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分かり難いと思われる表現を変更しました。(良いことばかりじゃない以下)
一か所文章を追加しました。(夢から覚めた後部分)
申し訳ありません。よろしくお願いします。
『山名さんは水森さんの家の神社が何を祀っているか知ってる?』
首を横に振る環に、黒崎君は兄が昨日説明した事とほぼ同じ内容を伝えた。
『託宣の巫女か。言いえて妙ね』
『うん、俺もそう思った。泊めてもらったから、お参りしたついでにじっくり見て回ったよ。それで本題。水森さん、小学生の頃、お神酒飲んでひっくり返ったことがあるんだって』
『和歌子から聞いた、その話。……って、お兄さんがその話を持ち出したって事は、その時にも何かあったのね?』
黒崎君が頷く。
『その前日に、本殿に雷が落ちて屋根に穴が開いたんだって。お社の修繕は宮大工にお願いしないといけないけど、技術が高い分工賃も高い。修繕積立金をしていても、予算はとても足りなかったらしい。経年劣化ならともかく、想定外だったから』
そんなことあったかな?なんとなーく、屋根に登っていた職人さんが居たような記憶はあるけど。まあ、お金があろうとなかろうと、修繕しないとそこからどんどん痛んでいくから、否が応でもお世話になったんだろうけど。
でも。と私は夢に突っ込みを入れた。
神主さんは兼業神主と言って、本業の他に副業を持っていることが多い。お寺に比べると入る金額が全然違うから、神主としての収入だけでは生活が立ち行かないからだ。それでも家は経済的に苦しいとはあまり聞かなかった。子供にお金のことを聞かせるのは良くないと思って止めてくれたのかもしれないが、苦しければ弓道場なんか作るかな?と不思議に思うのだ。
『結果として予想外のところから臨時収入があって、それで十分賄えたらしい。……酔っ払った水森さんが、なぜか宝くじを買いに連れて行けと騒いだんで、連れて行って買ってきた連番一組が見事、一等前後賞に当たったから』
『ええぇ??』
環が驚いているが、私も驚いている。そんな話、知らないよ??
『……この話には続きがあって。変な色気を出したのかよく分からないってお兄さんは言っていたけど、当時はまだご存命だったお祖父さん……当時の宮司が『甘いぞー、美味しいぞー』と言って梅酒を飲ませて、また酔っ払った水森さんに同じように、宝くじを買わせたんだって』
『当たったの、それ?』
頷く、黒崎君。
『家計は急速に潤ったけど、当たりが分かる前にお祖父さんは亡くなった。心臓麻痺だって』
若干、環の顔色が悪くなる。
『………罰が当たったってこと?』
『誰が聞いてもそう感じるだろうけど、 “お酒を飲むことによってトランス状態になり、〈見得た〉事柄を口にしているように見えるかもしれないが、偶然だから”って超笑顔で言ったんだよ、お兄さんが。目は笑っていないし、和泉と似たような体格だろ?なんていうかインテリヤクザに脅されているような気がしたよ』
『あ、あははー』
環は力のない笑い声を上げた。気のせいか、更に顔色が悪くなっている。
『水森さんはお祖父さんに可愛がって貰っていたから、悲しさ一杯でその辺を覚えていないらしい。水森さんのお母さんが、子供心に関連付けるかもしれないからってすごく心配して、それ以来、知らせない、お酒に近寄らせない方針でやってきた。今回よく飲み会に参加させましたねって言ったら、成人した以上、ある程度自覚してもらった方がいいという方針に変えたからだって。元々水森さんのお父さんは、免疫を付けておいた方がいいからって、お酒を勧めていた派だったから』
『……正に本人がそう言ってた』
ホテルでの会話を思い出したのか、環がそう呟く。
『それでもさ、水森さん本人が割と全否定な感じだったのが気になったんで、一応突っ込んでみたんだ』
『すごいね。頑張ったんだ』
いや、兄は怒らすと怖いけど、さすがにそこまで怯えることはないと思うよ?
