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閑話 本日はお花見なり。

お久しぶりです。

エイプリルフールネタではありません。

ネタを思いついたのと、ライト文芸賞2ARに応募してみましたので、楽しんでいただけたら幸いです。

 




 世間一般的には今日から新年度の四月一日。エイプリルフールでもあるけど、大学生の私達は普通に春休みだ。

 ……ということで。


「今日は~、お花見でーす」

 いえーい、と私が一升瓶を持ち上げると、すかさず環の突っ込みが入った。

「台詞と行動が違う!」

「花より団子の典型例みたいだね」

 黒崎君からも笑い混じりで言われた。

「えー、だって、今だけじゃない。日程も気にせずに昼間からお花見できるのって」

 三年生になったので、今年から本格的に就職活動が始まる。いや、早い人はもっと前からやってるけどさ。社会人になったら、平日にみんなでのんびりなんて中々出来ないでしょう?

「お前の場合、飲めたら何でもOKなような気もするぞ」

「それは言っちゃおしまいよ」

 和泉君の突っ込みにはさすがに返した。一人で飲んでも美味しくな……くもないけど、つまんないでしょ。

「お酒はみんなで楽しく飲んでなんぼです~」


 因みに、花見の場所はウチの神社だ。桜の古木があちこちにあるので、自慢じゃないけど桜の季節は本当に綺麗なんだよ。神社で騒ぐのはNGだから、あくまでも静かにサクラを愛でつつお酒を(たしな)む、ね。


 お参りがてら桜を見に来る参拝者に迷惑がかからないように、一般人には開放していない滝へ行く道の途中にある桜の大木の下に、レジャーシートを広げて花見スタートです。

 母と環と一応私も参加して作ったお弁当を広げ、さらにお猪口ではこぼしやすいので、ぐい飲み代わりの小ぶりな湯飲みを並べた。家が近くなので、紙皿なんて無粋なものではなく、全部ちゃんとした陶器の器だ。お箸だけは割りばしだけど。

 一応場所をお借りしているようなものなので、神社のご神体である滝に近い所に、大吟醸とお料理をのせたお皿と湯飲みを並べ、さらにお箸も添えた後、一礼してから柏手を打っておいた。


「私達もやっといた方がいい? っていうか、こんな中途半端なところでいいの?」

「うん? ……ああ、こういうものは気持だもの。やっておいた方がいいって環が思うなら、そうしたら? 私もどうせお供えするなら、滝まで行った方がいいかと思ったんだけど……」

 あっちはあっちで、滝つぼにせり出すようにして桜が枝を伸ばしているので、桜吹雪が舞い散る所なんてすっごく綺麗だ。今居る所に負けず劣らずの花見スポットでもある。


「ウチの兄から『素面ならともかく、酔って足元があやしい時は、危ないから絶対に滝に近づくな』って言われちゃってね~」

「…………」

 私だけじゃなくて、わざわざ和泉君にまで近づけるなよと念押ししていたのだから、兄は私を本当に信用していない。……ちょっと見るくらいならいいじゃないのって思わなくもないけどさ。

 環と黒崎君の視線が何故か和泉君の方へ。和泉君は黙って首を横に振る。そして二人は頷いた。……なんなんでしょうね、そのアイコンタクトは。


「……行きたいの?」

「ううん、ここで十分。それに、滝の近くは寒そうじゃない?」

「まあ、そうだね」

 流れる水の近くだからして、確かに気温は下がると思う。環はレジャーシートの上に座ると空を見上げた。

「こんなに綺麗なんだから、本当にここでいいよ。……すごく綺麗だねー」

 環につられて空を見上げれば、視界の中は全て満開の桜。天気はイマイチだけど、みっしり咲いているので気にならない。それこそ若干肌寒いけど、ここはほら、一献傾ければすぐに温まるでしょう。


「いただきます……と、乾杯」

 周りが静かなので、テンション上げずに湯飲みを高く上げて乾杯。お酒はお供えの横流しだと心苦しいと皆が言うので、ちゃんと買った物だ。辛口の大吟醸、大変美味しゅうございます。



「──願わくは花の下にて春死なん そのきさらぎの望月の頃」

 黒崎君が飲みながらふっと呟いた。本人も自分が口に出してるって思っていなかったみたいで、私を含めてみんなの視線が自分に向いているのに気づいて、慌てて言った。


「旧暦の如月って、ちょうど今頃だろ。こんな風景だったのかなって思ってさ。……ちょっと天気があやしいけど、人はいないし静かだし、すごく綺麗だね」

「西行法師の辞世の句だっけ」

 生前に作った辞世の句通りに、春に亡くなったと勉強したことがある。確かに、こんな綺麗な景色を最後に見られたら、それは幸せな終わりだろう。


 今年の桜はいつもよりも早く満開になったみたいで、今日の天気は曇りのち雨。私達も花見の予定を立ててはいたものの、急遽この日にしたのは、この雨で散ってしまう可能性が高いと天気予報士さんが言っていたからだ。

「急に予定変更したから今日になっちゃったけど、雨降らないと良いね」

 黒崎君が視線を遠くに移す。その先に見える黒雲は、どう見ても雨雲だった。

 まあ当初の予定を繰り上げて、の計画だったので、お天気が悪いのは仕方がない。確かに昨日だったら雨の心配はなかったろう。


「そう言えば、『雨は花見やっている間は持つだろ』って、先輩にしては割と確信的に言ってたけど、理由分かるか?」

 このからあげおいしーと、骨付きチキンのからあげを頬張っている私に、答えは教えてくれなかったんだと、和泉君が言う。ついでに、黒崎君と環の視線も私に集中した。……興味津津な顔だね。


