いは、この場の誰もがわりと軽視しているようです。
でも、見ず知らずとはいえ女の子が一人、味方してくれるようですよ。
よかったですね、ケントくん。
どこに居るのか知りませんけど。




