●第二十七話 第七の容疑者、森中源蔵
希海の反応が気になったが、なぜか彼女は何も言わない。
耳を澄ますと規則的な寝息を立てていて、どうやら途中で眠ってしまったようだ。
「お話、上手でしたね、夜見月さん」
私は希海を起こさないよう、小声で彼を褒める。
「見よう見まねだったが、寝てくれたから良かった」
「えっ、初めて作ったお話だったんですか?」
「いいや、この地方で有名な伝説を少しだけアレンジして話しただけだ。大筋は何も変えていないよ。この手の伝承は代々に語り継がれ、他の話を取り入れたり融合して、話しやすく聞きやすいものが普通だ」
「そういえば、腕を切り落とすなんて、昔話って子どもに聞かせるもののはずなのに、ちょっと残酷だったり、七日七晩というフレーズは他のお話しでも出てきますね」
「ああ。七という数字は『浮世草子』や『今昔物語集』でも使われている。名工干将莫耶の子、眉間尺が自らの首を切り落とし、その首を煮た日数が七日だ」
「ええ?」
そのエピソードを私は知らなかったが、自分の首を切り落とすなど尋常ではない。
「さて、僕らももう寝てしまおう。明日もある」
「はい」
事件のことについて、希海が眠った後に話しかけてくるのかと思ったら、夜見月は本当に先に眠ってしまったようだ。誰が犯人だと思うか、翔一が生きていると思うか、犯人の動機についても私は聞きたかったのだが……。
しんと静まりかえった和室の客間。置き時計の秒針がカチカチと音を立てているのが聞こえる。自然と、私は今回の連続殺人事件の犯人が誰かを考えていた。
最初の殺人、被害者は翔一。発見場所は祖父の寝室の金庫の中。
あの巨大な金庫だが、密室でないことはもう明らかだ。希海が合鍵を持っていたのだから。彼女が誰かに合鍵を貸したのだろうか? いや、彼女がやってきたときにはもう翔一(あるいは別人の誰か)は殺されていた。時間的に無理がある。
そうするとやはり、別の誰かも同じように祖父から合鍵を渡されていたか、どうにかして手に入れたのではないだろうか。祖父が信頼していた人物がもう一人か二人いるはずだ。
いや、二人以上というのは考えにくい。希海も入れて、三人も鍵を渡すとセキュリティ面で不安が出てくるかもしれない。
和室にわざわざ巨大な金庫を用意し、防犯カメラも家中に仕掛け、長男や長女に決して金庫の中身を見せようともしなかった疑り深い人なのだ。その合鍵を持っている人物が犯人かもしれない。
逆に言えば、金庫に入ったこともない長男剛、長女貞枝は容疑者から除外できる。
いや、その時、二人が嘘を付いていなければという条件が付いてしまうので、この情報は絞り込みには使えないか。
殺された眼鏡青年の純も容疑者からは外れる。パソコンには詳しそうだったので、彼が生きていれば防犯カメラのデータを消した容疑がかかるところだったが……彼の死は間違いない。私も口を半開きにしていた彼の変わり果てた姿を見ているし、刑事の佐久間が脈拍を確認しているのだから。
そして純を殺害した凶器と思われるマイナスドライバーを持っていた格闘家の巧も、次の第三の殺人、貞枝が刺されたときには警察署に連行されていた後だったので、彼も容疑者からは外れる。
妖艶な大学生の留美那も、貞枝が刺されたときに私や夜見月と廊下にいて、外の庭にいた貞枝を刺すのは不可能。
やはり、今まで私が会っている人達は、時間的なアリバイがあったり、場所が違っていたりで、犯人としては無理がある。
無理がないのは……石崎弁護士だろうか。彼も動機がないし、それに温厚な性格で少し年配だから、体力的に貞枝や翔一を殺すのは難しい気がする。
この家にはまだ源蔵という庭師がいるそうだが、どうして警察は彼を容疑者から外しているのか。
まだ私は会ったこともないので、どんな人かも分からない。明日、一度会って話を聞いてみたほうが良いのでは?
あれこれと思索を巡らせていた私は、いつの間にか眠りに落ちていた。




