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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第98話 幼女、風に砂が混じり始めたと気付かず

「がぁあっ!!」


 用意された部屋に戻ったヴァーラが腰に下げた己の剣を床に叩きつけて叫んだ。それからその場にあった椅子に乱暴に座ると天井を睨みつけて「クソッ」とこの場にいない誰かを罵倒した。


「落ち着けヴァーラ」


 そのヴァーラが落とした剣を拾い上げながら、護衛騎士にして彼の叔父であるドーアンが先ほどまでとは違う親しげな言い回しでヴァーラに話しかけてくる。

 このドーアンは身分こそヴァーラよりも低いが、幼き頃からヴァーラの世話をしてきた男である。いわば育ての親も同然であった。

 それに対してヴァーラは苦い顔をしながらドーアンへと視線を向ける。


「ドーアン叔父上。これが落ち着いていられますか?」


 ヴァーラも声こそ荒げているが、その言葉はやはりベラたちといたときとは違い、親しい者に接する言葉であった。それからドーアンはヴァーラのその様子を見ながら、肩をすくめて口を開く。


「まったくお前は……そうしたところばかりフィアーナに似おるな」

「母上のヒステリーと一緒にしないでいただきたい」


 ヴァーラはそう言って頭をかきむしった後、ようやく落ち着いたのか、大きく息を吐いてからドーアンが拾った剣を受け取った。


「落ち着けたようだな」


 ドーアンの指摘にヴァーラがばつの悪い顔をする。

 ヴァーラは幼き頃より母親であるフィアーナによって兄のジョンに対して敵愾心を植え付けられてきた。そうした土壌から生まれてしまった甥の精神的脆さをドーアンは危ぶんでいた。もっともそうした想いから自分が甘やかしてきたことがさらにヴァーラの増長を招いていたことをドーアンは理解してはいない。

 そんな叔父の言葉にヴァーラは肩をすくめながら皮肉げに言葉を返した。


「どうですかね。あんな子供が私を小馬鹿にしてきたんですよ。未だに思い出すだけで頭の中が沸騰しそうですよ。こんな屈辱は兄上が後継者に選ばれたとき以来だ」

「確かにそれほど憤ったお前を見るのはあのとき以来か。だがあのベラという子供の前だけならばともかく、エーデル様の前であのようにしたのはよろしくはなかったな」


 そのドーアンの指摘にヴァーラが「ハッ」と笑った。


「あんなのは所詮ムハルドへの献上品のひとつでしょう。好色王子への餌でしかないじゃないですか」


 その言葉にドーアンは眉をひそめた。


「だとしてもだ。王族への敬意を疑われれば後継者どころではない。それを忘れるな」

「分かっていますよ。ハァ、すみません。少し頭にキすぎたようですね」


 再び熱くなった自分を自覚しながら、ヴァーラは頭を抱えた。逸りすぎた気持ちが空回りしていることをヴァーラ本人も自覚はしている。その原因がなんなのかをドーアンも理解はしているが、とはいえである。


「お前が熱くなるのも分かるが……しかしあのベラという子供。やはり普通ではないな」

「エルフの傀儡ではないと?」


 ヴァーラの問いにドーアンが「分からん」と言葉を返した。


「残念ながらその手のことに私は疎くてな。だが、後ろで糸を引いているのがあのエルフかと言うと微妙に思える。少なくとも先ほどの会話が演技であるなら、それはそれで異常な子供だろう。自分があの年頃のことを思い出してみろ」

「言いたいことは分かりますよ。けれども年など関係ないではないですか。叔父上にも分かっているでしょう。あの宝剣を手に入れることが私たちの願いを叶える唯一の手段であるということを」


 そのヴァーラの言葉にはドーアンも頷かざるを得ない。彼らはベラを挑発して戦って回転歯剣チェーンソーを奪おうという腹だった。だが、その目的以上に熱くなって制御の利かない甥に少しばかり頭を痛くしながらドーアンが言葉を返す。


「ガルド様は確かにアレを取り戻せれば……と言っておられた。今や竜殺しの宝剣とも言われている回転歯剣チェーンソーを取り戻せば、お前をモーディアスの後継にすると」

「そうです。あれを取り返せば父上も私の方を後継に認めると言っていた。であればいっそ」


 その続きを口にする前にドーアンは「止めておけ」と言葉を遮った。それにヴァーラの眉がひそめるが、ドーアンは気にせず忠告する。


「あのベラという子供の力は分からぬが、ベラドンナ傭兵団がジェド・ラハールを討ち取った者たちであることは事実だ。事前に聞いていたこのヘールの街に100機の鉄機兵マキーニがいるという話は間違いではあったのだろうが……だからと言って私たちの鉄機兵マキーニで連中を抑えられるかは未知数だ。エーデル様の御前であるという事実を抜いたとしても短慮に動くことは危険だぞ」


 その言葉にヴァーラは少しだけ考え込んでから、口を開く。


「ベラドンナ傭兵団……先ほど護衛にいた男。アレが恐らくは連中の切り札でしょうね」


 その言葉に、ドーアンは先ほどの部屋の中にいた褐色肌の戦士を思い出す。これから向かう予定であるムハルド王国の者たちと同じラーサ族。柄に手を置かれたときの悪寒をドーアンは忘れられない。そのことを思い出しながらドーアンは目を細めて口を開いた。


「あれは確かに危険だ。先ほどのこと、あのまま動けば我々ふたりとも恐らくは斬り殺されていた。鉄機兵マキーニでも同様の力を出せるかは分からぬが……それに舘に連れてきた兵たちの部屋のそばに置かれている巨獣もいる。我らが動けば兵たちをアレが始末する算段なのだろう」


