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●第十二話 外部からの侵入

 玄関では、剛が三十代くらいの女性と話していた。子供も一人いる。

 来ていたのはやはり警察ではなさそうだ。


「佳也子、だから今日はワシらだけの話し合いだと言っただろう」

「でも、私は今日、夜勤が入ったのよ。別に話し合いに参加させなくていいから、希海のぞみの面倒だけ一晩見てて、お父さん。じゃ、頼んだから」

「あっ、おい、佳也子!」


 剛が玄関から出て行く女性を追いかけていくが、剛の娘らしい。置いて行かれた小学生くらいの少女は私達をじっと観察している。彼女が希海ちゃん、剛の孫ということか。


「佳也子も勝手な女ね。兄さんにそっくり。今、ここの状況がどうなってるか知りもしないで。殺人があった場所に自分の子供を置いて行くなんて」


 貞枝が遠慮なしに愚痴とも文句ともつかぬことを言っているが、子供の前だ。私は笑顔をつくって彼女に話しかけた。


「希海ちゃん、外は寒かったでしょう。お姉さんと、コーヒーでも向こうの部屋で飲んでいようか」

「ちょっと、家の中に入れるっていうの?」

「いえ、剛伯父さんと佳也子さんの話し合いが終わるまで、変な話を子供に聞かせたくないだけです。寒い中、外で待たせるわけにもいかないでしょう」

「ああそう。じゃ、ご勝手に」

「ええ、そうさせていただきます。ええと」

「こっち。客間があるよ」


 純が笑って案内してくれた。この人は経歴詐称の疑惑があるけれど、そんなに悪い人ではなさそう。

「純お兄ちゃん、何かあったの? 殺人って」


 希海が聞いた。


「んー、ま、ごまかしてもどうせすぐバレるか。実は、翔一君が殺されたみたいなんだ」

「ええ? どこで?」

「父さん――大じいの部屋だよ」


 ひ孫の希海ちゃんは、不比等をそう呼んでいるらしい。


「そう……翔一おじちゃん、死んじゃったんだ……」


 悲しそうに目を伏せる希海。


「ああ、まだ、翔一おじちゃんと決まったわけじゃないんだけどね」

「んん?」

「純さん、その話は」


 私は目で合図して詳しく話すのをやめさせた。子供に首が切断された死体などという話を聞かせるべきではないだろう。


「ああ、そうだね、ごめんごめん。じゃあ――あっ、そうだ、僕が新しく開発してる、メタエリアについて教えてあげるよ」

「わぁ。聞きたい!」


 これでよし。私は何か飲み物を持ってこようと、客間を出た。


「警察はすぐ来てくれるそうです」


 廊下にいた石崎弁護士が私に言う。


「そうですか。ところで、この家の台所は」

「ああ、あちらです。案内しましょう」

「すみません」

「いえ、お気になさらず。結城さんも、今のうちに、ご実家へ連絡されておいたほうがいいですよ。調べが終わるまでは、この家から出られなくなるおそれがあります」

「ああ、そうですね。そうします。その前に、希海ちゃんに何か温かい飲み物でも」

「では忠恵さんに頼みましょう。この家の住み込みでお手伝いをされている方です」

「そうですか」


 台所に向かうと、五十代くらいの小柄な女性が割烹着姿で夕食の準備をしていた。


「ああ、希海ちゃんが。では、ココアを持っていってあげてください。ちょっと今は火を付けているのでこちらの手が離せなくて申し訳ないですが」

「いえ、大丈夫ですよ。持っていきます」


 コーヒーとココアをお盆に載せ、石崎弁護士と一緒に客間まで運ぶ。


「まったく、佳也子のヤツ、人の話もろくに聞かずに帰りおって。電話も留守電にするとは、あきれる」


 剛が玄関を開けて戻って来たが、頭には雪がかかっている。外は雪が降り始めたようだ。


「剛伯父さんも、温かい飲み物をどうぞ。あと、髪の雪を拭かれたほうがいいですよ」

「こんなもの、振り払っておけば十分だ。ま、コーヒーでも飲むか」


 客間で一息ついて、ココアやコーヒーを飲む間、全員が黙り込んでいた。パトカーのサイレンが聞こえ、ようやく警察が到着したようだ。私の伯母の達美さんに連絡を入れようかと思ったけれど、余計な心配を掛けてしまいそうだったし、私は今、独り暮らしなので、連絡はやめておいた。どうせ明日は日曜だし、もう今日はここに一泊することになりそう。

 夜見月との取り決め通り、私はココアに手を付けなかった。

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