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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第84話 幼女、橋を渡る

 バルの名を叫びながらブラゴの鉄機兵マキーニ『イゾー』が走り、鉄機兵マキーニ『ムサシ』へと迫ってきている。

 その機体は腐り竜ドラゴンゾンビの炎を受けて黒ずみ、大地を転げて泥だらけではあるが、鉄機兵マキーニは十全に動けているようだった。


『以前よりは出来るようになったか』


 ブラゴの動きを見ながらバルが冷静にそう口にする。もっとも『以前よりは』という程度である。

 バルはすらりと己のふた振りのカタナを構える。『オニキリ』と『ヒゲキリ』、その黒い刃にブラゴの顔が驚きに染まる。


『取り戻していたのか、そのカタナを』

『偶然だがな』


 そして両者が鍔迫り合った。とはいえ、攻撃は一方的にブラゴが行い、バルは流して避けるだけとなる。ギミックアーム怪力乱神マシラオ』の膂力の前に、バルは直接打ち合うことを回避せざるを得なかった。飛び散る火花にブラゴが犬歯をむき出しにして猛る。


『見ろ。俺の力を! オリハルコンで打たれたこのカタナを! 貴様の持つマスカー族の古臭いカタナとは違う真の力だ』


 叫ぶブラゴにバルが含み笑う。


『何が可笑しいッ?』


 そう叫ぶブラゴの心の揺らぎを察知したバルが、『イゾー』の懐に入り込む。


『愚かな男だな。相変わらず』

『チィッ』


 ブラゴは瞬間的に脚部に設置された車輪を逆回転させて後ろへと下がり、同時に放たれたバルの一撃に胸部ハッチが斬り飛ばされた。


『ガァアアアッ』


 破壊された衝撃でブラゴの身体に飛び散る金属の欠片が突き刺さる。だがブラゴは本能のままにグリップを動かして横に一閃させた。


『ふむっ』


 わずかに掠めた感触と感心したようなバルの声がブラゴには聞こえた。それはまるで取るに足らない相手に対して少しばかりの手応えを感じた……というようなものだった。


『俺を舐めるんじゃねえぞバルゥゥウッ!』

『別に舐めてなどいないさ』


 ただ意識をしていないだけだ。バルにとってブラゴという存在の価値など『怪力乱神マシラオ』と『抜刀加速鞘クイックスラッシャー』を得るための踏み台でしかない。そのための障害でしかなかった。


『オォォオオオオオオッ!』


 そのバルの気持ちがブラゴには分かる。痛いほどにブラゴはそれを認識する。そしてブラゴは鞘へと己のカタナを仕舞いながら、車輪を回転させて前へと走らせた。


『来るか』

『ハハハハハハ、貴様が失ったもんだ。ドラゴンの首も落としたこの斬撃を喰らいやがれぇええッ!!』


 ブラゴが突進しながら叫ぶ。だがバルは特に慌てる様子もなく、


『喰らう気がしないな』


 一歩前に出て、カタナを抜き出す前のタイミングで『イゾー』の握るオリハルコンのカタナの柄を『ムサシ』の足裏で抑え付けた。


『なっ!?』


 ブラゴの顔が驚愕に染まる。だが鞘からカタナは抜かれず、『ムサシ』の影が『イゾー』に重くのしかかる。


『どれだけ私がそれを使うために鍛え上げたと思っている? それのことならば私が一番熟知しているのを知っていたはずだぞブラゴ』

『チックショオがぁッ!』


 ブラゴは叫びながら『怪力乱神マシラオ』の力を込めて跳ね除けようとした。本来であれば『怪力乱神マシラオ』は『抜刀加速鞘クイックスラッシャー』からカタナを抜いた後、そのあまりの抜刀速度に耐えるべく造られたギミックアームだ。

 だが『抜刀加速鞘クイックスラッシャー』は止められた。ならばとブラゴはギミックアームを発動させるが、その行動はあまりにも遅すぎた。


『ノロマが。だからお前は追放されたのだ』


 そしてバルのふた振りのカタナが垂直に落とされ、『イゾー』の両腕が斬って落とされた。


「オォォオオオオオオオオオ!」


 だがブラゴはあきらめなかった。破壊された胸部ハッチを飛び出し、カタナを持って『ムサシ』の胸部ハッチを狙って振りかぶる。


「バルゥッ、お前は俺のッ」

「ガゥッ」


 しかし、ブラゴの身体は巨大な塊に突撃されて吹き飛ばされる。持っていたカタナも吹き飛び、大地へと突き刺さり、ブラゴも呆気なく地面に尻餅をついた。


「なっ?」


 そしてブラゴが目を見開いた先にいたのは、2メートルはあろう巨大な狼だった。それはヴォルフの愛犬であり、ローアダンウルフの中でも異例の巨体を誇るゼファーである。


『ある程度は痛めつけても構わんが殺すなよ。妹が隷属させられているらしいからな。後味が悪い目には遭いたくない』


 バルがそれほど重要でもなさげに言葉を放つとゼファーが了解したとばかりにひと吠えする。


(憑依されているわけでもないのに、賢い狼だ)


