14 勝利の理由、敗北の理由
ケントくんは気を失ったため、医務室へと運ばれていきます。
おそらくライフが0になっただけなので、命に別状は無いでしょう。
リグは私たち3人の方へと戻ってきます。
「終わりましたわ、皆さん。いかがでしたか?」
「はい、スッキリしましたよ。やはり男とかいう下劣なものはアレぐらい叩きのめしてやらないといけませんね」
「正直、わたくしはちょっとやりすぎてしまったような気もしますけれど」
「いえいえ。あれぐらいでちょうどいいんですよ」
「そうでしょうか……?」
リグとお姉さまが言い合います。ボコボコにした当人であるリグが反省して、見ているだけだったお姉さまがノリノリになっています。妙な状況です。
「わたくし、戦っているとどうにも気分が高揚してしまいますの。つい軽率で勢いのまま行動してしまうのですけれど……今回は、まあ、仕方ありませんわね」
リグは、自分に言い聞かせるみたいに言いました。
なるほど、戦闘で興奮して、あんなにドSみたいな感じになっていたのですね。
それなら納得です。いわゆる戦闘狂というやつなのでしょう。
そもそも、ボコボコにされるぐらい弱いのに、なぜか偉そうにしていたケントくんが悪いのです。
私のリグはおしおきしただけなのです。
うん、リグは悪くないのです。
「ところでリグちゃん。どうしてあのお肉の貴族はちゃんと防御したのに倒れたんだにゃ? アタシ、見ててもさっぱり分かんなかったにゃ」
アンネちゃんが聞いてきます。
なるほど。確かに、あの防御魔法の仕組みが分からなければ、どうしてケントくんが倒れたのか分からないのも頷けます。
「その話でしたら、ファーリに訊くのが一番ですわ。そもそも、この防御方法はファーリの技術を見て盗んだものですから」
「にゃるほど。じゃあファーリちゃん。あれはどういう仕組みでああなったんだにゃ?」
ついに私に話が周ってきたのです。
私はドヤ顔で、自信満々に説明します。
「ふふふ。それはですね、あれはそもそも防御魔法ではないからなのです」
「ん? どういうことにゃ?」
アンネちゃんが首をかしげます。可愛いのです。
ついモフりたくなる衝動を押さえつけて、私は解説を続けます。
「あの魔法を、私は『アーマー』と呼んでいるのです。アーマーは、単に攻撃魔法の魔力を拡散して身体で受け止める魔法なので、身体の負傷が抑えられるだけに過ぎないのです」
「ふむふむ……つまり、一点に集まった攻撃の威力を全身に分散しているだけ、というわけだね?」
「そのとおりです! さすがお姉さまなのです!」
私は理解の早いお姉さまに驚きます。つい尊敬の目を向けてしまいます。
「にゃるほど……攻撃魔法の魔力は広がって薄くなっていても身体には当たっているんにゃから、ダメージ自体は受けてしまう、というわけかにゃ?」
「そうです、そうです! アンネちゃんもすごいのです!」
「にゃはは、褒められると照れちゃうにゃあ」
私のお友達は、みんな理解が早くてすごいのです。助かるのです。
「もちろん、身体にまとった魔力や肉体そのものがある程度のダメージを受け止めてくれますから、威力は多少軽減されます。耐性があるとなおのことです。でも、そもそもダメージ自体はきっちり受けてしまっているので、無傷で済むわけではないのです。ですから、アーマーは防御魔法というよりは、弱い攻撃での怯みや負傷がなくなるだけの補助魔法と考えたほうが適切なのです」
私が説明するほどに、リグ、お姉さま、アンネちゃんは頷いて納得してくれます。
「ふむ、アーマーの性質をよく理解しているではないか、ファーリ君」
そこへ、なにやら満足げに頷きながらリリーナ先生が近づいてきます。
「座学は年齢相当未満だが、実践知識に関しては文句無し、といったところだな」
「あ、ありがとうございますです!」
突然リリーナ先生にほめられてしまったので、つい慌ててしまいます。
今日はいろいろダメなところしかお見せできていなかったので、ここで褒めてもらえたのはとても嬉しいのです。
「さあ、君たちも授業に戻ってくれ。特に君らは優秀だからな、調子づいてどこぞの坊っちゃん貴族のような態度を取らないよう、みっちりしごいてやろう」
「はい、ありがとうなのです先生!」
私は、これからたくさん魔法のことを教えてもらえると思うと、嬉しくなって笑顔でお辞儀しました。
それの何がおかしかったのか、リリーナ先生も、リグやお姉さま、アンネちゃんまで苦笑いを浮かべていました。




