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年齢がそんなに歳をとっていないので、教授→准教授に変更しました。勉強不足でした。すみません。
準備しながら和泉君に、学食に来るようにメールを打ってから家を出た。
私は最初から授業に出るつもりないので、環には返信していないままだ。どうせなら会って話して、お礼とお詫びと事情説明をしたいけど、時間が掛かっちゃうので、本当に申し訳ないけど後回し。ある意味、リミットの存在する和泉君の方を優先させてもらおう。
全部片付いたら……和泉君との事を含めてちゃんと報告しよう。──そう思って。
学校に付く前に和泉君から返信があって、待ち合わせ場所の変更を示唆されたけど、あえて無視した。待ち合わせ場所を人目に付きやすい場所にしたのは、勿論、意図あっての事だから変えられると困るんだよね。
学食に行くと、お昼を少し過ぎたくらいだったので、ほどほどに混雑していた。
まばらに開いている席がある状態で、和泉君を探して奥の方へ行くと、さほど歩かないうちに見つけた。
こういう時、普段は和泉君の方が先に私を見つけることが多いんだけど、気が付かないで、ぼんやりとした視線を机に向けて座っている。
……昨日あまり寝てないんだろう。疲れた様子で、顔色はあまりよくない。それとも騒ぎに巻き込まれた関係で、何かあったんだろうか?
「和泉君、お待たせー」
ちょっと離れたところから、大きめの声を出して手を振る。周囲にいた何人かの視線が、こっちを向いたのを感じながら近寄ると、私の態度がやたら朗らかなのに驚いたように目を見開いた後、すぐに立ち上がって手を掴まれた。
「外に出よう」
ありゃ、それは駄目なのよと思ったところで、
「あれー?和泉、その子、カノジョ?」
背後から声を掛けられて、一瞬、和泉君の腕から力が抜けた。
すかさず私は大袈裟に和泉君の腕にすがりついて、振り向く。なかなかいいタイミングだったよ、と思いながら。
声の主は格好も態度も随分ちゃらい二人連れで、二人とも興味に目を輝かせている。浮かんだ笑みがどこか歪んで見えるのは、多分、彼女に関心がある訳じゃなくて、他にあるからだろう。……これなら、目的を達成できそうかな?なんて思いながら、二人連れに向かってにっこりと笑った。
「そうですよー。……和泉君、友達?」
「……同じ講義の奴」
和泉君の口調が重い。顔色変わらないけど、分かる。
この人達、友達って紹介されるほど仲良い訳じゃないのに、好奇心丸出しの態度といい、声の大きさといい、多分噂の事を知っていて野次馬根性で声をかけて来たんだな。
「彼女、もしかして、昨日の騒ぎを知らないんじゃね?」
ほら、連れの友達を話し掛けるみたいにしてるけど、その実、こっちに聞こえるように言ってるし。
「あ、それって昨日の駅前近くの騒ぎの事?知ってるよ、友達が女の子だから駅まで送って行ったら、なんか、騒ぎに巻き込まれたんだよね」
「……不倫がどうこう叫んでいたって話だけど、それは知ってんの?」
「その場にはうちの兄も居たんで、後から教えて貰ったんだけど、ただ一緒に歩いていただけで間男に間違えられたらしいね」
嘘は言ってないよ。連れ立ってなくて、通りがかっただけって言ってないだけで。
「昨日、弓道部の飲み会に参加させて貰っていたんだけど、私は飲み過ぎたみたいで先に帰ったんだよね。その場にいたら、何か出来たかもしれないのにって聞いた時思ったよ」
これも嘘は言ってない。可能性の話であって、決定事項じゃないから。
始終朗らかに笑いながらそんな話をした後、最後にこう言った。
「これから和泉君とカラオケに行くから、それじゃあね」
ひらひら手を振って、踵を返す。 ほら、行こうと組んだ腕を引っ張ると、和泉君はほんの少し迷ったようだったけど、すぐに歩き出した。
「この後の講義どうすんのー?」
また背中から声がかかる。思った展開にならなかった苛立ちが混じったような声だ。人の不幸は蜜の味が出来なかったから。
気のせいかもしれないけど、そんな風に聞こえた。
「一回くらい休んだって、どうってことない。……それとも、代返してくれるか?」
和泉君がそう返すと、二人はただ肩を竦めるだけで返事をしなかった。
「もういい?はーやく、いこっ」