 ドーアンの言葉にヴァーラが忌々しそうに顔を歪める。こんな魔力の川ナーガラインの薄い場所で本来存在できるはずのない巨獣がいるのである。


腐り竜ドラゴンゾンビですか。殺したはずのアレが生きている。実際にドラゴンか否かはともかく、アレを動かせるなら竜殺しも説明は付くわけだ」


 竜殺し。それはモルド鉱山街での戦闘で戦線を離れた者たちの口から各地に流れていた。それはモーディアス家の宝剣によるところが大きいのでは……という声もあったために、今や回転歯剣チェーンソーは一部で竜殺しの宝剣と呼ばれるようになっているようなのだが、ヴァーラはベラが鉄機兵マキーニでドラゴンを斬り伏せたことを八百長であったと見ていた。

 そして腐り竜ドラゴンゾンビの実物を見たことでその考えは確信に変わったようであった。


「ともあれ、もうしばらくはここに滞在しておるのだ。機会を窺うしかあるまい」

決闘法フェーデを仕掛けようにも王族であるエーデル様の前では却下されかねませんからね。まったく、面倒なお方だ」


 そう言ってヴァーラは天井を睨みつける。モーディアス家の後継者問題。自分が当主になれる最後のチャンスを前に未だ14歳のヴァーラはジレていた。ベラにまるで相手にされてもいないという事実を肌で感じながら、苛立っていた。

 もっとも、そんなお家事情のことなど消し飛ばされてしまうような嵐が近付いていることをヴァーラは未だ知らない。それは西から砂と共にやってきていたのだが、それがヘールの街まで届くにはまだしばしのときを必要としていた。




  **********




「はー、まさかこんなことになるたぁ、思ってもみなかったんですがね」


 ルーイン王国、ラハール領西部に位置するメガハヌの街。そこはムハルド王国との国境にもっとも近く、ベラの統治を拒絶したふたつの街の内のひとつでもあった。そこは今、旧ジェド軍の者たちの手引きもあってムハルド王国の軍がほぼ無血で占領していた。

 そしてメガハヌの町の中の建物のひとつのとある部屋の中で、女がため息をついて立っていた。


「くっくっく、そう言うなネクリス」


 ネクリスと呼ばれた女の左右には褐色肌のラーサ族の戦士たちが立ち並んでいた。また女の目の前には華美な装飾に身を包んだ若い男がひとり椅子に座って笑っていたのである。


「私としても想定外の話ではあったのだ。まさか、またすぐにお前と再会できるとは思ってもみなかった」


 その言葉にネクリスは肩をすくめながら男のことを、目を細めながら見た。


「ハシド様。こっちゃあ、ヘールの街まで行って、命がけで仕事して、ようやくここまで戻ってきたんですよぉ。それが全部無駄だったって聞かされりゃあ、そりゃあガッカリするってもんでしょう?」

「ははは、それはご苦労であったな」


 ハシドと呼ばれた男が笑う。

 実際にネクリスはハシドの依頼によってラハール領の中心街ヘールへと向かい、それから領主へと襲撃を仕掛けて見事街を抜けてここまで戻ってきていたのだ。すべて予定通りに。

 だが、この街でネクリスが見たのは街を占領していたムハルドの軍であった。


「こっちは死人ゾンビを五体にコイツまで使ったんですけどね。ほら、スッカスカですよぉ」


 そう言ってネクリスが左腕を上げると手首をカチャリと外して、その中身を見せた。それは空洞で、鉄でできた筒の中身のようになっていた。


「ほう、どれどれ。見事に何もないな。相変わらず機械マキノの義手は面白い」


 近付いてきて子供のように興味深そうにその腕を手に取るハシドにネクリスがまたため息をつく。それを見てハシドがネクリスに口を開いた。


「すまぬな。帝国からの使いと父上が話して動き出したのが、ちょうどお前が出て行った後のことだったのだ。ジェド殿亡き後だが今の状況ならやれると父上は踏んだのだろうな」

「まーしゃあないですけどね。だったらひとりかふたりだけでも殺しとけば良かったですね。警告程度に留めろって話だったからダーレも死んでないし、死人ゾンビも完全に出し損でしたよ」

「そう言うな。補充はしてやるさ」


 ハシドがそう言ってネクリスを抱きしめる。それをジト目で見ながらネクリスが尋ねる。


「ハシド様。私、白肌のモヘロムス使いなんですけど?」

「構わんよ。俺は強い女が好きだ。このまま抱かれろ」


 ハシドの言葉にネクリスが少しばかり驚きの顔をした後、ちらりと周囲を見回したがラーサ族の戦士たちは微動だにしていなかった。つまりはこうしたことにも慣れているのだろうとネクリスは理解すると、やはり「あーあ」とため息をついてから自分の服に手をかけた。


「人に見せる趣味はないんですけどねえ。ま、ご命令とあらばお受けしますよ」


 そう言って布の擦れる音がして、部屋の中から喘ぎ声が響き始めたのはそのすぐ後のことであった。


次回更新は12月22日(月)00:00予定。


次回予告:『第99話 幼女、気付く(仮)』


報連相がしっかりしていないと行き違いで悲しいことになることもあります。ベラちゃんはしっかり者ですから、そうした行き違いがないように頑張っていますが、どうやらそうではない新しいお兄ちゃんが近づいてきているようですね。

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