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リクエストにお応えしまして。
本文に出てくる遊園地は、モデルにしたところはありますがフィクションですので、アトラクション内容に関して合致していない部分があります。
よろしくお願いします。
環に「和泉君と付きあってる」と言ったら、ごく普通に「よかったわね」と言われた今日この頃。
「なんで驚かないの?」
「え?和泉君、結構わかりやすくアプローチしてたから、合コンメンバーに誘ってみてよ、って私が黒崎君に言っといたんだけど」
知らなかった事実を聞かされて、逆に驚かされる始末だった。
「馴れ初めは聞いてみたいけど、多分和泉君からだったんでしょ?」
「えーーーーっと」
酔っぱらってる時に手を出されてたとか、告白と同時に襲われたとかが一瞬で駆け巡った。
「あー、はいはいそんなに顔を赤くしちゃって、ごちそうさま。その調子で、私の方の馴れ初めを聞こうなんて思わないでね」
環に釘を刺されてしまった。けち、と思うが、交換にこちらのことを話さなければならなくなるのはいただけない。
「この間のデートはどうだったの?邪魔しちゃったから申し訳なかったんだけど」
私の送ったメールを見た環が和泉君に連絡した結果、助けに来てくれたのは良いけど、色々ごムタイなことをされたことを思えば、感謝は半分くらいだ。ちょっとくらい教えてくれもいいんじゃない?
「別に普通よ。お茶して、映画見て、買い物して、食事して……。和歌子と和泉君の取り合わせも、何やっているか想像付きにくいけど、そんなもんでしょ?」
「…………」
考え込んでしまった私に、環は呆れたような声を出した。
「もしかして、二人でどこにも出かけたことがないの?」
好きだと言われたその日に行くとこまで行ってしまったので、とはとても言えない。
「ちゃんとお付き合いすることになったのって、この間だもん」
その後、本当に刑事さんが来て事情聴取されたりと、なんだかバタバタしていたので、メールや電話のやり取りだけだ。
「え?そうなの?こないだのことは、犬も食わないなんとやらじゃなかったのね」
「違うよー。でも、一方的に怒られることが多いかな」
一緒にいるとき限定でお酒OKは勝ち取ったけど、そもそも誰かと一緒に出かけるときは、その都度連絡を入れろと言われている。相手が異性なら分らないでもないのだが、同性までだとちょっと息苦しい。何か本当に兄がもう一人増えた感じの保護者っぷりだった。
「ああ、それはすごく分る。目を離すと何やらかしているか分かんないところとか」
「なんでそこで納得するの。人を危険人物みたいに」
私はむくれるが、環にさらりと流された。ひどい。
「デートしたことないなら……そうね、Wデートでもしてみる?二人の都合を聞いてみないと分からないけど、遊園地の優待券貰ったの。全部で四枚あるから。ちょっと遠いけど」
ぴらっと見せられたのは、確かにちょっと遠いけどジェットコースターの種類が多くて、お化け屋敷が怖いとかで有名な遊園地の優待チケットだった。入場料が無料になるらしい。
「で、近くに宿でも取って一晩泊らない?確か温泉宿があったはずだし」
環ちゃん、あなた随分積極的ですねー。黒崎君は傍目にも積極的には見えないから、環の方から誘わないと始まらないって言うのもあるのかもしれないけど。
「二人っきりなら親は反対するけど、四人なら許してくれるでしょ。……連絡しちゃうからね」
返事をする前に環は黒崎君にメールを打ち始めてしまったので、私も和泉君にメールを入れておいた。
お泊りで遊園地かー。家の親がなんて言うかな?
朝帰りに赤飯炊かれた記憶はまだ新しい。楽しんでいらっしゃいと言いそうな気もするけど、どうだろう?