後ろにハートマークでも付いていそうな口調を敢えてしながら、上手くあの二人が話を広めてくれるといいなー思いつつ、これからデートなんだよアピールをしながら学食から出た。
幸いにしてそれ以上の追及はなく、一見ラブラブな二人な様子に見えた事だろう。うん。これくらいやれば、変な噂があったとしても、多少の上書きは出来たはずだよね。
満足な笑みを浮かべたら、和泉君から幾分訝しげに聞かれた。
「本当にカラオケに行くのか?」
「え、行くよ?……和泉君、お昼食べた?」
「いや、食べていない」
「駅前のカラオケ屋さん、ご飯も美味しいよ。ついでに、歌わないって申請すると機材使わない分、値引きしてくれるんだって」
「……そうか。それじゃあちょうどいいな」
言外の意味を悟って、和泉君が淡く笑った。……なんか悲壮感漂っているけど、勘違いしてるよ。
「あくまでも話し合いだからね。そこのところ間違えないでね」
「……分かった」
その返事は分かっていなさそうな感じだけど、とにかく話し合える密室へ移動しようと、とっとと歩き出した。私がせっせと歩いても、足の長さの差で和泉君にはゆっくりになるんだけど、和泉君の歩みは私よりも遅い。私が早歩きよりも少し遅くすると、和泉君はもっと遅くなる。
あの、子牛が市場に売られるわけじゃないのよ、なにその暗い目つき。
「別れ話じゃないよ」
「そうか」
……やっぱりわかっていない気がする。
それ以上の説得は無駄かと思って、努めて朗らかにしつつも、お互い無言でカラオケ屋さんまで歩いて行った。
平日の昼間なので、予想通りに待ち時間なしですぐに部屋に通された。食事する時間もあるから、余裕を見て二時間借りることにしたけど、価格も予想していたよりも安い。下手なファミレスに行くよりはよっぽどいいな、と改めて思った。
他の部屋からの音が微妙に漏れているけど、逆に周囲の目を気にしないで馬鹿騒ぎできる。食事メインなお店じゃないから若干フードメニューが乏しいけど、その分ドリンクメニューが豊富だし、お酒の種類も多いから、今度はここで宴会でもいいかもしれない。
そんなことを思いながら、和泉君にメニューを手渡した。
「来るのに時間がかかるだろうから、先に頼んじゃおう。話し合いしている時に持って来てもらっても、気まずいでしょう?」
和泉君はそれどころじゃないのか、いらないとか言い出したので、もう一度「別れ話じゃないから」と念押しをする羽目になった。
「……本当に?」
こっくり頷くと、固かった表情がちょっと緩む。……この鉄面皮の表情が読めるようになった私も、大した物だと思うよ、うん。
「……ただ、怒っている事は怒っているからね」
と言うと、私の表情の中に何を見たのか、和泉君の腰が引けた。何それ失礼な。
まあ、顔色が悪いので追及の手を緩めて「夕べは何時に寝たの?」と訊いたら「……寝てない」と帰ってきた。
体力があるから徹夜の一晩や二晩、平気だって前に言っていたような気がするけど、今回はプラス、心労だからね。
「顔色あまり良くないし、せめてご飯はちゃんと食べないと駄目だよ。……勝手に頼んじゃうからね」
中華系のメニューがあったので、野菜炒めとチャーハンに鳥の唐揚げに小籠包なんなのがっつり系のご飯とドリンクバーを頼んだ。
中華粥みたいなのがあれば良かったんだけど、残念ながらそれはなかったし、和泉君も多少へこんでも食欲が無くなるタイプではないので、とりあえず栄養摂取のつもりだったんだけど、和泉君の反応は微妙だった。
「何?餃子も頼んだ方が良かった?密室で餃子は止めた方がいいと思ったんだけど?」
「……いや、昨日の今日で、中華で餃子なのかと、お前の図太さに関心しただけだ」
「何それ失礼な」
「いや、言葉は悪いかもしれないが、誉めているぞ」
嘘だ、絶対嘘。デリカシーないとか思っていそう。……そう思ったけど、和泉君が今度こそ楽しそうに笑っているので、ようやく本当に別れ話じゃないと実感したみたいだ。
「……とにかく。言いたいことも、聞きたいこともあるけど、基本的には話し合いだから、ちゃんとご飯を食べよう」
ご飯を食べながら面白くない話をするよりは、ご飯を食べてから話した方がマシだと思ったんだろう。和泉君は諦めたようにドリンクバーに飲み物を取に行った。
中途半端なところで終わっていますが、話し合いが長くなってしまったので分けます。




