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●第十八話 セキュリティ管理室

 すでにセキュリティ管理室の場所は聞き出していたようで、まっすぐに夜見月は目的の部屋に向かうと、ドアの右にある装置にカードを通した。


「ここは封鎖されていないんですね……」


 警察が黄色いテープでも貼っているのかと思ったが、何も変わった様子はない。


「カードキーがあれば充分だと思ったのだろう。それに、警察もすでにここを調べたあとのはずだ」

「そうですよね」


 石崎弁護士が家の防犯カメラのことを警察に話さないはずがないのだ。だけど、そのあとでも殺人が起きてしまっている。カメラは壊れていたのだろうか?

 部屋の中はかなり狭く、二メートル四方で、机とパソコンとモニタが置いてあるだけだ。


「もっと大がかりなものかと思っていました」

「今はカメラをはじめとした機材が安くなっているし、どこもこんなものだよ。常時監視するためのものでもないようだしな」

「ええ」


 常時監視をしていれば、少なくとも二人目以降の被害者は出なかったはずだ。

 夜見月はパソコンの椅子に座り、マウスをクリックした。

 モニタにはファイルフォルダが並んでいる。それぞれ、金庫室、寝室、居間などわかりやすい名前が付けられている。


「まずは金庫室だ」

「そうですね」


 不比等の寝室に置かれている巨大な金庫。私達がそこに行ったとき、すでに一人目の翔一が殺されていた状態だった。


「今日の日付がこれだ。時間は、午後三時十五分といったところか」


 六時間ごとに分割されているファイルをクリックすると、ちょうど石崎弁護士が金庫のプッシュボタンを押すところが映っていた。


「もっと前だな」


 夜見月がそう言って巻き戻しをクリックする。


「死体がありますね……」


 積み上げられた金塊の上に仰向けで載せられた黒いスーツの男。ちょうどカメラからは胸から上が映っていないが、そのほうが良かった。首から上は無かったというし。


「午後十二時過ぎだと、すでに死体があるな。これの前のファイルはどれだ……?」


 夜見月が四月十五日十八時のファイルをクリックするが、そこには死体が無い。金塊だけが映っていた。


「なるほどな、犯人はすでにセキュリティ管理室に入ったあとだったか」

「犯人は問題の時間のファイル、今日の午前中の録画を消したんですね?」

「ああ。ゴミ箱も空にされているようだ。警察も調べているはずだが、念のため復元してみよう」


 夜見月がUSBをパソコンに差し込むと、何かのアプリを起動させた。


「ダメだな。完全に証拠が隠滅されている」

「そうですか……なら、これをやった犯人はパソコンに詳しい人ですね」

「ああ。真っ先に思いつく候補はゴーゴル社に勤めていたという経歴の持ち主、ITエンジニアの純だが……」

「彼はもう殺されています」

「そうだ。死体の脈が無いのは僕が確認した。佐久間刑事も確認している。第一発見者の巧は犯人じゃなさそうだ。彼の経歴からして、パソコンは得意ではないだろう。こういうのは短気で身体を動かすようなことが好きな人間には向かないからな」

「ええ。それにあの慌てよう、自分でも何が起きたのか、わかっていないようでしたし」


 巧は凶器とおぼしきマイナスドライバーを持ったまま、死体の前にいたのだ。本物の犯人なら、マイナスドライバーから指紋を消してその場に置いておくくらいの知恵は働くだろう。


「血の付いたマイナスドライバーを拾うのもうかつ(、、、)だが、彼が説明していたとおり、拾っただけだろう」

「そうですね」


 では、誰が純を殺せたのだろう?

 剛、貞枝、留美那の三人。貞枝はパソコンが苦手だと言っていたし、年齢からしてもそれは不思議では無い。留美那は偏差値の低い大学だから、使えなくてもおかしくはないが、私や彼女の年代なら、フォルダからファイルを消すくらいはできると思う。ただ、警察による復元も不可能なアプリを入手できるかどうかは疑問だ。

 私も夜見月も誰が犯人に当てはまるのかを考え、しばらくの間、沈黙した。

 その静寂を破ったのは、後ろのドアが乱暴に叩かれる音だった。


「よ、夜見月さん」


 私の心臓が縮み上がるのが自分でわかった。いったい、ドアの向こう側には誰がいるのか。


「君は僕の後ろにいろ」

「中にいるのはわかっているぞ、夜見月! 大人しく鍵を開けて出てくるんだ」


 それが佐久間刑事の声だとわかり、私はほっとした。ひょっとしたらドアを叩いているのが犯人ではないかと思ったのだ。


「わかりましたよ。心臓に悪いから、そんな乱暴にノックしないでください」


 夜見月と私がこちら側にもあるカードキーの装置でロックを外すと、佐久間が外で待ち構えていた。


「さあ、鍵を返してもらおう」

「ええ、ちょっと調べるためにお借りしました」

「まったく! スリまで得意とは、君はいったい何者だね」

「ただのしがない大学生ですよ」

「えっ! 大学生だったんですか」

 私は驚いた。彼はしっかりしているので、とっくに社会人だと思っていた。

「婚約者だそうだが、君はそんなことも知らなかったのか」

「私が同意しての婚約者というわけじゃありません。伯母さんが勝手に」

「そうか。ご両親は亡くなっているんだったな」

「ええ……」

 調べが付いているなら、聞かなくたっていいのに。

「刑事さん、事件と関係ないプライバシーに関してはもう少し配慮してもらってもいいんじゃないですかね。彼女は巻き込まれた被害者です」

「だが、同時に容疑者でもある。いいかね、この場で、ハッキリ言っておくぞ、夜見月。君と陽奈さんは現時点で重要参考人だ。勝手にどこかに行ったりせず、逐一行動を報告すること。君たちの身の安全のためでもある」

「わかりましたよ」

「佐久間さん!」


 若い警官が急いでやってくると小声で何かを佐久間刑事に告げた。

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