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21 未知との遭遇




 森を5人で駆け抜けていきます。先頭はリリーナ先生です。その後にアンネちゃん、クエラお姉さまが続いて、私とリグが最後尾です。


 走りながら、お姉さまが話しかけてきます。


「ファーリ。さっきは、今回の事件が自分のせいだ、と言っていたね?」

「……はい」

「もしも責任があるというのなら、それは僕にあるよ。リーダーは、僕なんだからね」


 お姉さまは、私の代わりに責任があると言ってくれます。


「でも……」

「でももだっても無し。リーダーは僕。だから責任は僕が負う。いいね?」


 私は、なぜか納得できずに頷けません。

 自分が、自分の都合だけ考えていたせいで、今回はケントくんがさらわれるという事件にまで発展したのです。

 私は、やっぱり前世のころから変わってなくて、空気が読めなくて、自分勝手で、誰かを傷つけてばかりなのです。


 つい暗い表情ばかり浮かべていると、こんどはアンネちゃんが口を開きました。


「それに、モンスターの異常行動ぐらい稀にあることにゃ。それをもし報告していたからって、森が封鎖されるわけでも無いにゃ。せいぜい、浅いエリアまで出てきたサイクロプスを間引いて終わり、程度の話にしかならなかったはずにゃ。お肉の貴族くんがさらわれるのは報告だけじゃ回避できなかったのにゃ。だから、ファーリちゃんが責任を問われることはありえないにゃ」


 アンネちゃんの言葉は、おそらく私たちよりずっと長くハンター活動を続けていた経験からくるものです。だから、信頼できます。

 それでも、私はなぜかなっとくできません。

 自分が悪い、そう思えて仕方ありません。


「もう、ファーリは自分に厳しすぎですわよ!」


 そこで、リグが怒ったような声を上げます。


「厳しい、ですか?」

「ええ。そもそも、課外授業でケントという男が行方不明になることを、あの時点で誰が予想できたのかしら? 不可能でしょう?」

「それは、そうですけれど。でも、なにか危ないことになるかもしれないというのは可能性として考えられたのです。やはり私たちは報告をしておくべきだったと思うのです」


 私が言うと、リグは「はぁあ~……」と深くため息をつきました。


「いいですか、ファーリ。あの時点では、わたくしたちの報告の有無は全体のリスクにほとんど影響を与えませんでした。一方で、わたくしたちは報告することで規則違反の罰則を受ける可能性や、ファーリのあまり目立ちたくないという願望に矛盾する等、いろいろなリスクが発生します」

「……はい、それは分かるのです」

「だったら、自分たちを優先してリスクを回避するのは当然の選択ですわ。ちがいまして?」

「いえ、理解できます。でも――」

「そこですわよ、ファーリ。わたくしが言っているのは」


 リグが、私の言葉の続きを遮ります。


「人間というものは、本来わがままで、自分勝手で、欲望のために生きるものです。自分のリスクを回避するために、全体のリスクを増やすことだってままあります。でも、ファーリはそうじゃないでしょう? 欲望のままに選択した結果ではないでしょう? つまり、ファーリはとても優しい。そして正しい行いをしていると言えます。なのに貴女は、自分さえ顧みずに全体のリスクを減らすべきだと、そう言っているように見えますの。どうかしら?」


 リグに言われて、少し考えてみます。


 ……確かに、私は自分が損をしてでも、誰か他人の為になったほうがいいと思っている節があります。

 いえ、そうしなければいけないという思い込みのようなものがあります。


 だって、私は、変な子です。

 普通にしているだけで、他人を傷つけてしまいます。

 だったら、私はその分、損をしてでも他人の傷を補うべきなのです。


 私は、リグの問いかけにゆっくり頷きました。

 肯定です。私は、自分よりも他人を大切にするべきだと思っています。

 その最たる例が、リグです。

 私がずっとそばにいるから、きっと私はリグを知らず知らずのうちに傷つけて、損をさせて、苦しめているはずです。

 それでもリグは、私と一緒にいてくれます。最高のお友達なのです。

 だったら私は、私のすべてをリグに捧げてでも、リグの為になることをしなければいけないのです。

 本当に、私は心の底からそう思っています。


「あのね、ファーリ」


 リグが、優しく、諭すような声で言います。


「貴女は、もっとわがままになってもいいの。もっと身勝手に生きてもいいの。だって、それは人として普通のことですもの」


 リグに言われていると、そうなのかも、という気持ちになってしまいます。

 でも、心のどこかでまだ信じきれません。

 私は、やっぱりダメな子だから。

 前世の記憶が蘇ってしまった今、その気持ちはとても深く、私の心に根を張っています。

 自分がダメな子だとしか思えないから、その分の埋め合わせをしなければいけない、という気持ちも頭にこびりついて離れません。



「――諸君、大事な話の腰を折って悪いが、どうやら悠長にしている場合ではなくなったようだ」


 不意に、リリーナ先生が口を開きます。

 そして、足を止めました。


「どうやら、向こうからお出ましになってくれたようだな」


 そして――森の前方から、一体のゴーレムが姿を表しました。


 その体は、見たことの無いような、深い緑色の金属で出来ていました。

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