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後日談  - 山名環 -

書くつもりはなかったのですが、100万PVを超えていましたので、お礼がてら。

突発ネタにつき、ちょっと甘い部分もあるかもしれません。


 






 カラオケに行った帰り道、コンビニに寄りたいからここで別れよう、と和歌子に言ったら引き止められた。


「うーんとね、明日にしない?」


 頼りない口調ではあるし、確信を持って言っている訳ではなさそうなんだけど、いつものアレという割に呂律も足元もしっかりしている。

 カラオケに行って、明日はお休みだからって飲んでいたのは見ていたけど、チューハイを二杯だった。アレになるのは、もう少し深酒をした時だったと思う。

 ……思うけど、ほろ酔い加減でも、この子に引き止められているのに、それでもあえて行く勇気は私にはなかった。


 カラオケの時に見慣れない紙袋を持っているから何かと思って聞いてみたら、

「和泉君の先輩に、アドバイスのお礼って貰っちゃったんだよー。内定貰ったんだって。お祝いをしなきゃいけないのはこっちなのにねー」

 と困惑交じりに言っていたのを聞いたし。



 先輩というのは、この間の強制飲み会のメンバーだったのはすぐに分かった。アドバイスというか、あれはどっちかと言えば、いつものアレに近いと思う。……その割にあんまり酔っぱらった様子はなかったけど、あの時の状況からすれば納得はできたから、突っ込まなかったけどね。


 和歌子が歌っている最中にこっそり和泉君に聞いてみたら、「耳の後ろと首が白い、積極的に」と言われた先輩はともかく、「二がいい」と言われた先輩は、なにそれ、偶然?というような有様だったみたい。相変わらず大概な事をやらかしたのね。


 変わった面接をするので有名なその会社、今回の第一試験は会社内イベントフロアにばら撒かれた問題を、グループで選択してお互いに協力して答えるというオリエンテーリング方式だったそうだ。

 普通にやっていたら絶対に時間内にできない問題量らしくて、初めて会った相手でも軋轢を生まずに協力して問題に取り組めるか、リーダーシップを取れるかといった、行動力を測る試験らしい。

 そこでその先輩は、問題を読む側とそのヒントないし答えを探してくる側の二つにグループを分けることを提案して、答えを探してくる方の第二グループのリーダーとして答えを集めまくった。

 分業と奮闘のおかげで、グループ全員で右往左往している他のチームを尻目に、なんとか最後の設問までたどり着いたんだけど、時間切れで答えが分からなかった為、ダメ元でイ、ロ、ハ、ニ、ホから「ニ」を選んで提出し、続く一斉面接で、最後の問題の正解者は君達のグループだけだったよと、褒められたそうだ。

 また一斉面接の座った順番が二番目だったから、すっかりリラックスして訊かれたことに答えられたらしく、その後の筆記試験も、分からない答えは二を選んで提出して……それが合っていたかどうかは分からないけれど、とにかく最終的に内定をもらったらしい。


 この会社は二番目に行きたい会社だったけれど、手応えの良さに本命の会社への励みにしようと思っていた様なんだけど、二番目。という数字が気がかりで、先輩は最終的に本命の会社の試験を辞退したんだって。……よくも思い切ったものよね。

 そもそも、この先輩は本命の会社の試験がこれからだったので、晶さんに相談したかったらしいのだけど、例の騒ぎでちゃんと話を聞く前に有耶無耶になってしまったから、藁をもすがる思いだった……要は、それだけ第一志望の会社に入社したかったって言うのに。

 なんでも、飲み会の後に和歌子のお兄さんから、和泉君の問題と一緒に、本人に色々言わない、結果を周りに漏らさないなら言われた通りに行動する事を勧めるって進言されていたらしいんだけど。


 一次面接をクリアしていたので、本命の会社の人事担当者には、勿体無いよと引き止められたんだけど、試験を受ける毎に「遊びで受ける人を排除する」目的で試験の受験にお金がかかるんだって。正直、そこまでしてお金儲けたいのかしら?って思ったのは私だけ?