『水森さんが小学校六年生の時、よくある話ではあるけど、学校で怖い話が流行ったことがあったんだって』
ああ、それは覚えてる。子供に限らず、怖い話が好きな人は多いと思うし、私も話自体は好きだ。
けど、話の内容に触発されたのか、見えるとか、祓えるとか言う子が出て、だんだんエスカレート。授業中でも自称見える子が、天井付近に何かいると言って大騒ぎになったことがある。
パニックを起こして泣く子、私も見えたと騒ぐ子で、学級崩壊寸前まで行った。
『そんな中で、水森さんは正直に何も見えないって言ったんだって。で、リーダー格の〈見える子〉が、“神社の子なのに、見えないのはおかしい”って言い争いになった』
『そもそも、その見えるっていうのは信用できるの?』
黒崎君が首を傾げた。
『正直、怪しいと思う』
さもありなんと言う風に、環も頷いている。
『だけど、学校側は騒ぎが大きくなったことを重視して、お祓いすることにしたんだって。でも、担任の先生がうっかりお祓いするのが水森さんのお父さんだって洩らしちゃって、問題の子が、見えない子の家にお祓いなんてできっこないって“エセ神主”扱いしたらしい』
『うわぁ。その先生、馬鹿すぎる』
うん、私もこの時は頭に来ました。私のことをなんて言われようが構わないけど、家の神社をニセモノ扱いしたのは腹が立ったんだよねー。
『学校側は、お祓いしたからもうそれ以上騒がないように、怖い話は一切禁止した。卒業まであと少しだったから、押さえつけていれば収束するだろうって思ったんだろうね。水森さん、リーダー格の子と断絶したまま卒業したみたい。ほとんどいじめだよなって思った』
『それはトラウマになるわ。通りで頑なに否定するはずね』
『お酒が入らなければ、普通だし?』
おどけたように言う黒崎君に、ぷっと環が吹き出した。
『普通っていうか、ものすごい鈍いよ、あの子』
『うん。“素面の時は普通以下”ってお兄さんも言ってた。……心配するのも分かる気がするんだ。そればかりに頼るようになるっていうのもそうだけど、良いことばかりじゃないだろうし』
『良いことばかりじゃないって、例えば?』
良く分からないという顔をする環。
『例えば、谷さんだけど。助かったことを素直に喜んでいたけど、水森さんの能力を知ったら“助かったけど、あんなに怖い思いしたくなかった。もっと何とかならなかったの?痴漢自体に遭わなくしてよ”って言うかもしれない』
『…………』
『俺も今回のバス事故で思う所があってさ』
家に何度も連絡を入れていた黒崎君。直接は知らないが、母親の知り合いが件のバスに乗っていたらしい。
『土砂がバスの中に入って来て、相当怖い思いをしたってさ。乗ってたのが知り合いの知り合いみたいな遠い人じゃなくて、友人や身内だったらって考えたら“どうしてもっと分かるように言ってくれなかったんだ。はっきり言ってくれれば、避けられたかもしれないじゃないか。自分が助かったのは良かったけど、何であの人も助けてくれなかったのか?”って責めるかもしれないなと、自己嫌悪。そもそも全部が全部、当たるわけじゃないのに』
そう言って黒崎君は苦笑を浮かべた。
『結局、託宣の巫女様からのお告げだから、滅多にないわが身の幸運をかみしめるしかないと思うに至った。いつも乗っている場所が山側で、乗っていたら重傷者プラス1は確実だったろうし』
『そっか。……この話、和泉君も知っているんだよね?』
『和泉は、それこそお兄さんから何か聞いたみたいだったよ。“二十歳過ぎたらただの人は、二十歳前にやらかしてたから、ただの人にはなってなかった訳だ”って、言ってたし』
『なんかすごく和泉君らしい。……本人が偶然だと言っているなら、それでいいってことね。うん。了解。私も突っ込まないことにする』
その時、黒崎君のスマホが鳴った。画面を見て『噂をしてたら、本人だ』と笑いながらメールに目を通している。
『ああ、佐々木君のことでメールするって言ってた』
『うん、問題はその佐々木のことでさ。……あれだけ水森さんが触りまくってたから、何かあるとしか思えないんだよね』
『あーそうよねぇ』
環が大きく頷く。
『こっそり忠告はするつもりだけど、谷さんの件も合わせて、どうなってもあまり騒がないようにしてほしいんだ』
『ん、分った。注意しておくよ』
『それで……』
黒崎君がちょっと顔を赤くして、真面目な顔を作った。
『和泉から聞いたんだ。この間のラブホテルで、水…さんが、…崎君を……なのは………で……言って』
なんだか急に音が遠くなったが、その台詞を聞いた途端に、環の顔が、ぼっと火が付いたように赤くなった。
『ええ?あの子……なこと……たの?…………そう…………』
恥ずかしそうに下を向いたままの環に、すごくうれしそうに笑う、黒崎君。そっと手を伸ばして、環の手を取った。
『よか…た……俺も……………』
途切れ途切れにしか聞こえないけど、なんだかいい雰囲気……?
そう思っていたら、意識がぶつっと切れた。
次の日、内容は覚えていないものの、すごく楽しい夢を見ていたのに一番いい所で切れてしまったような、なんとなく物足りない思いをしながら学校に行ったら、環が私の顔を見た途端に走ってきて叫んだ。
「あんたのせいよ~!!あんたのおかげでもあるけど、あんたのせいだからねっ!」
お礼だか何だかよく分らない。顔が真っ赤で、怒っているのに怒れないみたいな複雑な表情をしている。
「えーっと、何かあったの?」
「あったわよ!言えないけど!!」
「え?でも私のせいなの??」
「そう。あんたのおかげ」
結局、どっち?
首を傾げると、環はじーっと私の顔を恨みがましい目をして眺めていたが、やおら内緒話をするようにこそっと囁いた。
「私、黒崎君と付き合うことになったから」
「えええー?」
「声が大きい!」
口を塞がれた私はそっちの方が声が大きいよ!と思ったけど、赤い顔をした環が一方的に耳に囁き続けた。
「思いがけない方法で、私が告白したようなものなのっ。これ以上は聞くな。聞かれても一切答えないから。……分かった?」
異様な迫力に、私は黙って頷くしかできなかった。
その後三か月ほどしてから、佐々木君が手術を受けて無事成功したという話を聞いた。
腸に悪性腫瘍ができていたのを偶然早期発見できたので、命に別条はなし。再発の恐れも低いとのことだった。
ここに書くことではないのかもしれませんが、とあるシーンを入れるか入れまいか悩んでおります。
「和泉は、それこそお兄さんから何か聞いたみたいだったよ」
の内容を知りたいでしょうか?
ここにはいじめっ子の顛末も含まれます。(ちょっと後味が悪いかもしれません)
よろしければ、感想をお待ちしています。
次回、エピローグです。




