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エピローグ

5話の一部表現を変更、一部文章を追加しました。


詳しくは、そちらをご覧ください。







 夢を見ていた。




 また私は天井辺りから下を見ている。場所は……家の客間、かな?黒崎君と、和泉君が何かを真剣に話していたみたいだけど、話題が変わったらしい。

 無声映画のような視界に、音が混じる。




『4人で泊まった時、半分寝ボケてたけど、“黒崎君を好きなのは環ですー”って言ってたぞ』

『本当に水森さんがそう言ったの?』


 なんですと?

 そんなこと言った覚えないけど!



『幹事頼まれる前から、はきはきした感じが凄くいい子だなーとは思っていたんだ。あと、酔っ払っている水森さんへの世話焼きっぷりとかさ、怒りながら心配してるのが面白くて。水森さんに抱きつかれた時、他の人は笑っているだけだったけど、すぐに引き剥がしてくれたし。嫉妬からかな?そうだといいな、なんて思ってた。……あの朝、お前達が起きない間にこっそりしゃべったりしてたんだけど、その印象は変わらなかった』

 黒崎君が照れたように笑って、頭を掻いた。


『好きなら、告白するのは男の役目だね。後出しじゃんけんみたいでずるいような気もするけど、だからこそ自分から言わないと。明日、他にも話したいことがあるから、その時に言うようにする。……ありがとな、和泉』

『こういうの、人づてにするのもどうかと思ったが、後押しになれば良かった』

 口の端を吊り上げて和泉君が笑った。


『あ、また話は変わるんだけど、お世話になったお礼って何がいいと思う?』

『それって水森家にって事か?それとも神社にか?』

『両方』

『家の方は菓子折りで、神社には酒でいいんじゃないか?ここの本尊って竜だろう。八岐大蛇ヤマタノオロチの言い伝えもあるし、酒好きなんだろうから』

『酒を飲ませて酔っ払ったところを退治したっていうのだったよね。やっぱりそれがいいかな?』

『俺も、先輩に直接持っていこうと思ってる』

『お酒めちゃめちゃ強そうだよね、お兄さん』

『俺も弱い方ではないが、先輩はザルだ。……肝機能を妹に分けてやればよかったのにな』


 黒崎君が笑い出したところで、ぷつんとテレビが消えたように視界が黒くなった。







 

 気が付くと、別の部屋に私はいた。ああ、ここは……この間のラブホテルだ。 

 一番端にいた『私』がもそもそと動いて、手を伸ばして何かを探している。



『みーずー』

 そんな呟きのような声を出しながら『私』が手を伸ばしている。そう、この時は本当に喉が渇いていた。


『どうした?』

 低く辺りを憚った小さな声。和泉君が体を起こして『私』を見ていた。環と黒崎君はぐっすり眠っているようで、身じろぎ一つしない。

『み、ずーちょーだい』

 酔っているんだか寝言なんだか分からない『私』に苦笑すると、和泉君は起き上がって避けてあったペットボトルに手を伸ばして、持って来てくれた。……のに、途中でその手が止まる。

『なあ、水森さん?水が欲しかったら教えてくれ。……黒崎が好きなのか?』


 ────は?


 こんなこと覚えてない。それなのに『私』は、へらーんと笑った。我ながらなんて能天気な顔とあきれる。

『くーろさきくんをすきなのはー、たーまーきですぅー。わーたーしじゃないのー』

 もそもそ、手が伸びる。だが、起き上がる力のない『私』は、ベッドの中で手を伸ばすだけだ。ほんの少し手の届かない位置でペットボトルを振る和泉君は、見た事のない表情をしていた。

