13 リグレット、決着をつける
リグは笑みを浮かべながらも、なおケントくんへと歩み寄ります。
それは、笑顔でありながら、どこか威圧的な雰囲気のある光景です。
実際にその笑顔には「お前は逃さない」「絶対に潰す」というメッセージがこもっているのでしょう。
向けられた側はたまったもんじゃありません。
「そうですわね、けれどどうしても、と土下座して頼むのであれば、ご教授してあげてもよろしくてよ?」
リグは笑いながら、挑発します。
ケントくんはそして、これだけ絶体絶命の状況にありながらも、まだ顔を真っ赤にして怒ります。
「だっ、誰が土下座などするかッ! 貴様のような奴なんかに――」
しかし、ケントくんが最後まで言い終わることはありません。
次の瞬間、リグは一瞬にしてトップスピードまで加速し、ケントくんに迫ります。
そしてケントくんが反応もできないうちに、膝蹴りを顔面にぶちかまします。
「ぐァッ!?」
威力と衝撃で、ケントくんはのけぞります。けれど、リグはそれを許しません。
ケントくんの髪を掴むと、それを引き戻します。
そして、そのまま力を込めて勢いよく地面に叩きつけます。
「ギァッ!」
ケントくんの悲鳴が聞こえます。ちょうど、ケントくんは膝を折って頭を地面に擦り付けるような格好になっていました。
「あらあら。そんなに頭をご丁寧に深くお下げになって。これほど真摯な態度でお願いされたとなれば、教えてあげる他ありませんわね?」
「……クソッ!」
ケントくんは、悔しそうに顔をしかめます。何しろ、リグはケントくんを暴力で無理やり土下座させたのですから。悔しいのも当然でしょう。
「わたくしが使ったのは、シンプルな魔法ですわ。ただ魔力を薄く濃く纏うだけ。ブリッツのような魔法弾であれば、魔力が弾いてくれますのよ」
「フン……そんな魔力の使い方、どこで覚えた」
「覚えたのではなく、盗んだのですわ。だって、こんなにも惨めに頭を下げるのは、癪でしょう?」
言って、リグはケントくんの頭を抑える手をグリグリと動かします。
ケントくんは顔を地面に擦り付けられて悔しそうな表情を浮かべます。
……見ているうちに、なんだかケントくんが哀れに思えてきました。
喧嘩を売ってはいけない相手を敵にしてしまったのです。その責任はケントくん自身にあるのでしょうけれど。
でも、ちょっとリグ、やりすぎでは?
なんだか、楽しんでいるようにも見えます。
「さて――このまま勝負を決めてもいいのですけれど、土下座までして教授を願う真摯な貴方にチャンスを差し上げましょう」
言って、リグはケントくんを開放します。ケントくんは慌ててリグから離れていきます。
「わたくしは、これから貴方に無詠唱で一発だけ、ブリッツを放ちますわ。もしも貴方がその攻撃を受けてまだ無事で居られたのなら、この勝負はわたくしの負けということにして差し上げましょう」
リグの提案に、ケントくんは目を見開きます。
そして、すぐにニヤリと笑います。
「ふん、いいだろう」
そして、リグの提案を受け入れました。
それも当然でしょう。ケントくんは今しがた、リグからブリッツを防ぐための魔法の知識を貰ったのですから。
これは勝ったも同然、と思っているに違いありません。
でも――残念です。
その防御方法には、弱点があります。
「では――いきますわよッ!」
リグは宣言した瞬間、アースブリッツを放ちます。無詠唱ながらも、かなりの威力を込めたブリッツです。
これを、ケントくんはドヤ顔で受け止めます。腕をクロスして、魔力を大量に腕へ流し、まといます。
ブリッツが衝突し、弾けました。
そして――ケントくんは、気を失って倒れました。
「――勝者、リグレット君!」
審判のリリーナ先生が模擬戦の決着を宣言します。
リグは余裕の表情で佇んでいました。




