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活動報告にも書きましたが、体調不良のため書くスピードがゆっくりになっています。

また、書けた分だけ投稿していますので、中途半端なところで終わっているかもしれません。ご了承ください。

すみません。

 





「私が、押した?」

 重々しく頷く和泉君。ここはぜひとも否定をしてほしかった。なぜかと言って、中居さんが部屋に案内してくれた時、非常口の位置と一緒に、

「当旅館の非常ベルは、消防署に直結しています」

 と言う事を教えてくれたからだった。即ち、もうこの火災警報は消防署の方にも連絡が行っていて、すぐにこちらに消防士達が押し寄せてくる事になる。現時点で、夜中の一時。「いたずらしました」じゃ済まされない。

 宿に泊まっているお客さん達には安眠妨害、従業員の人には営業妨害。下手をすると賠償責任も掛かって来るかもしれない。

 ただでさえ血の気が下がっている自覚があるのに、さらに目眩がする様な有様だった。


「……やっぱり、酒乱の気があったのね……」

 じりじりと鳴り響く非常ベルの前でぽつりと呟くと、和泉君は首を横に振って

「違う……いや、違わないか」

 どっちなのよ、と突っ込みたくなるようなことを言った。


「特殊な暴れ方は、したな」

「特殊な暴れ方って?」

「……お前は全く覚えていない……んだな?」

「そうだけど……」

 覚えているのは、トランプで遊んでいたところまで。気が付いたら非常ベルの前だったのだが、考えてみればお酒はとっくに抜けていないとおかしいくらいの時間は経っている。ということは、酒乱というよりも夢遊病だろうか。


「その話はあとでしよう。多分、宿の人がもうすぐ来るから、とにかくひたすら謝罪だな」

 一緒に謝ってくれるらしい。

「……ごめんなさい。ありがとう」

 逃げる気はないし、システム上、どこの火災報知器が鳴ったか分かるだろうから、断頭台に上るのを待つ気分でいずれ来るだろう宿の人を待った。




「……遅いね」

 ベルはずっと鳴り続けているし、さすがに目を覚まして廊下に様子を見に来た人もいる。もしかすると内線電話で、フロントに連絡を入れている人もいるかもしれない。

 待ち時間が長く感じるのは普通だから、と最初の頃は思っていたけど、あきらかに遅い。今の警報器は優秀だから、きっと熱センサーや煙センサーで誤報だということも分かっているだろうに。


「一体、どうしたの?」

 眠そうな顔をした黒崎君が、部屋から出てきた。環も顔だけ出している。うん、女の子としたら寝起きかつ寝不足の顔なんて、あまり見せたくないもんね。

「あのね」

 事情を説明しようとしたその時に、全館放送が入った。


『お休みのところ、お客様には大変ご迷惑をおかけして申し訳ありません。ただ今の非常ベルは、当方の自家発電機用のガソリンが漏れ出したことによります』

「────は??」

 思わず声を上げてしまったが、途端に周りから「静にしとけ」と仕草で命じられる。ちょっと理不尽。

『気化して危険な状態ですので、速やかに館外へ避難して下さい。ほんの少しの火気に引火する恐れがあります。煙草の火などを確実に消して、速やかに避難して下さい』


 私が(多分)非常ベルを押したんですけど、そのタイミングとほぼ一緒にガソリンが漏れたってことなんでしょうか?


 茫然としていると、和泉君に手を引っ張られた。

「まずは、貴重品を持って避難」

 全くその通りなので、お財布とスマホを取りに部屋に戻ると、教えてもらった通りに非常口から館外へ避難した。着替える余裕はないので浴衣の上に羽織を着たが、寒いかもしれないので毛布を持ち出させてもらった。




 ガソリンが漏れたって正直、そこまで危険なのかと思ったのだけれど。

「ガソリンは氷点下以下でも引火するからね。燃焼っていうよりも、爆発に近い燃え方をするし」

 と黒崎君が教えてくれた。

「そうなの?」

「そうじゃなきゃ、寒冷地で車が動かないでしょ」

「ああ、そういえばそうだね~」

「漏れた量が分からないから何とも言えないけど、ちょっとした火花でも火が付くから、結構危ない。体にも有毒だし」

 セルフサービスのガソリンスタンドだと、除電装置っていうの?静電気を逃がす装置がついているんだそうだ。静電気の放電……あの、冬によくあるばちっていうのだけで十分引火するのだと聞いて、改めて怖さが分かった。車の免許は持ってないので、全く関わりのない分野だったのだ。