『……じゃあもう一つ。口説いているやつが鈍いんだが、どうしたらいいと思う?目の前で合コンなんぞ参加した上に、他の男にセクハラかましたやつなんだが』

『せくはらー?にぶーいの?』

『そう。無防備に他の男に抱きついて、泊まって行こうなんて誘ったやつ』

『にぶいーなら、おすの』

『押してるぞ』

『おしてもだめなら、もっとおせー』

 もそもそ、動かす手は後少し、届かない。私は真っ白になった頭のまま、ただその光景を見ていた。

『おしてもだめなら、ひいたらだめー。にぶいなら、そのままふぇいどあうとしてもきづかないもーん』

 和泉君は笑った。お腹の中に一物ありそうな顔で。

 普段あまり表情の変わらない彼にしては本当に珍しく、何かを決意したような目をして『私』を見る。


『いや~ん、ちょーだい』

 水を求めて手を伸ばす『私』の前で、和泉君がペットボトルの水を呷った。伸ばした手を引っ張られ、起き上がらせられた『私』を簡単に腕の中に捕らえる。顎に手を据えられて仰のかされると、そのまま唇が重なった。

 『私』の悲しそうな顔が、へにゃっと緩んで喉が動いた。飲みきれなかった水が、口の端からこぼれそうになるのを舌でなめ取る。


『もっとちょうだい』

 解放された後、とろんとした目つきで強請る『私』に、和泉君が『……なんて性質(タチ)が悪い』と呟いている。

 髪を梳かれて、抱きしめられながら同じ事を数回繰り返されると、腕の中で軟体動物みたいになっていた『私』は、また夢の中に戻って行った。意識なくぐったりと和泉君の体にしなだれかかる。

『……本当になんて性質が悪い』


 ひょいとそのまま『私』を抱えると、今まで自分が寝ていた辺りに一緒に体を横たえる。

『せいぜい、慌てろ。絶対意識させてやるから』

 そのまま抱き込んだ『私』の顔を見つめ、そっと瞼に口付けを落してから和泉君は目を瞑った。


『さすがに他の目がある所で出来ないが、我慢するのは今回かぎりだ。今度は喰うからな』

 覚悟しておけ。

 囁きは耳に直接流し込まれた───。





 

 悲鳴を押し殺しながら飛び起きた私は、今寝ているところが自分の部屋であることに気付くのが大分遅れた。

 誰かに見られたらかなり挙動不審だったろう、きょろきょろと見回して、自分が一人で眠っていたことに心の底から安堵する。


「なに、アレ」

 なんか、叫びたい。

 叫びながら、布団の上を転げまわりたい。



 あれが、さいごに、おきた、こと?



「うーーーー」

 唸りながら、今日が土曜日であることを呪った。

「今日もここに来る、って言ってたよね」


 唇に残る生々しい感触。水が欲しくて舌を伸ばした覚えがある。相手の口の中に残る水分を求めて、背に手を回し、すがり付いて強請った。もっと、と。

 がしがしと唇をこすって感触を消したが、記憶はやたら鮮明に腕の動きとか、眼差しの強さを思い出させてきて、身の置き所がない。


 

 どうやっても、何をしても思い出す感触に、私は部屋に引きこもろう、と決意した。

 和泉君の顔を見たら、絶叫するかもしれない。


「具合が悪いから寝てる!」

 誰ともなしに叫ぶと布団をかぶって亀になり、様子を見に来た母親に「ずいぶん元気な病人ね」と言われながらも、私は必死だった。禁酒しようと心に決めた瞬間でもある。


「誰か来ても、具合が悪いから面会謝絶って言ってね。絶対だからね」


 そう念を押したのだった。





 







 ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました。


 私はこれを全3話で書こうとしていまして、今更ながら馬鹿すぎると溜息をつきたくなりました。(後半になるにつれ、1話分の文字数が多くなっているのはそういう理由です。ついでにエピローグが短いのは、本編に入れる予定だった部分をあとがきに回したからで、トータルすると、6,500文字以上になります(笑)。長いです。すみません)


 以下に、水森・兄視点の「ぶっちゃけ話」を載せました。時間軸としては、土曜日の弓道練習中、環ちゃんが泊まれなくなったと連絡してきた後になります。

 シリアス+ちょっと後味悪いかも?と思い、前回のあとがきにコメントを入れさせていただきました。


 感想でアドバイスもいただき、以下を読むか否かは、ここまで読んでくださった方の自由意志にお任せしようと思います。リクエストと感想いただいた方、ありがとうございました。

