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ネタが浮かんだので復活予定にありませんでしたが、投下します。
時期としては、三章の旅行直後くらいのお話になります。
※追加 既に投稿してある部分の移動って出来ないんですね?私がやり方が分からないだけなんでしょうか。ということで、一度削除して新規に投稿しなおしました。内容は変わっていません。
「黒崎君が浮気してるかもしれない??」
環から相談があると大学に呼び出され、その先で言われた台詞がこれだった。
「しっ!声が大きい!」
環が慌てて私の口を塞いだ。学食の隅っこではあるけど適度に騒がしいので、こちらの方に注目している人はいないみたい。私よりも余程大きな環の声でこっちを見た人がいたので、手を外してくれジェスチャーをしてから小声で言った。
「だって、黒崎君だよ。あんなに真面目そうだし、穏やかだし、誠実そうだし、額辺りもすごく賢そうだし、百万が一、環から別な女の子に心変わりしたとしても二股はしないよ」
あり得なさすぎで、声も大きくなるってもんでしょう。
「ちゃんと別れてから相手と付き合うタイプと見た。それ以外はあり得ない」
私がきっぱり言ったら、机に突っ伏す環。余計不安にさせちゃったかな。……言い方が悪かったか。
「額って……。あんた部位萌えだったの?そう言えば、和泉くんのお尻がお気に入りだったね」
「和泉君といい、環といい、そっちに持って行くか!……お尻の話はもういい加減に忘れて欲しいの、私にとっての黒歴史なんだから。それよりも、どうしてそう思ったのか最初から話してよ」
「……ごめん。軽口でも叩いていないと、なんだか悪い方向にばっかり考えちゃって……」
ぷしゅんと萎れた環は、三日ほど前に黒崎君をデートに誘ったら断られた話をしてくれた。
それだけなら外せない用事があるんだね、で済んだのだが、黒崎君と谷さんが目立たない所にある喫茶店で楽しそうにお茶をしていた所に出くわして、思わず隠れてしまったのだと。結局ストーカーよろしく、お店を出るまで見張っていたけど、かなり長い間色々話をしていたみたい。……親密そうに、話をして時折笑みを交わしている姿を見て、すごくショックを受けたらしい。
「次の日に、一応本人に確認したんだよ。昨日は何かあったの?って。そうしたら『進路に関して、先生に相談に乗ってもらった』って。就職か、進学か迷っているって話は聞いていたんだけど、相手は谷さんでしょ」
「……サプライズで何か計画中とか?」
「私の誕生日も、黒崎君の誕生日も、全然違う。記念日も心当たりがないし、私の事を何か聞きだすんだったら、例え隠し事が絶望的にへたくそとは言え、あんたの所に行くんじゃないの?」
「……相談に乗るの、止めようかな」
こんな時にも一言余分な環に意地悪してそんなことを口にしたら、へにょんと眉毛がハの字になった。
「ああ、もう!この一言余計な性格で、散々喧嘩してきたのに、またやっちゃったわ。……だから、黒崎君から愛想を尽かされても仕方がないよ」
普段はきっぱりはっきりで姉御肌な環は、実は打たれ弱いところがある。自分の性格がきつい自覚があるので、好かれる人には好かれるけど、嫌われる人には……すごく少ないけど、本当に嫌われた経験があるんだって。確かにそれはきつい体験だと思う。……けど。
「大丈夫。絶対そんなことないよ。ちゃんと理由があるんだと思う。変に浮気なんて思って疑ったら、黒崎君がかわいそうだよ」
谷さんだって、黒崎君と環が付きあっている事を知ってる。付き合う切っ掛けの合コンメンバーだったし、サークルの先輩の一件で連絡を取り合う仲になったけど、清楚な感じの凄くいい子だ。
二股?略奪?……あり得ない。
「環はね、ちょっと前の私になってる。黒崎君に好かれている自信が揺らいでるんだよ。大丈夫、自信を持って私は彼女なんだからって、どーんと構えていればいいの」
「……そうかなー?」
「私もね、付き合い始めたのは勢いで流されたみたいだったし、和泉君はポーカーフェイスであんまり饒舌な方じゃないし、何で付き合ってるのか分かんなくなった事があったんだよ」
火事騒ぎの方で吹っ飛んじゃったから、詳しい事情を全然話していなかったけど、一緒に行った旅行先の出来事だったんだよね。