「だから、灯油と違ってポリタンクに保存するのは不可。密閉できる専用の容器を持っていかないと、そもそも売ってもらえないはずなんだけど……別に電気が切れた訳でもないのに、なんでガソリンを持ち出したりしたんだろうね?」

 私が押したはずの非常ベルの扱いも、どうなっているんだかさっぱりだ。


 ぞろぞろと宿からお客さんたちが避難してきたが、今のところパニックにもなっていないし、怪我した人もいないようだけど、一様に不安げな顔をしている。宿の人は万が一引火した時の為に、敷地内から出てもっと距離を取ってください、と声をかけていた。

 そうこうしているうちに、サイレンを鳴らして消防車が到着。火は出ていないので、宿の人が事情を説明すると、さっそく行動を開始している。


「それで、和歌子達は廊下で何やってたの?」

 喧騒が激しいのでそれを避けるのと、もっと離れる様に指示を受けたので、人を避けて道の端の方まで移動した後、起きぬけでボーっと話を聞いていた環が、ようやく頭が回り始めたのか、そんなことを聞いてきた。

「えーーーっとね」

 周りに聞こえてしまうかもしれないので、小さな声で事情を説明すると、環は呆れたような目を向けてきた。

「……あんたはまたやらかしたのね」

「面目次第もございません」

「まあまあ。速やかに避難できたみたいだから、良かったじゃない。実際、火が付いてからのタイミングだったら命の危険もあったろうし。……でも、昨日のこと、覚えてないんだね」

 黒崎君のフォローを頂いたけど、笑い混じり。合コンの時再びなことをやらかしたのでしょうか?

「トランプやってる最中に、寝落ちしたところまでしか覚えていない」

「それ、寝落ちしたんじゃなくて、もっと酔いが回ったから落ちたんだ」

 消防士たちの作業を横目に、私たちは雑談を始めた。待つしかないし、火事になっていないので比較的暢気だ。


「トランプだけど……独り勝ちっていうか、無双状態だった」

「誰が?」

 皆の視線が一斉に私に集まる。

「私??」

 頷かれた。

 最初トランプでも運と勘の左右するような、七並べやババ抜き、大貧民をやっていたのだが、あまりにも「引き」が凄くて全く歯が立たない。

「終いには、神経衰弱で一回も間違わないで最後まで開けられちゃって、方針転換。今度はポーカーとか、ブラックジャックとか運と計算が必要なヤツに切り替えたんだけどやっぱり駄目。そのあたりでほぼすべてのお菓子を巻き上げられて、賭けるものがなくなったの。で、その時にね~。あんたが言った台詞が……」


「私に勝とーなんてー、ひゃくまんねんはや~いのゃよー」


 酔っ払いの挑発に、ぷちーんとなった環と和泉君が取りだしたものは、冷蔵庫の中に入っていたお酒だった。

 ぐい飲みの代わりに湯飲み茶碗に一口分のお酒を注いで、一番の人間がビリの人のお酒を飲める。お酒がなくなるまでに一番負けた人が支払いを持つこと。そして酔えば酔うほど不利になるように、スピードを四人でやるようにルールを変更したのだが、それでも私が勝った、ようだ。

 ほぼすべてのお酒を私が飲み干して潰れたので、ゲームはお開き。私が一位は言わずもがなで、お代を支払うのは三人で頭割りすることに決まった。

「酔っ払いの博打打ちで、ビギナーズラックでも重なったのかなぁ。私、くじ運もないし、勝負ごとにも弱いはずなんだけど。えーっと、ごちそうさまって言っちゃっていいのかな?」


「無謀だったのはこっちだから」

 というようなことを異口同音に言われたので、ありがたくごちそうになることにした。それにしても、覚えていないのは残念だ。夕飯の時に飲んだものとは多分違うお酒が置いてあったのだろうが、楽しみを逃してしまった感じが凄くする。

「寝床を占拠されたから、黒崎があっちへ避難して俺が面倒を見た訳だが……」

 和泉君の視線がふっと黒崎君の方流れると、何かを察したように黒崎君は環の手を取った。環の耳元で何かを囁いて離れていく。


 あんな仕草を見ると、うまくいったみたいだなーとは思うけど。対して、こちらはなんだか不穏な空気が流れているのは気のせい……じゃないよね。潰れてから非常ベル押しまでの間は相変わらず不明のままなんだから。







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