 雰囲気が違うのが嫌という方は、このままバック推奨です。




 読まない方のために。(裏設定もいらないという方はバックして下さい)






 環ちゃんは前から黒崎君の事が好きで、声をかけたりしていました。男子幹事をお願いしたのは、アドレスゲットと連絡を嫌でも取り合わないといけないから、それをきっかけにもうちょっと親密になれないかな、という思いからです。

 ホテルでの寝る順番も環ちゃん発案。自分が黒崎君の隣だと眠れないだろうけど、酔っ払い主人公が黒崎君に抱きついたので(よんぴー発言もあって)絶対に隣には寝かさない!と思いながら順番を決めています。


 和泉君の暴走が唐突?と思われたかもしれませんが、実はちゃんとアプローチをしていました。でも、主人公鈍すぎて気付きません。(主人公視点だと、なかなかその辺書き難い)

 環ちゃんはなんとなく気付いていて、和泉君に黒崎君経由で合コンメンバーに入らないかという打診をしていました。


 弓を弾く音は魔よけになるそうです。水森兄はその辺も併せて弓道をやっていますが、触れる個所がありませんでしたので、ここに書かせていただきます。



 

 !警告!


R15 残酷な描写あり 流血表現あり シリアス オカルト? 後味が悪いかも?




 では、読みたい方のみ、お楽しみください。










 弓道場にやって来た和歌子の友人、黒崎と後輩和泉に事情を一通り説明した後。和歌子の事情を知って、納得して客間に帰って行った黒崎とは対照的に、和泉はもの言いたげにこっちを見ている。

「先輩。本当はそれだけじゃないんでしょう」


 見られているのを分かっていて無視していたら、焦れたように声を掛けて来た。

「何のことだ?」

「あれで全部だったら、先輩がそんなに必死というか、慌てたりしないと思うんですけど」

 この辺が俺を知っている奴と知らない奴の差かねぇと思いながら、俺は笑った。

「俺はそんなに人非人(にんぴにん)に見えるのか?」

「……何事にも動じない方だ、とは思っています」

 最初の沈黙は何だって言ってやろうかと思ったが、もう少し突っ込んだ事情を説明してやることにする。もちろん、思惑があってのことだが。


「見えないものが見える、見えないものが聞こえる場合、原因はいくつかあるんだよ。脳に腫瘍があるような物理的要因。精神疾患みたいに内面的な要因。イマジナリーフレンドとか。あとは、まあ、本当に何かが見えている場合。……問題の自称『見える』子は、多分二番目だ」

「イマジナリーフレンドって、ごっこ遊びの強烈な奴、で合ってます?」

「まあ、似たようなもんだ」

 と俺は苦笑した。厳密にいえば違うんだろうが、説明し出すときりがないのでやめる。


 家が神社だと、氏子の代表者やらなんやらと接する機会も多いので、自然と色々な話が耳に入ってくる。その子は女の子だったが、兄弟もおらず共働きの両親にあまり構ってもらえていないようだと聞いていた。

 本当に見えていたかどうかは本人にしか分からないが、嘘だろうと繰り返し言っているうちに本当に思えてくるものだし、そこまで言い切っておいて今更引っ込みもつかなかったんだろう。見えると言って騒げば、周りが構ってくれるのも嬉しかったに違いない。


「怖い話が禁止になって、不満に思っていたんだろう。修了式が終わった後、問題の子の他に、自称『祓える子』やら『見えるようになった子』やら、取り巻きたちを集めて、幽霊が出ると噂のある空き家に凸しようと計画した。そこに和歌子を無理やり連れ出して、家の奥まで行ったら置き去りにして逃げるつもりだったと、後になって同行していた内の一人から聞いた」

