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若干下品な表現があります。
お気に入りと評価ありがとうございます。
小学校5年生の表示を追加しました。
ふらふらしていたのは本当。お店にいた段階で手元も大分怪しくなっていて、お酒を止めてお水を飲んでいたものの、水のたっぷり入っていたコップをひっくり返して、今日初対面の男子合コンメンバー、佐々木君のジーンズをびしょぬれにした挙句に。
「セクハラ?」
「まあ、そう取られても仕方ないんじゃないかな?」
黒崎君も苦笑を浮かべている。
「謝りながらお絞りで拭いているのはいいとしても、黒い、取れないと連呼して下腹部あたりを撫でまわしていた。因みにブラックジーンズでない、普通のジーンズだった」
ありがとう、和泉君。すごく冷静に指摘してくれて。
「水森さんは基本的に楽しい酔っ払いだったから、佐々木も怒ってはいなかったけど、困ってはいたね」
黒崎君もトドメを刺さないで下さい。
「あー、なんとなく覚えてる。うん、やらかしたね」
さらに、今度は女子メンバーの谷さんに良く分からない絡み方をしたそうな。
「右と左だったら右だから。って三回くらい言い聞かせて、本人にも復唱を要求してたのよ」
帰り際にも、念を押すように「右」と言っていたらしい。謎だ。自分が分からない。記憶はあるけど、経緯がさっぱり覚えていない。
「で、極めつけが黒崎君に」
足元があやしいので自分の家に連れて行こうとしてたら、環が声をかける前に私が黒崎君に声を掛けていた。
「黒崎君、私危ないと思うのよ。このまま一人で帰ると」
「うん、そうだろうね。……送って行こうか?」
「声を掛けられたから一応、礼儀として言ってみたんだけど。ふらふらしながら満面の笑顔で『ううん、送らなくていい。泊まって行こう』って言われて、びっくりしてね」
まさかの逆お持ち帰り宣言をしたらしい。
終いには呆然としている黒崎君に「かーえーさーなーいー」と言いながら抱きついたのだそうだ。
「本当に楽しそうに笑いながら言われて、どうしようと思ってたら、山名さんが引き離してくれたんだけど、何がどうあっても一緒に泊まる路線は変えられなかったんで、和泉を巻き込むことにしたんだ」
家の神社は弓を使う神事があるので、兄は嗜みの一つとして弓道を小さな頃からやっている。敷地内に小さな弓道場もあるので、兄の部活の後輩にあたる和泉君は、休みになると弓を引きにやって来るのだ。部活で使う弓道場より自由に引けるし、何より静かで良いらしい。まあ、山の中だし。神社で騒ぐ人はいないよね。
学部が違うのでほぼ接点のない和泉君を私が知っているのは、そういう理由なんです。
「元々、明日……って今日のことだけど、弓を引きに行かせてもらう約束をしている、って聞いてたから良かったよ。俺、お持ち帰りされるようなタイプじゃないし」
「いやいやいや、そんなご謙遜を。賢そうな顔立ちが大変結構ですよ」
今までに学級委員とかやってたに違いない!って感じの、優しそうかつ面倒見のよさそうな黒崎君。親しくなかったけど、今後はお友達になりたいです。特に、テスト前とかにお世話になりたい。
私がそう言うと、黒崎君はまた笑った。
「こんなに話したことなかったけど、水森さんって面白かったんだね」
褒めてないよね、それ。
「後は、ここに入る時に『四人ですか』って見咎められたのに『そーです。よんぴーなんですー』って堂々と言ってのけて」
うわー、それはさすがにないわー。自分で自分に引く。
「部屋に入ってから私が怒ったら、『よんぴーのぴーは、パーティーのぴーだもーん』ってけらけら笑って、もうどうしてくれようかって感じだったのよ」
更に環の視線が和泉君の方に流れた。え?この段階で随分だけど、私これ以上にやらかしたの?
「折角だから風呂を使わせてもらおうと思った。酒は抜けていたし、着替えは持っていたから」
ああ、和泉君は部活終わってから飲み会直行だったから、弓と一緒に着替えも持ってたんだね。
「和泉が上着を脱いだあたりで『大胸筋と腹筋が』とか『僧帽筋と広背筋が』とか、呪文みたく唱えはじめて」
「最後に、大臀筋に触らせてほしいと言われた」
痴女がいるよ、ここに。穴があったら入りたい。顔が赤くなって青くなってくのが、鏡を見なくても分かるよ。
「えーと、色々ご迷惑をおかけしまして、大変申し訳ありません」
ベッドの上ですが、土下座させていただきます。いえ、前から大変かっこいいお尻だとは思っていましたが、こんな時に欲望がはじけてしまうとは夢にも思っておりませんでした。
「いや、その後はすぐ眠ってしまったから」
「……の割に、起きたら場所が変わってたんだけどね」
最初は、端から黒崎君、和泉君、環、私の順番だったのが、起きてみると私と環の場所が入れ替わっていたらしい。
「えーと、喉が渇いて水を飲んだ記憶が??」
正確には、飲ませてもらった記憶があるんだけど。
「じゃあ、その時に場所がずれちゃったのかな」
実は私寝相が悪いのよ、と言う環。誰も私のお世話をしていないのなら、そうかもしれない。
で、知らないうちに私と和泉君が、くっついていたのね。とりあえず不可抗力を主張しますが。
「あんたが寝ちゃったから、私たちもすぐ寝たの。寝るにはちょっと早い時間だったけど、早起きして人目につかないうちにここを出るつもりだったから」
「でも、スマホのアラームが鳴る前に、ヘリコプターの音が煩くて目が醒めちゃったんだよ」
と、環と黒崎君。二人が先に目を覚ましていたのは、そういう理由だったのか。時計を見ると、朝の五時。言われてみると、また遠くでヘリコプターの音が聞こえる。何かあったのかな?
