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●第三十四話 儀式

「儀式――」


 その言葉に私は思わず震え上がる。明確な殺意をもって、しかもそれを犯人が私達に伝えようとしていることなのだ。


「そういう目的ではなく、たまたま何かの理由で翔一と犯人がトラブルになっていたのなら、第二の殺人は起きないだろう。でも、金庫に足を持ってくるなんて普通じゃないし、遺産の話し合いの日に合わせて殺人をやったのだから、きっと犯人は前々から計画していたことなんだ」


「そうだ。貞枝さんや翔一君、その他の相続人達も、ほとんどはこの家に暮らしていなかった。犯人にとって、それが雨貝家や不比等氏に対する復讐の目的ならば――相続人の子ども達が集まる日が絶好の機会となったはずだ」


 夜見月が冷静に説明するが、ますます恐ろしくなってくる。どうしてそこまで執念とも言えるような殺意を他人に抱けるのか――?


「うん、だけど、希海ちゃん、君は何も心配しなくていいからね。君は血のつながりはあるけど、犯人の彼女は君を襲うような酷い人間じゃないんだ。犯人は決して君を狙ったりはしないよ」


「うん……でも、それって、やっぱり私が知っている人が、犯人なんだよね?」


 言いにくそうにしながら、ちらりと私を横目で見る希海。私は希海を抱きしめたくなる衝動に駆られたが、我慢した。


「そうだね。残念だけど。こうなる前に父さんを止めるべきだったんだけど、僕はあまりこの家が好きじゃなかったし、特に会社は大嫌いだった。だってろくに効果も無いようなものをぼったくり価格で売りつけるなんてさ。父さんは僕の意見なんてちっとも聞いてくれないし、僕には他にやりたいこともいっぱいあった」


 純のAIが答える。

 会社を経営していた不比等氏はどうしてそこまでお金を求めたのだろう?

 本当にわからない。


 これだけの家、金庫の中には大量の金塊まで貯め込み、総資産は一千億もあったというのに。それだけあればたいていの物は買えるだろう。新しい事業に必要だったのだろうか? だが、もう祖父不比等は亡くなっていて本人に聞く事もできない。


「警察がやってきたから、第二の殺人は起きないかもしれない。犯人を突き止めて自首してくれるかもしれない。ただ、警察の人にさっき話したけど、刑事さんはむしろ僕の事を疑ってるみたいで、あんまり真剣に取り合ってくれなかった。そこが心配だね」


 笑顔でそう話す純――のアバターだが、彼の懸念は最悪の形となって現実と化した。


「警察が来たなら、余計な事を言って希海ちゃんを怖がらせたり悲しませたりする必要もないか。迷うな。もう少し、様子を見て、第二の殺人が起きてしまうようなら、話すか」


 純が独り言のようになり、オリジナルの彼もそうして迷ったのだろう。そして、希海には伝えなかった。伝えることができなかったのだ。


「犯人は君を狙ったりしない。だから、安心して。希海ちゃん、君は絶対に安全だ」


 純のアバターが希海に向かってもう一度生前の伝言を繰り返す。AIが気を利かせたのだろう。


「うん……ありがとう、お兄ちゃん」


 目元にうっすらと涙を浮かべた希海のアバター。


「マスターが最近残した文書はこれだけだよ。他は技術的なアイディアだし、君たちには不要だと思う。マスターの会社の人達にはこのアイディアを伝えておくし、必要ならまたここにアクセスしてくれれば、公開するから」


「ああ。だが、君が必要ないと思ったなら、それで間違いないだろう。今回の殺人事件に関係しそうなデータはないということだろう?」


「うん、マスターが犯人だと疑っている人に関係するデータも、あるにはあるけど、それよりも君たちが直接、刑事さんに話した方が良い。僕も、警視庁のサイバーセキュリティ課へアクセスを何度か試してるんだけど、さっぱり反応がないんだ。さすがに、110を電話するのはどうかと思ってね。だって、この家にはもう警察が来てるでしょ?」


 そうなのだ。警察はここにいる。それなのに、第二、第三の殺人が起きてしまっている。


「行きましょう。佐久間刑事にこのことを話さないと」


 犬の警官が言った。


「そうだな」

「ええ」

「うん!」


 私達もうなずき、バイバイと笑顔で手を振る純のアバターと別れた。

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