無駄を減らすという選択
「はい!それじゃあ文化祭の出し物を決めたいと思います!」
実行委員長の声で、ガヤガヤと騒がしかった声が少しだけ静まる。
文化祭までの期間も踏まえた場合、そろそろクラスの出し物も決めないといけない。
「お化け屋敷とかどうよ!」
「いやいやここはメイドカフェですぞ!」
やる気のありそうな奴もいれば。
「面倒くさい……やる気ある奴だけがやれば良くね?」
こういうタイプの人間もいるのが、多人数での社会という物だ。ちなみに俺はどちらかといえば後者。準備まではちゃんとやるけど、文化祭当日は楽をしたい。
第一、今回に限ってはクラスの出し物の事を考える余裕がない。部活動で何をするのかが目下一番の課題なのだ。
「ワッキーは何かやりてー事あんの?」
前の席のほぼ毎日宿題をサボる馬鹿一号、上原が声をかけてくる。
「どうだろうな。今は料理部の方を考えるので忙しいし、他の奴に合わせるよ」
黒板にはクラスから出された提案が書き出されている。お化け屋敷、屋台、コンセプトカフェ、演劇等だ。
「そっちこそ何かやりたい事ないのか?」
「そうだな、俺演劇部だから、劇ってのは勘弁願いたいな」
「なんだ、ちゃんと役もらえてんのか」
などと話す、どうやら上原の方も部活動の方で時間を取るのは難しいらしい。
「大した役回りじゃないけどな。観に来てくれるよな?友達だろ?」
「え?俺とお前友達だったの?」
「ひっでぇ!こんなに仲良くしてやってんのに!」
いや、本当に意外だったんだが……そうか、友人って知らない内に増えてる物なんだな。
「悪い悪い、じゃあこれから友達な、よろしく」
「お、おう、よろしく。言ってるけど、結構傷ついたからね?劇見に来てくれるよな?」
「行けたら行く」
まぁ善処はするし、暇なら行ってみよう。数少ない友人の頼みだからな。
「それ来ないやつだろ⋯⋯前田さんは何かやりたい事あるの?」
上原は俺との話を切り上げ、今度は隣の席の夏希に声をかけた。
「私?」
夏希の席は俺の席の斜め前、近いといえば近いが、クラスでは特に用事がなければ声をかける事もない。そのレベルで話をしないからこそ、俺達が幼馴染という事を知っている人間はいないのだが。
「えっと⋯⋯あの中だと、コンセプトカフェとかかな?」
夏希は黒板に書かれた提示案から、俺が想像するより意外な物を選んだ。
「へー!結構意外だな!なんで?コスプレに興味あんの?」
コイツ空気読まないな。女子にコスプレに興味あるのか聞くのってどうなんだ?
「そこはあんまり、でも」
夏希の視線が、ほんの一瞬だけこちらに向いた気がした。
「美味しい料理作ってくれそうな人、いるから」
……いや、気のせいだ。夏希は今の俺の問題を知っているのだから、ここで無茶な要求をするとは思えない。
「あ、もしかしてさっきの話聞こえてた?そうなんだよワッキーって料理部作ってボッチで料理してるんだよ」
「へぇ、そうなんだ」
夏希は知ってる、とは言わず、あくまでも初めて聞いたように話す。ここで「何言ってんだ?毎日食ってるじゃん」とか言い出したらどうなるんだろうな。
「それ良いじゃん!一回食わしてもらった事あるんだけど、ワッキーが作るもんって無駄に手が込んでて美味いんだよ」
無駄は余計だろ貴様。だが、段々と悪くない案だとも思えてきた。
「じゃあ今出た案の中で選びたいと思います!紙にやりたい事書いてー」
ある程度の案が出終わり、小さい紙が全員に配られる。
「じゃあ俺もコンセプトカフェって書くわ。言っとくけど、本当に決まったら手伝ってはもらうからな」
「お、結構やる気じゃん。否定もせずに前田さんの案に乗るって……まさか!」
まさか、じゃない。どうして学生ってのはなんでも恋愛に結びつけようとする。
「俺が料理作る事になったら、料理部監修って言葉を入れてもらう」
「ああそういうの……相変わらずで感心するよ」
クラスで料理を出す事になった時、何か作ればそれをそのまま「料理部」の出し物としても使える。
――無駄な手間が減る。それは、俺にとって重要な判断基準だった。
「支持するだけで仕事をしている事になるなんて、夢のような事じゃないか?」
「多分、脇阪くんには支持だけするのは無理だと思うけど」
夏希は少し呆れていそうだが、どういう意味だそれは、俺だって支持厨くらい出来るわ。
「ま、そんなわけだから、助けてくれるよな友人さん?」
「おう、任せとけ」と上原は言うが、今までの行い的に全く信用出来ない。
「脇阪くんは逆に、一人で無茶しないでね?」
何言ってんだ?無茶なんてするわけないだろ。そう思いながら用紙に希望を書いて提出した。
「じゃあ集計とりまーす!」
集計の後、僅差でクラスの出し物はコンセプトカフェに決まった。




