22 理論上撃破可能、しかし実際は?
緑色のゴーレムを見て、最初に反応したのはお姉さまでした。
「あの色は……オリハルコン? いや、けれどオリハルコンはあんなに深い緑色ではなく、もっと青みの混じった、薄い翠の金属だったはず……」
言いながらも、お姉さまは剣を構えます。
「クエラ君、鋭いな。そのとおり、あれはオリハルコンゴーレムだが、ただのオリハルコンではない」
言いながら、リリーナ先生は拳を構えます。どうやら、徒手空拳で戦うスタイルのようです。
アンネちゃん、リグ、そして私も臨戦態勢をとります。
ゴーレムはまだこちらを攻撃してくる様子は無く、じっとこちらを観察するみたいに佇んでいます。
「実は、オリハルコンという物質は、正確に言えば金属ではない。金属的な性質を持つ宝石、と言うとかなり近い。そして更に言えば、固体ではない。スライムのような、ゲル状の物質なのだよ」
相手が動かないのを知って、リリーナ先生は敵の情報について詳しく語りだします。
「オリハルコンは硬い金属だと言われているが、実は柔らかい。が、復元性能が極めて高く、例えば刃で斬りつけたら、その分切り込みが入るが、入った瞬間からその切込みが復元されて埋まってしまう。つまり、傷が付いていない状態に一瞬で戻ってしまう。だから、実質的には硬いと言える」
「それは、初耳です。希少金属であり、滅多に産出しないということは知っていましたが……」
「そうだろうな。これは最先端の研究で分かったことだ。そしてここからが最も重要なのだが、オリハルコンはゲル状の物質故に、その成分を濃縮したものを作ることができる」
リリーナ先生の言葉を聞いて、私は嫌な予感がしてしまいました。
オリハルコンは薄い緑色。
そして、相手は濃い緑色のゴーレム。
「オリハルコンの復元能力を高め、濃縮することで硬さも増した物質。それが、濃縮オリハルコンと呼ばれるものだ。……まさか、王都の研究室の外でお目にかかるとは思ってもみなかったがね」
嫌な予感は的中しました。
敵はつまり、その濃縮オリハルコンで作られたゴーレムということです。
私は念のため、スーパーサーチでゴーレムのステータスを確認します。
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濃縮オリハルコンゴーレム
ライフ:92876534276321
パワー:1892
攻撃力:674
防御力:4258
魔法力:439
敏捷性:341
技能:復元(S)
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ヤバイ。本能と理性の両方が訴えかけます。
ライフが常識外れの数値を弾き出しています。
その上で、防御力もかなり高いです。
濃縮オリハルコンなのですから、金属としての硬さがあるからこその防御力なのでしょう。
そして、復元の技能。
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復元:攻撃の終了した瞬間に、ライフを最大まで回復させる。
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アホです。狂っています。
「ファーリ、スーパーサーチは使ってみまして?」
リグに問われて、私は頷きます。
「アレの防御力は4000を越えています」
「思いの他良心的だにゃあ」
「ですが、ライフが90兆を越えています」
私が言った瞬間、全員の視線がこちらに集まります。
「はは、いったい何ヶ月攻撃し続ければ倒せるのだろうね」
リリーナ先生が呆れたような乾いた笑いを漏らします。
ですが、絶望はそれだけではありません。
「いえ、正確には不眠不休で数ヶ月、といったところなのです」
「なに? どういうことだ」
「奴の技能に、復元というものがあるのです。奴は、攻撃が一瞬でも途切れたら一瞬でライフが最大まで回復するのです」
私の言葉に、全員が頭を抱えます。
「なるほど。つまりあのゴーレムは、一瞬の途切れもない攻撃を数ヶ月不眠不休で当て続けることで撃破できる程度の耐久性能を持ったモンスターというわけだな?」
「はい。理論上は、撃破可能な相手なのです」
私は、あえて冗談めかして言います。現実があまりにも厳しくて、冗談でも言わないとやってられないのです。
「しかし、現実の我々は多少の睡眠を必要とする。奴も黙って攻撃を食らってはくれないだろう」
「事実上、撃破不可能なモンスター、ということですわね?」
リグに問われて、リリーナ先生が頷く。
さあ、どうやって濃縮オリハルコンゴーレム君を倒すのでしょうか!?
お楽しみに!
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