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母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
第二章 努力の程度は人それぞれ

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お化け屋敷とは何故存在するのか

 お化け屋敷とは、お化けの出そうな状況を作り出して客に恐怖心を煽るために作られた日本の娯楽施設である。


「二名様ご案内でーす!」

 その内容は極めて単純。この世に存在する筈のない生物を、人間が演じているだけだ。まして、たかが文化祭のお化け屋敷。そこまで恐れるような要素はないのである。


「ここ、三年の一組と二組が合併してやってて、凄い本格的らしいよ」

 夏希の言葉に足が止まる。⋯⋯なんで本気出してるんだよ!どうりで入り口の位置と出口が随分離れてると思ったわ!

 つまり、あれか?廊下も使って、二組分の範囲でお化け屋敷を行っているという事か?それはなんとも⋯⋯


「怖い?」

 暗闇の中で夏希の表情は分からないが、声色が弾んでいるのは分かる。⋯⋯こいつ面白がってやがる!


「何のことだ!?お化けなんて、この世に存在しない物にビビるわけ⋯⋯」

 意味もなく言葉を羅列していると、奥の方で大きな悲鳴が響く。


「⋯⋯夏希さん。ここはとても危険な場所かもしれん。一旦撤退するというのはどうだろう?」

 ほら、時間も限られているわけですし、出られなくなったら危ないよ?


「そうだね、急がないと、じゃあ先行くね?」

 待って!置いてくのは違うと思うんだけど!?

 そう言いながら、先に進もうとした夏希の背中が、不意に止まった。


「……?」


 暗闇の奥から、今度は低く、湿った音が聞こえる。

 何かを引きずるような、不規則な音。


「へぇ⋯⋯確かに本格的かも」

 あ、駄目かもこれ。凄まじく情けないが、反射的に俺の手が動いていた。


「ちょ、ちょっと待て!」

「……え?」

 自分でも驚くほど強く、夏希の袖を掴んでしまっていた。


「……やっぱり怖いんだ?」

 からかうような声。いや違う。これは違う。


「違う。危険予知というやつだ。前方に未知の生物が⋯⋯」


 説明している途中で、耳元に突然なにかが、触れた。

「う゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

「ぎゃああああ!!」


 ほとんど同時だった。

 俺の悲鳴と、お化け役の人の演技が。


「……フッ、ご、ごめ⋯⋯可笑しくて⋯⋯」

 暗闇の中で、夏希が声を堪えて笑っている。何が可笑しい。俺は必死だぞ。


「脇阪くん、それだけ反応が良いんだから、お化け屋敷向いてるよ」

「……⋯馬鹿にしてるよな?それ」

「ちょっとしてるかも」

 人の弱みを見て馬鹿にするとは、良い性格してるなお前。


「でも、嬉しいかな、脇阪くんの新しい一面が見れた気がして」

「⋯⋯俺は全く嬉しくない」

 あまりの理不尽さに腹が立ってきた。こういう恐怖体験が吊り橋効果となり、恋愛感情が芽生えたりするらしいが、今の所は夏希の事は嫌いになりそうだ。


「だろうね。⋯⋯袖、そのまま掴んでてもいいから」

 それはなんとも情けなくないか?子供じゃないんだから一人で歩けるわ。


「⋯⋯慣れるまで、ちょっと借りとく」

 そう思っていたのに、夏希に返した言葉は、随分と情けない言葉だった。



「⋯⋯少し、慣れてきた」

 その後も何度も叫びながら、それでも足は前に進めていた。夜目が多少効く様にもなり、状況が理解出来るようになれば、恐怖も少し和らいでくる。


「そっか、ちょっと残念」

「お前は俺に何を期待してるんだよ⋯⋯」

 充分叫んだわ。というか一生分叫んだんじゃないか?


 話で恐怖を誤魔化し、周りを警戒しながら歩いていると、視界の先、暗幕の切れ目から差し込む白い光。出口だ。


「……見えた」


 廊下に繋がるその光を見た瞬間、緊張が緩む。初めてのお化け屋敷で色々と大変だったが、終わって見れば中々良い経験だったかもしれないな。


 ――そう思った時。


 背後から、ヒタ。ヒタ。と、床を這うような音が聞こえた。


「……っ」

 振り返った視界の端に映ったのは、四つん這いで迫ってくる影。どう見ても、人の動きじゃない。


(はーん、良く出来た仕掛けだな)

 今までは暗闇の中歩いていたため、怪異のはっきりとした姿は分からなかったのだが、出口である廊下からの灯りによって、その姿がはっきりと見えるようになっているのだ。素晴らしい構想だと関心する。

 因みに何故ここまでの説明をしているかというと、許容範囲を超えて、もはや頭しか回らないからである。


「あ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛!!」

 ゆっくりとだが、怪異が徐々に近づいてくる。未だに体は動かない。


「脇阪くん」

 夏希に声をかけられた事で、硬直が解ける。横目で見ると、その表情は随分と余裕そうだ。


「走ろっか?」

 そう夏希に言われ、考えるより早く俺の手が伸びていた。


「行くぞ!」

 夏希の手を取って、ほとんど引きずるように走る。

 足音、悲鳴、何もかもが一気に遠ざかって、廊下の光が近づいてくる。


 ガラリ!と思い切り扉を開ける。

「はーいゴールです!お疲れ様でしたー!」

 三年の先輩の声が聞こえる。俺達は明るい廊下へと飛び出していた。


「はぁ……はぁ……」

 肩で息をしながら、繋いだ手を離す。


「もう……暫くは、お化け屋敷は行かない」

 自分でも呆れるくらい、正直な感想だった。


「さて、前田さん的には、俺をからかえて満足か?」

 これだけ情けない姿を見せたんだ。満足してもらえないとしまいには泣くぞ。


「⋯⋯⋯⋯」

 だというのに夏希は答えず、さっきまで俺が掴んでいた自分の手を、じっと見つめている。


「……どうした?」

「な、なんでもない!逃げる時、足速かったね!流石元陸上部!」

 黙っていたかと思えば、急に早口でよく分からない事をまくし立てる。⋯⋯案外夏希も怖かったのか?


「なんだよそれ、現役の奴に言われたくないね」

 その横顔は、俺をからかっていたさっきまでとは少しだけ違って見えた。


「さて、次はどこ行く?」

 時間は有限だ、せっかくならあと二、三個は回れると良いな。


「もう一回お化け屋敷でも良いけど?」

「俺、お前の事嫌いになりそうだわ」

 有限な時間を無駄な事に使うのはやめような?


「そっか、それは困るから辞めとこうかな?」

「そうしてくれ、とりあえずなにか腹に入れてから考えるか」


 午前中だけの自由時間なのだ、だからこそ、夏希と充実した時間を送りたいと考えるのは、間違っていないだろう。


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