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11 怒りのおぼっちゃま




「――おい、貴様! 何か不正をしただろ!!!」


 唖然としていたケントくんが、ようやく口を開きます。

 が、その内容はあまりにもかっこ悪いものでした。

 この状況で不正を疑うというのは、同時にリリーナ先生のことも疑うことにほかなりません。

 が、恐らくこのおデブさんはそれすら理解できていないのでしょう。


「わたくしが? 不正を? 貴方ごときを相手に?」


 リグが露骨に怒りを露わにしていいます。


「冗談を言うセンスもその醜い脂肪の塊になっていらっしゃるのかしら?」

「何ィ!? 貴様、無礼にもほどがあるぞ! この僕に向かって!」

「肉団子にお辞儀をする習慣は人間にはありませんのよ?」

「ぐぅ……馬鹿にしやがって、許さん! おいお前ら来い!」


 ケントくんが大声を上げると、クラスの中から数名がケントくんの方へと近寄っていきます。

 なるほど、既に貴族の権威を利用して『手下』を作っていたというわけですか。


 けれど、これはいけませんね。


「ケント君。これはどういう真似かね?」


 リリーナ先生まで、声に怒気をはらんでいます。

 けれど、既に頭に血が上って冷静さを欠いているケントくんはそれすら理解できません。


「単なる模擬戦のお願いですよ先生。どうやらこの金髪女は優秀な魔法使いのようだ。せっかくだからご教授願いたいと思いましてね」


 無理な理屈です。こんなものを、リリーナ先生が認めるわけがありません。

 というか、手下の人たちは先生とリグにビビって逃げ腰になっています。

 これでは、そもそもケントくんが思っているような『模擬戦』など成立しないでしょう。


「ケント君。さすがにこの状況を見過ごすわけには――」

「良いのですわ、リリーナ先生」


 ケントくんを注意しようとするリリーナ先生を、リグが制止します。


「リグレット君。どういうことだね?」

「模擬戦を受けるということですわ。せっかくの機会ですし、色々と『ご教授』してあげようと思いますの」

「授業中の私闘を見逃せという意味だろう? 教師としてそれを認めるわけには……」


 リリーナ先生の話の途中で、リグはリリーナ先生に近寄って耳打ちします。

 何を聞いたのか、リリーナ先生は心底疲れたような顔をして、はぁっとため息をつきました。


「……いいだろう。模擬戦を認めよう」

「それは助かりますわ、先生」


 リグはにっこり笑います。


 こうして、リグとケントくん一味の模擬戦が行われることとなったのです。

 ケントくんの手下さんたちがめちゃくちゃ嫌そうな顔をしていました。

 巻き込まれた立場、可哀想な人たちなのです。

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