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●第二十一話 第三の容疑者、千歳希海

「待って、希海ちゃん、何を私に見せたいの?」

「いいから、早く。お兄ちゃんに見つかるとまずいから」


 夜見月に何を隠す必要があるのだろう?


 私の理性は『行くな』とはっきり告げていたが、それでも彼が戻ってくれば希海は何も教えてくれなくなりそうだし、この機会は二度と訪れないかもしれない。そう思ってしまったのだ。


 希海について部屋を出ると、そこには張り付いているはずの警官がいなかった。


 私達の代わりに食事中のはずだ。佐久間刑事に見つかってしまえば間違いなく怒られるだろうし、彼には本当に同情する。


「早く、早く!」


 希海は跳びはねるようにしながら、私を急かす。

 廊下は電灯に照らされていて明るかったが、しん、と冷たい空気が静かに張り詰めている。不意に私はシャイニングという昔見た映画のワンシーンを思い出してしまった。あれはホテルだったが、入ってはいけないという部屋を告げられ、最初にまともだった父親が――


「こっちだよ、お姉ちゃん」


 希海は私の気持ちもお構いなしに一人で先を行き廊下を曲がっていく。


「待って、希海ちゃん、危ないから」


 ここには間違いなく何人も殺している連続殺人犯が潜んでいるのだ。私はすでに顔会わせしているはずだが、誰が犯人なのか見当もつかなかった。普通に話している相手が、そんな恐ろしいことをしでかすなんて、信じられない。

 わからない以上、私は彼らの誰にもここで出くわさないことを祈りながら、希海を追いかける。子どもの彼女を守るのは、大人である私の責務だ。


「ここだよ」

「えっ、ここは……」


 祖父、不比等の寝室だった。KEEPOUTという警察が貼っている黄色いテープの下をくぐり、希海は鍵を開けて中に入った。


「希海ちゃん、どうしてその鍵を――」

「大じいちゃんがくれたの。お母さん達には内緒だぞって」

「そう」


 写真では厳格そうに見えた不比等だが、幼いひ孫は可愛く見えたのだろう。


 和室には例の違和感のある巨大な金庫があるが、閉じられていた。


 希海はそこに近づくと数字のボタンを慣れた手つきで押し、鍵を差し込んだ。そして別のボタンを押す。カコン、と音がして自動で金庫の扉が開き始めたので、私は驚いてしまった。


「希海ちゃん、その鍵は……」

「合鍵だよ。大じいちゃんが無くさないように、ってスペアキーを持っていたの」

「そう」


 合鍵があるとは知らなかった。となると、希海はここに自由に入れたことになる。


「さ、中に入って、お姉ちゃん」

「あっ、でも中の――」


 死体を子どもに見せるわけにはいかないと私は焦ったが、よく見るとすでにあの黒いスーツの遺体は運び出されていた。鑑識が残した白いテープが代わりにその位置を記すように貼ってある。


「それで、希海ちゃん、ここで私に何を――」

「まだダメ。あのお兄ちゃんに聞かれるとまずいし」


 そう言って、希海は金庫の内側にあるボタンを押した。金庫の扉がゆっくりと閉まる。


 大丈夫だろうか?


 ここで閉じ込められると夜見月が気付いてくれるまで、出られなく成る可能性がある。酸欠にならないだろうか? 『不活性ガス、注意』というシールを見つけて、私は慌てた。


「ダメよ、希海ちゃん、この金庫を閉めたら――」

「大丈夫、あのシールは嘘っこだもん」


 ガコンと、金庫が自動で閉まったが、ガスが噴き出してくることもなかった。


「そう。よく知っているのね」

「うん、大じいちゃんが教えてくれたの。自慢の金庫だからね!」

「そう」


 希海が金庫を開けたとき、この子が犯人である可能性を考えてしまったけれど、彼女には死体を運ぶだけの力は無いし、何より事件が起きたあとに彼女はこの家に連れられてきたのだ。私は自分で検証するような考えをしたことに笑ってしまった。


「お姉ちゃん、よく聞いて。あのお兄ちゃんが犯人だよ」


 希海が真面目な顔で言う。

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