「随分悪辣ですね」

「まあな」

 眉をひそめる和泉に、俺は苦笑を浮かべた。子供の考えることとはいえ、残酷だ。今だからこそこうやって話すことができるが、当時は随分腹を立てたものだった。


「和歌子はさすがにそこまで馬鹿じゃないから、抵抗したらしい。だが、多勢に無勢で、問題の空き家の近くまで連れて行かれてしまった」

 両手を複数に掴まれりゃ、逃げることもできない。


「女の子一人を囲って、どこかへ無理やり連れて行こうとしているのが不審だったらしい誰かが声をかけて来て、和歌子は逃げ出したんだが……。家に逃げ帰って来た和歌子から事情を聞きだした親父は、抗議の電話を学校に掛けた。ここから先は和歌子は知らないんだが、その時点で学校側はもう大騒ぎになっていたんだ」


 当初の目的はともかく、折角幽霊が出るという空き家まで来たので、そのまま肝試しをしたらしい。玄関の扉は鍵が掛かっていたので、ベランダのガラスを割って入った。

「見える子が、いつもの『あそこに何かいる!』をやった。学校と違って特殊な環境だろう?怖い怖いと思っていた所にそんなことを叫んだんで、パニックになった訳だ。そこにいた子供達は、全員見える子の言葉を信じていたからな。我先にと入ってきた場所……ベランダに集中して、三人が割れたガラスで怪我をした。一人は動脈を切る怪我だったんで、辺りは血まみれになった」

 

 泣き叫ぶ子供の声を聞き付けた近所の住人が通報、命に別条はなかったが、一時は危なかったらしい。消えない傷痕が体に残った。恐らくは、心にも。

 怪我をした子供たちの親は、事情を聞き出すと「見える子」が叫んだ事を重視して、責任の所在を追及し始めた。証言を個別に取り、口裏を合わせることのないように慎重に調べたらしい。


「最終的にどうなったのか俺は知らない。両親は事情説明と、無理やり連れて行かれそうになったことに対して、指導の徹底と謝罪をして貰ったようだった」

 一つだけ問題が発生した。ある一部分の証言が食い違っているのである。


 和歌子に声を掛けてきたのは?の問いに、一人は知らないおじさんと言った。一人は若いお姉さんと言った。また別の一人は中学生くらいの少年と言った。面白いくらいに、全員バラバラ。

「和歌子は若い男の人が声をかけてきたおかげで、皆の手が離れたと当初から言っていた」

 時代劇に出て来るような青い着物を着て、真っ黒な長い髪をした、凄く綺麗なお兄さんだったと。


「だが、和歌子は巻き込まれた側で、事件が起きた時にはその場にいなかったし、事件そのものには関わりのない部分だから、いずれも子供達が勘違いしたんだろうということになったんだ。和歌子以外は特徴を聞いてもはっきり覚えていない上に、周囲に該当する人間がいなかったのが気味が悪いといえば悪い」

 『凄く綺麗なお兄さん』も、目立つ格好だと思うが、目撃情報は一切ない。見たのは和歌子だけ。



「『白羽の矢が立つ』の語源って知っているか?」

 唐突に変わった話題に、和泉は不思議そうな顔をしながら「いいえ」と首を横に振る。


「今でこそポジティブな意味合いで使用されているが、元々は神の生贄として差し出される少女の家の屋根に、目印として白羽の矢が立てられたからとされている」

「犠牲の羊の印ってことですか」

「そうだ。で、その神は九頭竜(くずりゅう)だったって言う一説があるんだ。水森は竜と結婚した娘の子孫って言ったろう?花嫁なんて言ったって、結局はそう言う事だ。この地を守護してくれるように契約して、最初に神へ身を捧げた乙女の子孫ってこと。娘は生贄だった」

 家の神社が祀っている竜神の御神体は、裏山にある滝だ。


「道は細くて急傾斜だから危ないし、人が入れないようにしている。観光名所にもならないような、ごく小さな滝だしな。それでも落差があるんで滝壷はそれなりに深いし、渦を巻いて流れるから一度落ちたらなかなか上がって来られない。昔は日照りが続いたら、それこそこの地域の集落のどこかに白い矢が立ったんだろうさ。あの滝壷に落とされる乙女を選ぶ目印として」