「俺は抱き枕の性能が良かったせいか、ぐっすりだったな」
「和泉君、もうその辺で勘弁してください」
本気で言った。ライフゼロです。
「みんな起きたし、ファミレスかどこかで朝食を食べて解散にしようか」
黒崎君がそう言ったので、ちくちくといじられていた私はようやく解放された。
洗面所を先に使っていいよと言ってくれたので「紳士!」と感激したら、また笑われた。黒崎君、笑い上戸なのかな?
顔を洗ってくちゃくちゃになった髪をいつものお団子に結ったりしていると、同じく顔を洗っていた環が、真剣な顔をして言った。
「いい?みんなの前でやったことを暴露したのは、危機感を持ちなさいってことなの。今後も飲み会に行くこともあるでしょう?こっちも勧めておいてなんだけど、飲む度にあんなに無防備になったら、いつか絶対痛い目に遭う。それこそお持ち帰りされるよ。和泉君には悪かったけど、あの体勢のまま放置したのは、こうなったら嫌でしょうって学習してもらうつもりだったんだからね」
そうだよね。腕枕なんて普通だったら所謂、事後だものね。
「今回は未遂だけど、酔った勢いで初対面の人とそうなったらどうするの?相手も一人とは限らないでしょうし」
あ゛ー、リアル〇Pになると。……想像しただけで、ものすごく怖い。
「はい。尤もなお言葉です。昨日の自分が恥ずかしいし、現在大変いたたまれないです」
「酒は飲んでも飲まれるな」の標語が頭の中を駆け回っています。
「節度を持って楽しむこと。隙を見せないこと。いい?」
「はい。ごめんなさい。あと、ありがとう。男子二名には、後でもう一度謝ります」
「よろしい」
「そういえば、ここの支払いは?」
「私が代表で払ってるから、ご飯食べる時にでも清算すればいいわよ。合コンの会費は誕生日プレゼント代わりにしてあげる」
「なんかもうお世話になりまして」
環は笑って「どういたしまして」と言ってくれた。
「それにしても、今までお酒飲むことがなかったの?あんなに周りにあるじゃない」
神社だから奉納されるお酒は沢山あるし、儀礼式典でお清めのお酒がふるまわれたりすることもあるんだけど。
「小学校5年生の頃、お水と間違えてお神酒を飲んで、ひっくり返ったことがあったんだよ。それ以来、お父さんは飲ませようとするんだけど、お母さんが怒るんだよね」
だから二度目になるのか、酔っぱらったのって。
「そう。まあ、自分の限界量を知っておくのは悪いことじゃないと思うよ」
「うん、そうだよね」
お酒自体はおいしかったので、限度を越えなきゃ大丈夫。……多分。
身支度を終えて洗面所をでると、迷惑を掛けたことを改めて謝ろうとしたら、
「夕べ引き止めてもらって正解だったみたいだ」
と、黒崎君が呆然とした口調で言った。和泉君も割とポーカーフェイスなんだけど、驚きが目に浮かんでいる。二人の視線の先は……テレビだ。
「繰り返しお伝えしております。昨夜10時過ぎにあった震度4の地震の影響で土砂崩れが起き、乗用車1台とバス1台が巻き込まれました。現在、行方不明の乗用車の運転手を捜索しています。バスの乗客と乗員は、1名が重症、9名が軽症です。場所は……」
アナウンサーが、少し高めの声でしゃべっている。
「これ、俺が家の帰りにいつも乗ってる路線のバス。現場も家の近く。ああ、家は無事って連絡があって大丈夫なんだけど、飲み会の後、引き止められなかったら多分このバスに乗ってた」
大学生の頃、10名くらいの団体で、ラブホを借りて女子会という名の徹夜飲み会をやったことがあります。耐久レースじゃないけど、潰れた人からその辺で雑魚寝するという(笑)
〇ズに見られたくないから、一応、受付の人に「そういう用途でも借りられますか?」と聞いてから借りましたが、目的外の使用は断られることがあるかと思います。
利用したのは大分昔のことなので、念のため。




