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母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
第二章 努力の程度は人それぞれ

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先輩と、ちょっとした事故

「……やっぱり、人多いね」

「そりゃ、文化祭だしな」


 夏希と並んで廊下を歩きながら、二年生の開いた教室をいくつか覗いていく。


 二年生の教室は、どこも似たようなものだった。

 展示だったり、簡単なゲームだったり。どこもそれなりに賑わっているが、最後の文化祭だと、張り切っていた三年のフロアほどの熱気はない。


「いらっしゃ~い、そこの美男美女、たこ焼き買ってかない⋯⋯うわッ」

 などと考えていると、客引きの先輩が何故かとても嫌そうな表情をしてこちらを見ている。美男美女とは嬉しい事を言ってくれる。まぁ九割方、隣にいる夏希のおかげだろう。

 それにしても、呼び止めた割には随分な表情だな。まるで会いたくない奴に会ったかのような顔だ。


「夏希の知り合いか?」

 残念ながら、俺には目の前の先輩の記憶はないため、夏希に確認をとる。


「マジかよお前⋯⋯!」

 何を驚いてるんだ?え?俺この人と知り合いなの?


「えっと⋯⋯私からは言いにくいんだけど」

 夏希が言いにくいとはどういう事だろうか?まさか元彼とかいう奴⋯⋯


「昨日!そこの女の子を!ナンパした先輩だよ!覚えとけよ!」

 ⋯⋯あー、そういやこんな顔だった気がする。


「ああ、昨日の残念な先輩ですか」

「お前喧嘩の売り方巧すぎだろ!」

 失礼な、本当に覚えてなかっただけだ。


「先輩のクラスはたこ焼きと、タピオカドリンクですか、良いですね」

「お前、度胸ありすぎだろ⋯⋯お前のせいで、罰で今日はずっと店番だよ」

 昨日のナンパが問題行動となったらしい先輩は、文化祭を謳歌出来なくなったわけか。可哀想だが、自業自得ではあるな。


「まぁでも、なるほどねぇ⋯⋯そりゃぁ怒るわけだ」

 交互に俺達を見て謎に納得している先輩。明らかに何か勘違いをしているが、説明するのも面倒なので放っておく。


「しゃあねぇ!迷惑かけた罰だ、夏希ちゃんには無料でたこ焼きプレゼントだ」

「あ、ありがとうございます」

 そう言いながら、夏希にたこ焼きと、俺にドリンクまで渡す。


「どうも、先輩」

「お前のじゃない。夏希ちゃんのドリンクだそれは」

 夏希の手が空いてないから俺に渡しただけか、ナンパ先輩の思考回路はあくまでも女の子優先らしい。


「あ、熱⋯⋯」

 夏希が渡されたたこ焼きを齧ると、中から湯気が立つ程の熱さだったようだ。黙ってタピオカドリンクにストローを刺して口元まで渡してやる。


「ん⋯⋯ありがと」

 ストローでドリンクを飲むと、ある程度口の中の温度が下がったようだった。


「火傷すんなよ」

 自然な流れだったろう。夏希が熱い物を食べたので、手元にあった飲み物を渡しただけだ。


「ヒューヒュー、お熱いねぇお二人さん!爆発してくんねぇかな?」

 だというのに、一体何がお熱いんだ?ここまで面倒臭い対応をされて、俺に得が何もないのはどうなんだ?


「先輩、俺には何かないんですか?」

「腹立つからやだ」

 私怨にも程があるだろ、ちゃんと昨日の事は反省したって事になってるのか?


「男女差別じゃんサイテー」

「仕方ねぇなぁ!じゃあ三つだけな」

 随分ケチ臭いな、先輩として、後輩に迷惑をかけたのだからもっと奮発してほしいもんだが。


「じゃあいただきます」

 まぁだが、もらえるだけでありがたいと思っておこう。そう思い。俺も渡されたたこ焼きを頬張る。なるほど、冷凍品でも揚げれば中々良い感じに⋯⋯!?


「カッ⋯⋯」

 辛い!?異常な程に!


「ギャハハハ!騙されたな!それはロシアンたこ焼き!ちなみに三つともデスソースだ!」

 このクソ野郎がぁ!何も反省してねぇじゃねえか!


「おい、何やってる橋本」

「あ」

 教師に一部始終を見られていたのか、先輩が廊下から教室の中にズルズルと引き込まれていった。⋯⋯デジャヴだな。


(今はあんな先輩の事はどうでも良い!)

 目下の課題は、この口の中の焼けるような熱さをどうするかだけなのだ。

 だというのに、販売員である筈のナンパクソ野郎がいなくなったせいで、飲み物が手にはいらない!


「えっと⋯⋯飲む?」

 目の前にストローが付いた飲み物が差し出される。夏希にさっき渡したタピオカドリンクだ。つまり、既に夏希が口を付けた事に⋯⋯


(知るか!んな事!)

 こんな事、小さい頃にしたことが多分ある!今更恥ずかしがるのも可笑しいだろう。などと言い訳だけを並べて、今の問題を解決するためにストローに口を付けた。


「⋯⋯すまん、助かった」

「べ、別に良いよ?私、気にしないし」

 問題は解決した。飲み物によって口の中の熱さは取れたというのに、今度は体全体が熱を帯びるのを感じる。


「えっと⋯⋯飲むね?」

「確認を取らなくていい!」

 そう言って、再びストローに口を付けようとする夏希の方を、俺は見ることが出来なかった。

 そのおかげか、俺は見てしまった。別の方向を向いた際に、こちらに気づかれないように隠れた人影を。

 

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