はっきり言おう。夜の方はほっといて、私はお酒が飲みたかった。だってあそこはお水のおいしい所だから、お酒もおいしいに決まってる!さすがに酔っ払っている相手に手は出してこないだろうし、言質も取ってある。楽しみだな~。
私はまだ見ぬ美味なるお酒を思い浮かべて、うっとりと微笑んだ。
環と黒崎君は「友達」と四人で行ってくると言って承諾を貰ったらしいが、わたしの場合下手に隠しても無駄なので、堂々と遊びに行きたいと言って了承を得た。
「破目を外しすぎないように。……飲みすぎないように」
母には魂胆がすっかり見抜かれたけれど、それはそれ、これはこれですよ。
さて当日。
「天気がよくてよかったね」
屋外の乗り物が多いこの遊園地では、雨が降ったら運行停止な物が多く、特にジェットコースター系は全滅になる。せっかくパスポートを買ったからには全踏破したいので、雲ひとつない天気にテンションも上がる。
「一番はどれにする?」
「そりゃあ、ジェットコースターよね」
黒崎君の問いに、私と環の声が被った。
「緩急つけて楽しんだ方がいいでしょ?」
「そだねー。結構並ぶだろうから、ジェットコースター連続するよりも間に空いてそうなアトラクション混ぜて、夕方になれば日帰りの人たちがいなくなるから、その時にもう一度乗りたいものがあったら乗るってことでどうかな?」
「……テンション高いな」
通常モードというか、若干低めなのは和泉君。
「……もしかして、こういう乗り物系、苦手なの?」
それだけ立派な体して。
「苦手じゃないが、得意でもない。三半規管は人並みだ」
和泉君がちょっと拗ねたように言った。他人が見ればいつものポーカーフェイスなんだけど、観察していると、なんとなく感情も分かるようになってきた。最初の頃からすると、すごい進歩だ。
とりあえず一番近くのジェットコースターの列に並んで、待っている間にさらに次のアトラクションを何にするか話をした。
「ここのお化け屋敷は有名だから、一日の入場者数が限られているし、早めに行っておきたいんだ」
おお、黒崎君は怖いの平気なんだ。
「じゃあ、そうしようか」
と私が言ったら、なんで全員でこっち見るかな?怖い話は好きだけど、ホラーは苦手と環に言ってあるから?
グループ単位で徒歩でアトラクションを抜ける形になるここのお化け屋敷は、怖がらせることを追求してあって、ものすごく怖いらしい。パンフレットに所要時間は一時間と書いてあるが、そりゃあ、怖かったら進みも鈍くなるだろう。それかちゃっちゃと進んで怖さ回避するかのどちらかだ。歩く速度に個人差があるので、中は小さな小部屋で仕切られており、先に入ったグループが次の部屋に入ると後続のグループがスタートする、という風になっているらしいので、追い越しは出来ないようになっているから、速度を上げても無意味だが。
あまりにも無理だと思ったら、スタッフの人に頼むと途中退場もできるようになっているので、我慢が出来なくなったら素直にリタイアすればいい。
「いいの?幽霊嫌いなんでしょ」
「そりゃあ暗いところで驚かされるのってあんまり得意じゃないけど、怖さを楽しむものじゃない」
「本物じゃないからOKってことかな?」
「そうみたいだな」
なんて黒崎君と和泉君が話している。
「確かに私は幽霊の存在をあんまり信じてないけどさ」
理由は小学校の時の経験が大きいけど、実はもう一つあるんだよね。
「三人ともちょっと考えてみてよ。自分が死んだとして、死んだあともその場にとどまって、誰かに害をもたらす幽霊になれると思う?」
「そこまで恨めないってこと?」
うん、それも正しいけど。と環に頷いてみせる。
「生きてる間だったら、手で鈍器を持ち上げることは簡単にできるけど、幽霊だったら、物を持ち上げるのだけでも相当根性がいるでしょ?それこそ映画に出て来るような、ポルターガイストを起こせるようなの力って、死んだだけで手に入るとは思えないじゃない」
「そうだね。幽霊はなんとなく万能なような気がしてたけど、自分に当てはめてみると、確かに死んだからってできることは少なくなるね」
黒崎君、分かってくれてありがとう。
「人を呪い殺す儀式で丑の刻参りってあるでしょ?アレだってさ。本当に殺したいほど憎いんだったら、わら人形に五寸釘を打ち付ける金槌で、殺したい人の頭叩いた方がまだ簡単だと思うんだよね。呪いで死ぬかどうかなんて、全然分んないじゃない?」
「たしかに、その方がよっぽど早いな」
「菅原道真公とか、平将門とかのレベルになると凄く納得できるんだけど、神様にまで祀られるような存在がその辺にいるとは思えないし。だから幽霊もそんなにいるとは思えないんだよ」
屁理屈入ってるけどね。そういう理由です。
なんとなく納得してもらったところで、ジェットコースターに乗ったあとにお化け屋敷に行ったんだけど、もう本当に怖くて、和泉君にすがり付いてようやく歩いた感じだった。
すがりついた本人が、始終楽しそうにしていたのがむかつく。ジェットコースターで顔色悪くしていたのをからかった仕返し?
もう二度とお化け屋敷なんて行かない。




