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●第九話 監視カメラ

 全員で連れ立って、金庫が置いてあるという部屋に向かった。

 不比等が寝室として使っていた部屋だという。すでに葬儀が終わっており、そこに祖父がいないと分かっていても、私は少し緊張を覚えた。


「いいか、金目の物を見つけたなら、何でもいい、すぐにワシに報告しろ」


 長男の剛が言う。


「ちょっと、兄さん、それで自分の手柄にしようって魂胆じゃないでしょうね?」

「何を言ってる、貞枝。最初に見つけた者が相続するとさっき説明があったばかりだろう。ワシだってそんなずるいことはしないぞ」

「どうかしら。信じられないわ。しっかり見張っていてくださいね、弁護士さん。あなたが審判ジャッジする大事なレフェリーなんだから」

「ええ、ご心配なく。それに当屋敷には、防犯カメラがすべての廊下と部屋に設置してありますから、必要があればそれを参照して公正に判定できると思います」


 防犯カメラが全部の部屋に設置してあるなんて、いくらお金持ちの家でもやり過ぎな気がしてしまう。だって、家の外側ではなく内側だと、まるで家族を疑っているみたいだ。


「石崎さん、その防犯カメラを管理している部屋は、きちんと施錠されているんですか?」


 夜見月が聞いた。


「もちろんです。不比等氏の死後、私が責任を持ってお預かりしていますよ。セキュリティ管理室の鍵も一つしかありません」

「そうですか。なら……、ひとまずは心配いらないか」


 あまり安心した様子ではない夜見月だが、彼は防犯カメラの録画をあとで見返すことになると予想しているようだ。


「ふうん、そのカメラって、音声は入るの?」


 度の強そうな眼鏡を直しながら、純が聞く。彼はゴーゴル社に勤務していた時期があるため、私よりも年上のはずだが、見た目は大学生くらいだ。高校生と言っても違和感がない。

 ファイル五人目の人物。


「ええと、どうでしたかな。私が不比等氏に教えてもらったときは、ううむ」

「じゃあ、音声は無しだろうね。うちの父さんがカメラの高級品を買うはずないし。音声がないほうがハードディスクの容量も少なくて済むんだ。AIを組み込んでおけば、人間の音声だけ拾う技術もあるんだけど……まあ要するに、シンプルにすれば安上がりってわけ」

「ちょっと、それホントなの? じゃあ、誰が最初に見つけたかなんて、分からないじゃない。何やってるのよ」

「いや、僕に言われても困るよ、姉さん。父さんに言ってよ」


 飄々と笑みを浮かべた純だが、親子のように年の離れている貞枝を姉さんと呼ぶと、なんだか違和感を覚えてしまう。


「それより、全部の部屋ってことは、トイレやバスルームも録画されてるのかしら? それって、フフ、ヤバイかも」


 ファイル四人目、留美那がわざとらしく身をくねらせて言ったが、そうだった。トイレとバスルームまで録画されていては、プライバシーどころの話ではない!


「ああ? 悪趣味だな、爺さんも」


 巧が顔をしかめた。


「ああ、ご安心ください。トイレにはカメラを設置していないそうです。それから、バスルームですが、開示の際には、どなたか女性の方に先に管理室に入っていただいて、バスルームの録画を削除していただければと思います。常時誰かが監視しているわけではなく、録画しているだけですので、それでプライバシーも安心かと」

「ええ? 私は嫌よ。機械の操作なんてできないし。テレビのリモコンだってどれがどれだか迷うくらいだもの」


 長女の貞枝が言う。もう五十代後半の彼女にとっては新しいモノというだけで嫌悪感が先に来るのだろう。


「私も苦手だから、パスで。じゃ、陽奈ちゃんだっけ。あなたがやるしかなさそうね」

「私も、得意というわけではないのですが……普通のパソコンくらいの操作なら、何とか」

「ええ、大丈夫ですよ、機材は普通のパソコンと変わらないようでしたから。風呂場というフォルダがあるはずなので、それを削除してもらえれば」

「分かりました」

「頼んだわよ、陽奈。あなたは急に出て来た部外者なんだから、それくらいはしてもらわないと」


 貞枝が言うが、私は思わず反論した。


「あの、私は三男啓祐の子、孫の一人ですから、部外者なんかじゃありません」

「そう言ってもねぇ。本当に啓祐の子供なのかしら」

「なっ」

「まぁまぁ、その辺はDNA鑑定もしてありますからご安心ください。事実、結城陽奈さんは啓祐さんの子で間違いありませんよ」

「そう。残念ね」


 こっちが残念だと言いたい。


「あ、でも、私、DNA鑑定なんて――」


 そんなもの一度だって受けたことはない。


「それなら達美さんが提出している」


 夜見月がさらりと答えたが、本人である私だけが知らないって……あとで伯母さんを問い詰めないと。


「君は事情を話せば拒否するだろうという親心だよ」

「それでも――」

「よし、親父の寝室だ。公平を期して、石崎先生、アンタが先に入ってくれ」


 洋室の頑丈そうなドアまでやってきた。

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