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母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
第二章 努力の程度は人それぞれ

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待ち合わせに遅刻する

「じゃあ先生、今日も準備しますんで、たまに見に来てください」

「ああ任せろ。点検が終わったら見に行く」

 早朝、昨日と同じ時間に家庭科室に向かっている。

 下処理そのものは文化祭前日に終わらせているので、昨日は睡眠をある程度とることが出来た。寝てないと誰かさんに怒られるからな。


 家庭科室に着くと既に鍵が開いていたが、文化祭の間はどの教室も完全開放されているため、夏希が既にいるという保証はない。


(あいつ、今日はもう来てるのか?)

 何故か不思議と緊張している。もしも彼女がまた先にいたら、どう声をかけるべきなんだろうか。


「失礼しまーす⋯⋯」

 謎に静かに家庭科室の扉を開ける。そこに彼女の姿はなかった。

(いない、か)

 その事実に一瞬落胆した気持ちを感じて、可笑しくて笑ってしまう。

 無理そうなら来なくても良い、と自分で言った。扉を開けるまでは、先にいた時にはどうするか考えていたくせに。


(まぁ、一人でも準備は出来るだろ)

 自分の感情の整理は後回しにして、一人で仕込みを始める事にする。

 一人で料理をする事なんて、当たり前だったのに、静かな家庭科室が、今だけは少し寂しく感じた。



「⋯⋯よし、ある程度の仕込みは終わったな」

 調理に没頭した甲斐もあり、仕込みは昨日より早く済んだ。昨日の今日で同じ事をしているのだ、ある程度手際良く進められたと感じる。

 それでも、白濁とした水炊きのスープの色が、かなりの時間が経過したことを物語っている。


(大丈夫か?あいつ)

 だというのに、夏希はまだ来ていない。通常の登校時間に来ることも考えたが、律儀な夏希がそんな事を連絡もせずにするとは考えにくい。⋯⋯連絡?


(⋯⋯聞けば良かっただけじゃないか。馬鹿だろ俺)

 こういう時のために連絡手段を手に入れたというのに、普段使わないため、文明の利器に頼る事を忘れていた。


 そう思い、携帯で連絡をとろうとした瞬間、廊下から誰かが走ってくる音が聞こえてくる。この速さ、このテンポ。

「ごめんなさい!遅れた!」


 確認するまでもなく、夏希が急いでここまで来た事が、分かってしまう。とりあえずは何事もなく、無事な事に安堵する。


「二時間遅刻だな」

「本当に、ごめんなさい⋯⋯」

 深々と頭を下げる夏希を見て、対応を間違えた事を痛感する。彼女は責任感が強いのだ。


「悪い。分かりにくい冗談だったな。謝らせたかったわけじゃないんだよ」

 軽口を叩いたつもりだったが、真面目に受け取ってしまったらしい。


「これは、私が悪いから、謝らせて」

 無理に来る必要なんてないんだが⋯⋯相変わらず律儀な奴だな。


「⋯⋯本当に、怒ってるよね?」

 怒ってるわけないだろう。だが、そう言った所で誰も納得はしないか。


「怒ってるわけないだろ?心配はしたけどな」

 なら、本心を伝える事にする。少し重い感情かもしれないが、何かあったんじゃないかとは思った。それだけだ。


「⋯⋯なんか、眠れなくて。やっと寝られたと思ったら、寝坊した」

 そう弁明する彼女の声は小さくて、言い訳というより、事実確認を取っている気分になる。


「そりゃ大変だったな。俺は今日はしっかり寝てきたぞ?ちゃんと寝ないと幼馴染に怒られるからな」

 少しでも空気を和らげたくて、いつもの調子で返す。

 ⋯⋯それが、正解かどうかは、分からないまま。



「脇阪くんは、寝られたんだ」

「なんだよ?ちゃんと寝たことを褒めてほしいもんだけどな」

「⋯⋯そうだね、偉いね」

 随分と投げやりな返事だ。急に不機嫌になった気がするんだが?え?こんな機嫌悪そうな子と文化祭回る事になるの?ちょっと気まずくないか?


(まぁ、寝不足で機嫌が悪いだけだろ)

 そう思う事にして、これ以上考えないことにする。


「もう準備の方は大丈夫だから、もうちょっと寝とけ」

 自分用に持ってきておいたブランケットを夏希に渡す。仮眠用に昨日買ったものなので、汚い事もない。


「今日、楽しみにしてたんだろ?」

「⋯⋯分かった。じゃあちょっとだけ」

 俺の言葉に少しは納得してくれたのか、夏希は椅子を並べた寝床で、ブランケットを被り目を瞑る。


 さて、俺の方は準備を済ませよう。これで手伝いがいなくて準備が終わりませんでした、なんてなったら、夏希が悲しむからな。


(先生も使うか)

 使える物はなんだって使おう。そう思い立ち、夏希を起こさないよう、そっと廊下に出て担任を探す。


「私だけ意識して⋯⋯馬鹿みたい⋯⋯」

 そう小さく呟いた彼女の言葉は、俺の耳には届かなかった。


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