「うーん、偶然だと思うんだけどさー」

 兄から前に言われた事を思い出しつつ、偶然だと言う事を強調しておく。理由を聞かれても根拠も何もないんだから、説明を求められても困るんだよね、本当は。



 言わずと知れた、ウチの神社のご本尊は竜神だ。司るは水。


「ウチの神社のお祭りは、昔は雨乞いの儀式だったんだって。ほら、水不足に備えてってことなんだけど」

 米作りに水は不可欠なので、大昔は毎年普通にお祭りして、どうしようもなくなった時だけ生贄捧げてたっぽいのは余談。


「今でもなぜかお祭りが終わった後は、大体雨が降るんだよねー」

「え? 今でも??」

「うん」


 渇水とか叫ばれている時でも、雨が降るんだよ。天気雨みたく晴れているのにちょびっとだけ振ってお終いって時もあるけどさ。

「でも逆に、雨が降っているとお祭りの日は雨が止むの」

 台風が来て大雨注意報とかが出ていても、お祭りやっている時は不思議と雨が止むっていうか、弱くなるんだよ。で、お祭りが終わると、雨が酷くなる……らしい。台風云々の話しは、私の子供の頃の出来事なので知らない。


「ハレの日は、水神さんもちゃんと考えてくれるって氏子さん達が言ってる」

 偶然が続いてるだけじゃない? 思いこみなんじゃない? って思わなくもないけど、突っ込みはしない。小雨が降ったら、私は「雨降ってるじゃない」って思うけど、人によっては「この程度で済んでる」って感じるのは、まあ、本人の感覚だからさ。


「で、これも偶然だと思うけど、私が楽しみにしている行事の時は雨が降りにくくないかって、兄が言いだしてね」

 最初はいつだったかな?今みたいなお花見や修学旅行なんかは、天気予報が雨でも、何とかなった事が数回。で、嫌いなマラソン大会とかの日に、急に豪雨になって中止になったことが……一回か二回、あったかな?


「ラッキーって思って後は忘れてたから、どうだったかはっきり覚えていない」

 イワシの頭も信心からって言うし、兄が「ウチの神社のご本尊すげー」って思うのは、信仰のなせる技だと私は思ってる。私も偶然とはいえ、助かったことは助かったので、お礼は欠かさないようにして来た。お参りしてお礼言うのはタダだし!


「……なに、その物言いたげな顔は」

 奇妙に歪んだ三人の顔は、言いたいことがあるのに言えないみたいに見えた……んだけど、やおら一斉にお供えに向かって柏手を打って深々と一礼した。


(ばち)が当たりませんように……」

「なにとぞ、穏便に……」

「言っても無駄かもしれんが、鈍いのはどうしようもないんで、その点に関しては諦めてくれ……」


「和泉君、ちょっと酷くない?」

 何でお祈りし始めたのかは分からなくても、目の前で鈍いって言われれば、いくらなんでも誰のことを言っているか分かるんだよ!


 盛大に文句を言ったんだけど、まあまあと黒崎君と環に適当なことを言われて宥められた。ふーんっっだ!




 ……その後、気分を取り直してもう一度乾杯してから、お弁当食べて、美味しいお酒を飲んで、桜を堪能して。

 就職活動が始まるねーっていう話しをしたり、めざす企業の噂話をしたりした。


 なぜか私にどこそこの企業はどう思う? なんて訊いて来たので、あれはいいけど、これはなんか嫌、とか完全に感情で物を言った後、誰かから、お祭りの時に踊った巫女舞を見せてよって言われたんで、美味しいお酒でご機嫌だった私は、舞を舞って見せて上げた。


「衣装がないと様にならないよねー」

 とは言ったけど、四人全員から拍手もらったんでいいとしよう。







 結局、お開きになるまで雨は降らなかったんだけど、曇りのち雨の予報だったんだから、ぴったりだ。最近の気象庁は予報の精度を上げたよね。


 降り始めた小雨の中、後片付けをしている途中で、

「お供えしたご飯とお酒がなくなってる……」

 って黒崎君が戦慄(わなな)いたけど、そんなもん。


「そりゃあ、誰かが食べたんでしょー? 後半は皆結構飲んでたし、誰か料理が足りないから食べちゃうっよって言ってたよね? 」


 三人とも聞いていないって首を横に振った。

「あれ、じゃあ、勘違い?? ……でも、実際なくなってるんだから誰かが食べたんだよね? 無駄にならなくて良かったじゃない」

 そう言うと、また奇妙な顔をされた。

「──心底、和歌子の図太さが羨ましい」

 更に、本当にうらやましそうに環に言われたけど、褒めてないよね?




 最後にもう一度、皆でお礼にお参りしてから帰ったんだけど、三人の顔色が若干悪かったような気がする。






 蛇足として。

 私が感情論で難癖付けた企業は、サービス残業を無理やりさせられて心身を壊した社員さんの内部告発により、企業イメージがダウンして、すっかりブラックな印象になってしまったらしい。

 感情論も役に立つもんだ。






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― 新着の感想 ―
四人から拍手もらっとるやんけwwww 大好きで何度も読み返しています! 神様推しです(笑) 千鶴ちゃんと神様の絡みも大好きです!
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