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母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
第二章 努力の程度は人それぞれ

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先約

 廊下に出ると、少しひんやりした空気が肌に触れる。だが、不思議と文化祭の熱気も感じる事が出来た。夕方だというのに、いまだに行き交う人の声が聞こえてくる。


(さて、明日はどうするか)

 本来の予定では、明日も一日中自分の教室に入り浸るつもりだったので、午前中だけであっても予定が大幅に開いてしまう。


(とりあえず、上原の演劇は見に行ってやるか)

 前に約束していた事を思い出す。上原には行けたら行く、と言った以上は時間があるなら行ってやるのが礼儀というものだろう。

 

「ごめんな、夏希さん時間取らせて」

「別に、大丈夫」

 そう思っていたところで、少し先に見覚えのある後ろ姿があった。近くにあった教室に隠れる。⋯⋯なんで隠れてるんだ俺?


「それで、話って何?高藤くん」

 話をしているのは同じクラスの奴だな。文化祭の熱気とこの状況なら、考えられるのは二つ。告白か、それとも⋯⋯


(どちらにしろ、盗み聞きするのは良くないだろ)

 だというのに、動く事が出来ない。自分でも分からないまま、足が止まっていた。


「明日、一緒に文化祭回らないか?」

 そっちか、と少し安堵する。⋯⋯何を勝手に安心してるんだ?俺は夏希の保護者か何かか?


(あいつ⋯⋯凄いな)

 安堵と同時に感じるのは、高藤というクラスメイトの勇気に対する称賛だった。

 告白にしろ、文化祭に誘うにしろ、その行動には勇気が伴う。俺は好きな人が出来た時、そこまでの勇気が出せるだろうか?


「え、えっと⋯⋯」

 夏希は困ったように笑っていて、はっきり断れずにいる様子だった。


(これ以上は、聞いてたら駄目だろ)

 夏希が高藤の言葉に頷くにしろ、否定するにしろ、それを決めるのは個人の自由だ。それに俺が割り込むわけにはいかない。


『姉ちゃんの事、よろしくお願いします』

 晴の言葉が頭をよぎる。うるさい。あいつの色恋沙汰にまで踏み込むわけにはいかない。二人に気づかれないように、そっとその場から離れる。


「あ⋯⋯」

 こっそりと出たつもりたったが、夏希にその姿を見られてしまう。その表情は助けを求めている様に見える。高藤の方は俺からは背中しか見えないので、俺の存在に気づいていないだろう。


(⋯⋯頑張れよ、二人とも)

 心の中で呟きながら、その場を離れようとするが。


「その⋯⋯ごめんなさい」

 その前に、夏希の返事を聞いてしまう。⋯⋯俺が離れてからにして欲しかったんだけど。


「なんで?他の奴と回るの?」

 高藤の質問も当然だろうが、そういう質問をするのは返答に困るだろ。貴方とは行きたくない、とは言いにくいだろうが。


「えっと⋯⋯それは」

 チラリと夏希がこちらの方を見た気がする。逃げ道を探すような、その視線。

 助け舟を求めているのだろうが、俺に何が出来るというのか。

 

「じゃあ⋯⋯少しだけなら」

 俺からの助け舟が来ない事に諦めたのか、夏希が高藤の言葉に返事を返そうとする。

 これで良い。俺が無駄に出しゃばれば、また変な噂も立つだろう。だから、これで良いんだ。



『あんまり謙虚にしてても、すぐ取られちまうかもよ?前田さんって人気だからな』

 だというのに、ふと上原に言われた言葉を思い出してしまった。


(⋯⋯違う。夏希とはそういう関係じゃない)

 昔から顔は知ってる、ただのクラスメイトなんだよ。

 そう自分に言い聞かせていたのに、気づいた時には、体が動いていた。


「悪いな」

 二人の間に入って、そう言う。


「先約がいるんだよ」

 高藤が一瞬固まってから、俺と夏希を見比べる。


「⋯⋯あー、脇阪と約束してたのか。そうだよなぁ」

 もう少し話がややこしくなるかと思ったが、すぐに納得してくれた。


「⋯⋯約束?」

 どっちかというと夏希の方が状況を理解していない。頼むから話を合わせてくれよ。


「約束したろ?この二日間は、付き合ってくれるんじゃなかったか?」

 軽くだが、今日の朝確かに約束をした。夏希の方も思い出したようだ。

 一瞬、目が合う。驚いたように瞬きをして、それから、小さく頷いた。


 「……うん」

「というわけだ、悪いな」


 短いやり取りで、場の空気がひとつ落ち着いたのが分かった。

 高藤は言葉を探すように逡巡してから、こちらに向き直る。


「一つだけ確認させてくれ、二人は付き合ってるのか?」

「付き合ってない。話の流れでそうなっただけだよ」

 嘘は言っていない。だからこそ、高藤もそれ以上は踏み込まなかった。


「分かった⋯⋯じゃあ夏希さん、また。それと、脇阪」

 夏希に別れを告げた後、俺の方にも向き直る。その表情は真剣そのものだ。


「俺、まだ諦めてないからな」

 挑発でも敵意でもない、まっすぐな宣言だった。これが、本気の男の顔なんだろう。


「今度は邪魔しないよ、頑張れ」

 だからこそ、こんなにも真剣な奴なら、応援出来るとも、素直に思った。



 高藤が去っていき。廊下に夏希と二人きりになる。

「……ありがとう」

「咄嗟に口出して悪かった」

 本来なら、俺が口を出す立場じゃない。だというのに。


「ううん」

 夏希は首を振って、少しだけ笑った。


「嬉しかった」

 その一言で、俺がやったお節介は無駄じゃなかったと思える。


「明日はどうするとか、決めてるの?」

「午前中は遊んでこいって、みんなから言われてな。予定は特になし」

 本当に二人で文化祭を回るかは分からないが、一応夏希にも予定は伝えておく。


「私も、明日は予定ない」

「じゃあ本当に一緒に回るか?明日」

 軽口を叩いたつもりだったのだが、夏希の方が目を丸くしている。


「私は、そのつもりだったんだけど」

 不味い。選択肢を間違えた気がする。

 

「悪い、さっきのは前田さんが困ってそうだったから」

 あの場で夏希を助けるための方便のつもりだったんだよ。


「脇阪くんが誘った癖に、そういう事いうんだ」

 うわ拗ねた。夏希側がそこまで乗り気だとは思わなかったな。


「⋯⋯じゃあ、連絡先交換しとくか?」

 こんな事で機嫌が良くなるとは思わないが、どちらにしても連絡は必要だろう?


「⋯⋯別に良いけど?」

 おお?案外手応えを感じる。周りの反応といい、連絡先というのはそんなに大事なものなのか。知らなかったな。


 こうして、俺は決めた。二日目は、文化祭を回る。

「アイコンも何もないんだね」

「必要ないだろ?悪いか」

「ううん。⋯⋯脇阪くんらしい」

 ――夏希と一緒に。


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