●第四話 六人の親戚
雨貝家の調査ファイル
一人目は雨貝不比等の長男、雨貝剛。
写真では眉が太く、肌の色が日焼けしたように黒い。不比等に似た風貌だが、こちらはスーツ姿で健康食品会社の役員をやっていた。
役員ならば、この人は父親と同じ経営方針で性格も似ていると思われる。
「彼は会社の後継者と目されている。ただ、父親の不比等氏とは経営方針を巡って何度も対立したり、金遣いについて激しく罵り合ったりすることもあったそうだ。彼自身も消費者庁から名指しで措置命令を受けたことがあるから、もっとも後継者にふさわしくなく、遺産相続させてはいけない人物と言えるだろう。兄弟とも仲が悪く喧嘩することも多い。短気で強引な性格だ」
夜見月が説明し、資料には消費者庁のリンクも貼ってあった。確認してみたが、確かに不当表示で行政処分を受けている。この人はやはりダメそうだ。
二人目は二番目の長女、雨貝貞枝。
よく目立つ真っ赤なスーツを着た中年女性で、鋭い目つきに不比等の面影がある。
フランスのパリ在住で、ファッションデザイナーとなっている。
「彼女は肩書きこそデザイナーだが、事業はまったく上手くいっていない。彼女を評価しているのは関連会社の雑誌、つまり身内だけだ。これまでに何度も失敗しながらパリのファッション界に固執続けている。彼女が株式や経営権を握れば、湯水のようにファッションに金を使い、そして失敗するだろう」
三人目は若い男性だった。次男の孫、雨貝翔一。
ロックミュージシャンとして活動し、健康食品関連のテレビ番組のレギュラーをやっているというが、名前も聞いたことが無い。これも身内びいきなのだろう。随分と怖い目つきで、カメラを睨み付けるようにして映っている。
「翔一は酒好きでパーティーもよくやるが、ライブの客入りはさっぱりだそうだ。借金をして高級車やヨットを買ったりもしているから、彼が相続すればやはり貞枝と同じように散財で失ってしまうだろう」
四人目は他の三人とは顔つきが違っていて面影がない。モデルかと思うような美人だ。豊島留美那。まだ若く、私と同じくらいの年齢に見える。
「豊島留美那は前妻の孫で、今は大学生、君より四つ年上だ」
「四つ? ああ、浪人ですか」
「そうだ。偏差値三十七の大学に浪人するなんて、よほどの勉強嫌いなんだろう」
何か他に事情があるかもしれないと思ったが、やはり浪人して偏差値の低い大学なら、あまり勉強が好きではないのだろう。写真もどこかのホステスみたいな印象で、真面目そうな性格には見えない。
五人目も若い。チタンフレームの眼鏡を掛けたオタクっぽい感じの青年だ。氷室純。こちらは後妻の子らしい。
「彼はプログラマーで、以前はIT企業のゴーゴル社でチーフエンジニアをやっていたというが、確認は取れなかった。Iチューブで動画配信もやっていて、そちらはそれなりに収入があるようだ」
経歴詐称だとすれば、この人が会社を継いだところで、まともな経営はしてくれないだろう。
六人目は肩や首の筋肉が目立つ、格闘家。キックボクシングの選手だったが、暴力事件を起こし、クビになったという。四男の子、土橋巧。
「その六人が相続人だ」
「これが、私の父方の親戚なんですか……」
正直、全員に良い印象が無い。
お父さんはいつも優しく、誠実な人だった。だからこそショックが大きい。
「君のお父さんが雨貝不比等氏の血を引いているのは間違いない。DNA鑑定の記録が残っていたし、一緒に撮った写真もある」
七人目に私のプロフィールと並んで、幼い頃の父の写真もあった。和服姿の不比等と一緒に、これは小学生の入学式らしいが、まだ小さな父は、口を真一文字に結んで、少し不機嫌そうだ。顔は面影がある。
「残念ながら、母親、つまり君の父方の祖母に当たる人は病死していて存命ではないから詳しい話は聞けなかった。学校の先生の話では、不比等氏はほとんど顔を見せず、授業参観はいつも母親だったそうだ」
「そうですか……」
おそらくだが、父と祖父は仲が良くなかったのだろう。
それで父は私にも祖父の話を一度も聞かせなかったのだ。
今なら、お父さんの気持ちも少し分かる気がする。
自分の親として認めたくなかったのだろう。だからこそ、私、陽奈という一人娘が生まれた家庭では過保護なくらいにイベントには必ず顔を出し、授業参観も夫婦で見に来てくれていたのだ。その心意気は私にはとてもありがたく、父のことを誇らしく思えた。
「じゃ、いくつか注意事項を話すから、よく聞いてくれ。向こうに着いたら、飲み物は最初にカップに口を付けるフリをして、絶対に飲むな」
「なぜですか? 占いにあるようなおまじない?」
「違う。分かっているのか? 君はこれから莫大な財産を受け取る相続人になる。しかし、遺産を受け取れるのは君も含めた七人のうち、たった一人だ」
「ええ? たしか、遺産というものは『法定相続分』というのがあって……」
私がうろ覚えで言うと、夜見月がうなずいた。
「そう、遺族なら一定の金額が必ず分配してもらえる決まりになっている。『法定相続分』ではなくて『遺留分』のほうだけどね。『法定相続分』は国が用意した標準の割合のことで、『遺留分』が本当の最低限の割合だ。だが、その財産が経営権や株式だった場合は、換金する過程でいろいろと細工ができる。ペーパーカンパニーのような、評価額だけの見せかけの財産を別に用意しておいて、それを本命の一人以外の六人に指名してそれぞれ偽の財産を渡すんだ」
「そんな方法が……でも揉めませんか?」
「確実に揉めるさ。一千億円がもらえるか、それとも実質ゼロ円になってしまう紙切れの株式や債権がもらえるかでは差が大きすぎる。雨貝不比等氏は有能な子に財産を残そうとして、兄弟同士の切磋琢磨を期待しているようだが、遺産を巡って骨肉の争いが起きるのは世の常だ」