「……あいつが生贄になるとでも?」

 半信半疑なんだろう。和泉がそんなことを聞いてくる。


「俺もこんな眉唾話、家族のことじゃなかったら鼻で笑っていたろうがな。今はいつの時代だって。……祖父さんが飲ませた梅酒でひっくり返ったあと……正確には宝くじを買わせた後、部屋で休ませていた和歌子が消えたことがあるんだ。千鳥足の足取りで、そんなに遠くまで歩けないだろうがどこにもいない。家族総出で探して、見つかったところは、その滝。飛び込みやすいように滝壷に向かって張り出した大岩の上に、気持ちよさそうに寝ていた」

 見つかったからこそ今の和歌子がいるんだが、当時は本当に肝を冷やした。また、和歌子は部屋で寝ていたの一点張りで、その後祖父さんが亡くなったんで、やっぱり覚えていない。


「綺麗なお兄さんは、この時に和歌子を気に入って、困っていたところを助けたのかもしれないなんて、馬鹿なことも考えたよ。……だが、何よりもはっきりと分かっていることから考えた方が建設的だろう?」


 酩酊状態=トランス状態だとして。

「トランス状態っていうのは、あちらの世界に片足を突っ込むようなものだから、いつかあちら側に引っ張られるんじゃないか?って、こっちは心配している訳だ。酒解禁にしたもう一つの理由は、あいつの周りにも事情を呑み込んでほしいから。実際に接しないと、分らんだろう?」

 というか、信じないだろう。家族で守ってやるには限度がある。


「確かに。何て言うか、接している限り、一つ外したのだって確信犯的な感じがするんですよね。全部当たったらおかしいかもしれないけど、一つでも外れていれば勘違いで済むって思い込んでるように見える」

「また本人が能天気だし、鈍いしな」

「そうですね」

 間髪いれずに相槌を打つ和泉に、俺は冷たいまなざしをくれてやった。


「お前、分かってんだったらもうちょっと何とかしろよ。和歌子、さっぱり気付いてないぞ?」

 和泉が一瞬動揺したのに、たたみかける様に言う。

「前の祭りの時の奉納舞を舞ったあいつが、思いの外可愛かったんでちょっかい掛けてたのは知ってたが、学校のすぐ側に下宿しているお前が、こうやって遠くの家くんだりまでしょっちゅう来てるあたり、それなりに本気になったみたいだな。だが、相手が悪い。ヤる気があるなら、もっと行動しろ」


「……先輩。『やる気』って何か、別の意味で言ってませんか?」

 若干気まずそうに聞く和泉。もちろん、含んでいるとも。


「巫女やら生贄やらなんてな、清らかな乙女って決まってるもんだが、手っ取り早くキヨラカじゃなくなる方法があるだろうが」

 絶句した和泉に、俺は笑って見せた。


「まあ、見逃してやるのは一回目だけ。泣かせたら半殺しは覚悟しておけよ」

 俺は相当物騒な笑みを湛えていたらしい。一歩引いた和泉が、それでもまっすぐにこちらを見返してきたのに、心の中でやっぱり生意気だよな、こいつ、と思う。大概はビビって引くんだが。


「本人から、『押してもだめならもっと押せ』と言われましたから」

「それ、酔っている時か?」

「そうです。本人は全然覚えてないです」

 俺は腹を抱えて笑った。愉快なことになってるじゃないか。

「まあ、せいぜいがんばれ。尻は好かれてるんだ、望みはあるだろ」

 塩を送ってやるのはここまでだ。


 言外の言葉が分かったように、和泉は「遠慮なくやらせてもらいます」と不敵に笑った。

 上等だ。つまりは、手加減無用ってことだよな?


 しばらくはヘタレとからかってやろうと思いながら、俺は弓に手をかけた。





 了



 

 


 ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。


 後書きのエピソードで何が書きたかったって、要するに「巫女って処〇じゃなくなれば、力も失せるんじゃね?」です。

 実際の歴史に登場する方々がどうだったのか?というのは良く分かりません。すみません。コメディーなので、許してください(笑)書き逃げします。


 




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