 さらに今回の二次試験にも幾許かのお金を払わないといけなくて、一回だけならまだしも、二回目にも請求されるのが何となく納得が出来なかったので、改めて断ることにしたらしい。


 そうしたら。


 その後、すぐに断った方の会社が会社更生法を申請したと報道されて、もし試験を受けていたら結果に関わらず受験料は勿体ないことになっていたし、内定をもらって他の会社を断っていたら、時期的にも下手すると就職浪人していたかもしれない、とこぼしていたそうだ。



 ……正直、本当にあの子がどこまで分かっていて言っているのかは分からない。

 分からないけど、こればっかりは、あえて進言に逆らう勇気は、私はない。


 コンビニで限定スイーツ買って来てって、うちの母親に頼まれていたんだけど、それは別にまた今度にすればいいし。


「あ、ねえ。それならさー。何時かじゃないけど、家に泊まりに来ない?」

「ん?え、全員で、ってこと?」

「そうそう。明日何も約束がなければ、だけど」


 明日は、黒崎君とデートの約束をしていた。していたけど、別に朝からデートってわけじゃなかったし。


 そんなことを思いながらちらっと黒崎君の方を見ると、彼も私の方を見て小さく頷いた。……やっぱり、同じこと考えているよね。勧められたことは素直に受け止めるべし、って。


「ちょっと待って。家に連絡してみないと何とも言えないから」

 そう言って黒崎君と私は、家に連絡をして許可を貰い、久しぶりに和歌子の家に泊めてもらう事にした。



 特にその日の夜は何事もなかった。……多分。

 多分って言うのは、夢を見たから。


 黒崎君と和泉君は、以前に泊めてもらったっていう客間に二人で寝ているんだけど、私は和歌子の部屋に布団を敷いて一緒に寝たのよ。 その時に見た……夢だよね、うん。現実である訳ない。


 何でだか夜中に目が覚めて、ふっと和歌子の方を見たらば。

 やたら綺麗というか、寒気が来るようなちょーイケメンの男の人が、和歌子の頭を撫でてたのよ。


 でも、その人が座っている所って、本当は壁だもん。夜で真っ暗なのに顔や着ている豪奢な着物の模様がはっきり見えるって事は、体全体が光ってるって事だし、うん、ないない、現実じゃない。

 実際に壁から突き出ているとしたらまるっきりホラーだけど、全然怖くないし。

 何だか和歌子の頭を撫でているのも、慈しんでいるというか、可愛がっているペットを撫でてやるみたいに見えたしね。


 朝起きてみて確認したら、やっぱり物理的に不可能な立ち位置だったって分かったので、私は妙に納得したんだけど、身支度して朝ごはんをいただきにダイニングに行ったら、朝から神妙な顔をした黒崎君といつもながら無表情な和泉君が真剣な顔をしてテレビを見ていた。……なにこれ、既視感(デジャ・ヴュ)


「……どうしたの?」


「あー」

「コンビニ強盗、だって」


 疲れた様な声を出す二人に、私は思わずテレビの方を振り返った。

 中継が入っている映像を見ると……間違いない、私が行こうとしていたコンビニで、犯行時刻は、昨夜、あのまま行っていたら鉢合わせていたと思われる時間帯、だった。


『ただ今犯人は包丁を持ったまま逃走を続けており、警察が行方を捜査しています。不要不急のお出かけは避けて、戸締りに気を付けてください』

 アナウンサーの声がテレビから聞こえる。


 コンビニでお金を奪い、店員さんを刺して逃げている犯人が逃走した方面は、今日遊びに行こうと思っていた方で──黒崎君を見れば小さく首を横に振っている。──分かってる。私も、触れないようにするから。


 当の本人は、

「良かったねぇ、昨日行かなくてー。すごい偶然!」

 なんて呟いているけど、相変わらず暢気すぎる。


 私はその時、なぜかふっと昨夜見た夢の男の人の事を思い出した。やたら綺麗な横顔の、背の高い美しい立ち姿の青年。青年なのに、何処か老成した雰囲気があった。


 ──もし。万が一。あれが、ここのご本尊様の化身か何か、だったとして。


 あんな高スペックの相手と勝負しなければいけない和泉君に、激しい同情の念を覚えずにいられなかった。ただでさえ本人がアレだから苦労も多いのに。私が男だったらほんと無理だもの。

 

 ぽん、と肩をたたいて、

「心の底から応援しているから、これからもがんばってね」


 そう言ったら、黒崎君も似た様なことを考えていたみたい。二人で合掌したら、すごく嫌そうな顔をされた。

「二人だって、一蓮托生だろう?」


 いやいや、私たちはあくまでも友人のスタンスだから。勿論これからも仲良くするつもりだけど、逆鱗に触れるような羽目にはなりたくないもの。カミサマと張り合うつもりはさらさらないし、ね。


「とにかく、がんばれ。出来ることはするけど、あくまでも出来る事だけだから」



 黒崎君もそんなことを言って、ひたすら和泉君を励ましていた。……それしかできなかったとも言う。






感想で、神様推ししていただいたお二人に捧げますw

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