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母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
第二章 努力の程度は人それぞれ

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業務連絡をするだけの話

 スマホの画面を、何度目か分からないくらい点けては消す。ベッドの上で無意識にバタバタと足を動かす。

【脇阪悠人】

 表示されるのは、見慣れた名前と、何の飾り気もないアイコン。


(……別に、私から用があるわけじゃないし)


 そう思いながらも、指は勝手に画面を起こしてしまう。

 連絡先一覧を開いて、閉じて。トーク画面を開いて、また戻る。

 何かが変わるわけでもないのに、それを繰り返していた。


 そんな意味のない行動をしている時に、通知音が鳴る。


 反射的に画面を見る。脇阪くんからだ。


『明日、四時から準備。無理そうなら来なくても大丈夫』


 ⋯⋯それだけ。

 スタンプも、いつもの会話であるような余計な一言もない、完璧な業務連絡。


「……っ」

 だというのに心臓が、ひとつ大きく跳ねた気がする。


(び、びっくりした……)

 内容はシンプルな報告。文化祭の準備だ。

 なのに、画面に彼の名前が出ただけで、胸の奥が騒がしくなる。それと同時に、即座に既読がつけてしまった事に気付く。


(は、速く返事返さなきゃ!)


 焦る。意味もなく、ずっと画面を見てしまっていた自分が、少し恥ずかしい。

 指先で、短く文字を打つ。


『分かりました』


 送信。向こうも既読が付く。

 ……それだけ。終了である。画面には、静かなままのトーク画面が残る。


(……これで、終わり?)


 理由も分からないまま、胸の奥が少しだけ、すうっと冷えた気がした。


 こっちは、こんなに落ち着かないのに。

 ドキドキして、何度も画面を見て、一喜一憂しているというのに。


(……業務連絡だけなんだ)

 そう思った途端、むっとした感情が湧き上がる。


(もう少し、何かあっても)

 勢いで文字を打ち始める。


『明日、どうする?』

『文化祭、一緒に回るんだよね?これってデート』

 そこまで打って、指が止まった。


(……一緒に回る)


 それを、自分がどう認識しているのか。頭の中で無意識に考えていた事を、はっきりと文字にしてしまった。


(……これって、デート?)


 思考が固まる。画面を見つめたまま、動けなくなる。


「……無理」

 送信を取り消す。

 頬が、じんわりと熱い。スマホを伏せて、深呼吸する。


(ちがう、ちがうから。脇阪くんはそんな事考えてないって)

 火照った顔を冷ますように、上着を羽織って外に出る。夜の空気が、少し冷たくて心地いい。


 もう少し歩けば、彼の家が見える所まで行けるだろう。彼はどんな気持ちで、私に連絡を送ってるんだろうか。


(⋯⋯どうせ、明日には会えるんだから)

 そう自分に言い聞かせ、彼の家に向かわないようにしばらく歩いてから、自宅に戻る。その間にもう一度だけスマホを手に取る。

 少し迷ってから、彼に再び文字を打つ。


『明日、楽しみにしてる』


 送信。それ以上は、何も打てなかった。



『明日、四時から準備。無理そうなら来なくても大丈夫』

 テキストを打ち込み、夏希に送信して携帯を閉じる。彼女が今の文章をいつ見るかは分からないが、既読がつくのを確認するのは失礼な気もする。


「明日なにするか、考えるか⋯⋯」

 などと考え事をしようとした瞬間に、夏希から返事が返ってきた。

 『分かりました』とだけ打たれた内容に苦笑する。彼女らしいといえば、彼女らしいともいえる。結局、俺達の距離感なんて、こんな物で良いんだろう。


 正直な所、夏希と話すようになってからまだ一ヶ月程度しか経っていないのだ。それなのに、案外気を許せるようになっているのは、ただ昔馴染だったから、というだけ。


(なんか、高藤に悪い気がしてくるよな)

 本気で夏希と仲良くなりたい、と考えている人がいる中で、俺みたいに「幼馴染」ってだけで、その距離を飛ばしてしまうのは、反則のような気がした。⋯⋯だから幼馴染って負けヒロインが多いのか?


 そんな事を考えていると、夏希からさらに連絡がくる。その内容を見て、少し硬直する。

「そういう事、平気で書くなよ⋯⋯」


 恐らく深い意味も考えず、『明日、楽しみにしてる』だなんて、簡単に送ってくる夏希に頭を抱えるのだった。

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