●第十四話 二人目の殺人についての考察
別の和室をあてがわれた私と夜見月は、二人で話し合う事にした。
しばらく外に出ないようにと、警官が一人ドアの外に立っていて、半ば軟禁状態だ。
「純の状況を整理しておこう。どうせ他にすることもないしな」
「そうですね……」
夜見月に同意した私は、まず第一発見者である巧について考えてみる。
ファイルでは六人目の格闘家だ。
彼は私と夜見月が部屋に駆けつけたとき、凶器と考えられるマイナスドライバーを手にしていた。普通に考えると、巧がマイナスドライバーで純を襲った、という構図だが……。
「巧さんは犯人ではないと思います」
私は断言した。
「同感だが、先に君が考える根拠を聞こうか」
「はい。彼は酷く取り乱していて、最初に私達を呼んだのも彼の声でした。もしも彼が犯人なら、わざわざ自分で人を呼んで報せたりしないでしょうし、凶器だって隠しますよね?」
「そうだな。あれでは自分が犯人ですとアピールしているようなものだ。それに、説明もすらすらと言っていた。それも端的に。もし、演技で事前に言い訳を考えていると、『おかしいなと思って――』『何だろうと思って――』とその時の状況をリアルに話そうとして想像力に頼り始める。すると、視線が上を向いたりする。過去を振り返るときにも上を向くから区別がつきにくいが、ついさっきのことだったから、彼も正面を見たままで即答していた」
「なるほど。確かに想像したり、昨日のことを思い出そうとすると、視線が上や横に行きますよね」
「ああ。嘘を付くだけで人間の脳には負荷がかかる。たとえば嘘を付いている人間の視野が狭くなり、視覚の能力が一時的に落ちるという研究もある。指の動きが減ったりね。それだけ嘘は脳のリソースを使う高度な知的作業というわけだ」
「へぇ」
「それに、女性のほうが男性より嘘を見抜きやすいという研究もある。君が巧について嘘がないと確信できているなら、間違いないだろう」
「ああでも、私、そんなに鋭いほうではないですよ? 友達の花梨はそういうのが得意なんですけど」
「彼女は対人経験が豊富そうだったからな。ま、今はいないんだ。今ある情報だけで判断しよう。大事なのは、巧が犯人でない場合は、真犯人が別にいるということだからな」
「はい……」
今も殺人犯がこの家にいる。
それは背筋が冷えるような怖さだ。犯人の狙いが遺産相続と決まったわけではないが、私が狙われている可能性がある。私が、殺されてしまうかも。
「心配するな。そのために僕がここにきたんだ。ボディーガードとして依頼料も受け取っているからな」
「でも、夜見月さんも危険では?」
「犯人に邪魔だと判断されればそうかもしれないが、遅れを取るつもりはない。この家にいる誰よりも、僕のほうが賢い」
当然のように澄まし顔で言う彼に、私は半ばあきれて苦笑した。
「それ……否定はしませんけど、油断はしないでくださいね」
「もちろんだ」
「一人目の被害者のことですけど、犯人はどうやって金庫の鍵を手に入れたのでしょう?」
私は気になっていたことを夜見月に言ってみる。金庫の鍵は石崎弁護士が持っていたはずだし、彼は犯人ではないだろう。何せ動機が無い。遺産相続の手続きを任されただけの弁護士なのだから。
「おそらく不比等氏が亡くなる前に、その鍵を盗み出して合鍵を作っていたのだろう。不比等氏は自分の寝室に金庫を置いて、剛氏や貞枝氏にも金庫を見せなかったようだからね。自分の実の子供を信用してはいなかったんだ」
「そうですね……」
自分の家族を信じられないなんて、どういう気持ちだったのだろうか?
私は母や父をそんなふうに疑ったことはない。
「僕が怪しいと思ったのは純だったが、彼も殺されてしまった」
「怪しい? まぁ、彼は一人目の殺人があったときに、落ち着いて笑ったりしていましたからね……」
金庫のある寝室で死体とわかったあとのことを思い出しながら、私は言った。
「それだけが根拠じゃないさ。この家には監視カメラが張り巡らされていると聞かされただろう」
「あっ、そうでした。なら、金庫がある寝室の録画を見れば――」
「そうだ。誰が犯人かは一発でわかってしまう。だが、この犯人はやたらと知能指数が高い。一人目はまだ凶器も見つかっていないし、二人目の凶器と考えられるマイナスドライバーにも指紋はまず残っていないだろう。これは行き当たりばったりじゃない。計画的な犯行だ」
「知能指数ですか。確かに、犯行を隠し、金庫の合鍵を作る能力があって、ああ、それに監視カメラをどうにかしないといけないのですね」
「監視カメラ自体はそれほど難しくないだろう。金庫の鍵を手に入れたくらいだ。セキュリティ管理室の鍵も盗み出して合鍵を作っておけば、録画を消すのも簡単だ。いや……しまったな……。警察に録画が消される可能性を話していなかった。セキュリティ管理室に防犯カメラがあるとは言っておいたが、彼らがそれだけで警護してくれたかどうか。僕の痛恨のミスだ」
「大丈夫ではないですか? 防犯カメラがあると話したのなら、真っ先に調べるはずですよ?」
「そのあとに警護要員を置いていると思うか? 第二の殺人でごたごたしていたあの状態で」
「ああ……、それは、怪しいですね」
「確かめに行こう。セキュリティ管理室の場所はもう石崎弁護士に聞いてある」
「いつの間に……」
「君のボディーガードを仰せつかったんだ、初めて入る建物の非常口や間取りを確認しておくのは、ボディーガードでなくても基本だぞ」
「はい……そうでしたね」
ホテルに泊まったときの注意事項として、修学旅行の先生や達美伯母さんにレクチャーを受けたことがあった。
「あらぁ、二人そろって、どこへ行くの?」
部屋を出ないようにと指示する警官と一悶着あったあと、廊下で私達は彼女と出くわした。