「私だって、ちゃんとそのあたりと向き合ったんだから。不安なら、そうやって口にしないと、伝わらないよ?」
自分のこと棚に上げまくりで言った。
確かに環は性格きつめだけど、黒崎君はそんな環に尻に敷かれているようで、譲れない所は譲らない部分がある。あまり気にしない部分は環の好きにさせてくれているだけで、実は結構頑固だ。そんな所もすごくお似合いだと思うしね。
「ちゃんと話してみなよ。不安に思ったことも全部」
環はしばらく黙って考えていたけど、
「……そうする」
蚊の鳴くような声でそう言って、立ちあがった。
「うん、うじうじしているのって性に合わないし、とっとと行ってけりをつけてくる」
うんうん。その方が環らしい。
「当たって砕けることはないと思うけど、百億が一そんなことになったら、連絡してね。私が黒崎君を殴りに行くから」
環は半泣きみたいな顔をして笑った。
環が黒崎君に会いに行くと言うので、その場で別れて私は和泉君の家へと歩いた。
元々今日は和泉君の家に遊びに行って、久しぶりに飲もうと言う話になっていたので、いつでもいいから自宅へおいでと言われていたんだよ。
環と会うのでちょっと遅れるとメールしたら「掃除と洗濯をしているだけなので、適当に待っている」との返信が来てた。遅れたお詫びに、せめておつまみは買って行こうっと。
お料理の一つも出来ればいいけど、味には全く自信がないから、無難に柿ピーにあたりめ、チーかまなんかの渇きものシリーズでまとめてみましたー。
和泉君は大学の近くに部屋を借りているので、学校の帰りにたまに遊びに行かせてもらっているけど、二人飲み会は初めてだ。
今日のお酒は岩手の地酒なんだって。うちの兄じゃない弓道部の先輩に貰ったお酒で、等級は低くても、あちらは酒造りの本場でもあるから美味しいお酒らしい。
どんな味なんだろう?一升瓶だったら、半分の五合は私のものだよねー?和泉君のお酒って言っても、それくらいの権利はあるよね?
そんなことを思いながら、コンビニで買ったおつまみを持って部屋の前まで行った時、呼び鈴を鳴らす前になんだか争うような声が聞こえて、最後の一歩を出す前に足が止まる。
がんっ!って音がして、乱暴に扉が全開になったから、ぶつかるかもっていう私の予感は当たってたって事だ。中から出てきたのは、見知らぬ女の人。私よりちょっと年上に見えるけど、実際どうなのかは知らない。ちょっと色っぽい感じの、長い髪をした女の人だ。乱れた髪と肩からずり落ちた上着を、慌てたように整えてる。
乱れた髪?ずり落ちた上着?そんな風になる様な事を、今この場でしていたってこと?
目の前にいた私を見て、その人は驚いたように軽く目を見張った後、くすっと鼻で笑った。どこか、見下したみたいに。
「正親の今の彼女?」
「……そうですけど」
正親だって?今だって?と私がムッとしながらそう答えると、部屋の中からバタバタと足音が聞こえて和泉君が出てきた。短パンにTシャツは良くある恰好なんだけど、Tシャツは今着たばかりみたいで裾がめくれあがっていた。
「和歌子、悪い。説明するから、中に入ってくれ。……香澄、もうここへは来るな」
「…………」
名前呼び捨てですか。服乱れてましたよね。もうって事は、以前招いた事があるって事ですよね?
私が黙ったまま固まっていると、後ろを振り返った彼女は和泉君の方に向かって、手を振った。
顔は見えないけど、にっこりと笑ったような気配。
「また後でね」
そう言って、颯爽と歩いて行った。
残されたのは苦虫をかみつぶしたような和泉君と、私。
──ごめん、環。前言撤回してもいいかな……?これって、浮気現場発覚としか思えないんだけど、説明するって言われても聞きたくない。心を落ち着かせるまで、一人で考えたい。
「……和歌子」
逃げ出したい、そう思った私の行動を読んだように和泉君が私の手をつかんだ。
「逃げないでくれ。やましい所は本当に何もないんだ」
嘆願されて、私はしばらく考えてから小さく頷くと、手を引かれながら和泉君の部屋に入ったのだった。
活動報告に書いたとおり、更新が遅くなっています。
復活させた限りはこれをなるべく早めに終わらせるようにしますが、遅くなってしまった場合は、どうかご容赦ください。