 その様子にバルは感心しながら、周囲を見回し、己の鉄機兵マキーニを動かしてその場を離れ始めた。


「バルウゥウウ」


 背後から己を呼ぶ声が聞こえたが、バルは特に気にせずに進み、通信でパラにブラゴの捕獲だけを頼んだ。バルにとって、ブラゴの存在など路傍の石でしかない。彼にとっての標的は街の方角にある。


『デュナン、任せて良いか』


 戦闘は未だ継続中。しかし、もはや戦況は完全にベラドンナ傭兵団の勝利が揺るがないほどのものとなっていた。その中で大剣を振るう白い鉄機兵マキーニから通信が返ってくる。


『了解だ。こちらは問題ない。すでにご主人様は街に入ったようだが、まだ鉄機兵マキーニや兵たちが潜んでいるかもしれない。気をつけろ』


 デュナンの返答にバルは『頼んだ』とだけ言って、騎士型鉄機兵マキーニ『ムサシ』の足を街の方角へと向けた。

 そして街の中にいるジェド・ラハールのことを思い、かつての決闘を思い出し、己の心の炎を燃やしていく。今日こそは借りを返そうと、己の戦いを求めて『ムサシ』を走らせた。

 もっともその血のたぎりがバルの内側から消えさるにはそう時間はかからなかった。進むたびに鉄機兵マキーニの残骸が、兵たちの死骸が転がっているのだ。

 それは街に近付くごとに増えていき、街の門前の状況は凄惨というその一言を極めていた。




  **********




「なんだ……これは?」


 戦慄するしかなかった。バルはその光景にいつしか冷や汗がダクダクと流れ落ちていた。街に入ったバルを迎えたのはやはり破壊された鉄機兵マキーニだった。

 見れば建物ごと兵たちが潰され死んでいるのが見えた。市街戦では建造物内からの対鉄機兵マキーニ兵装に気をつけるのがセオリーとはいえ、ここまで正確に破壊できるのかバルは驚愕するしかない。

 そこにあったのは死の世界そのもの。無論、住人たちもその場からは退避しているのだろうが、動くものはそこには何もなかった。

 ただ道の先のどこかから響く、鉄と鉄のぶつかり合う音だけが、時間が止まっているわけではないことをバルに教えていた。

 そしてバルが心の内から広がってくる焦燥感と共に『ムサシ』を走らせていくと、唐突に大破一歩前の鉄機兵マキーニが建物の影から飛び出してきた。


『貴様がバル・マスカーかぁあっ』


 怒りの篭もった声で傷だらけの鉄機兵マキーニが攻めてくる。そのレイピアの突きを見て、バルの心に恐怖がよぎる。


『チィッ』


 だが斬り裂いたのは一歩対処が遅れたバルの方だった。


『万全であれば貴様などに……』


 斜めにバッサリと斬られた鉄機兵マキーニの中にいた相手の言葉にはバルは返せる言葉がなかった。


(今のは確かに……)


 バルは苦い顔をする。相手の脚部の動きが鈍くなければ、レイピアに突き刺されて死んでいたのは自分の方だったかもしれない……とバルも気付いていた。


『クソッ、貴様があんな、あんな化け物を連れてこなければ』


 そんな恨みの篭もった声を続かせながら、相手の鉄機兵マキーニが崩れ落ちる。その光景にバルは息を飲みながら、ゆっくりとその視線を先ほどから聞こえる金属音の元へと向けた。


『あ、ああ……』


 そして、その光景にバルは思わず呻いた。見えた瞬間から目が離せなくなった。


『ヒャッヒャッヒャヒャヒャヒャ』

『うぉぉおおおおおお』


 そこにいたのは魂力プラーナの輝きに満ちたベラの『アイアンディーナ』と、かつて一度対峙したジェド・ラハールの愛機『ゼインドーラ』の機体であった。赤い機体と銀色の機体が互いを滅ぼそうと、力の限りウォーハンマーと回転歯剣チェーンソー、ハルバードと大盾を振り回していた。

 己を戦士として規定していた根幹をゆるがすほどの、バルの認識を超えた領域の戦いがそこでは繰り広げられていたのである。

次回更新は10月23日(木)00:00予定。


次回予告:『第85話 幼女、激戦する(仮)』


ベラちゃんは多分橋を渡っています。

それ以上の説明は無用ですね。はい。

そしてブラゴお兄ちゃんとのお別れまでもう少しです。

一方でバルお兄ちゃんの様子が少しおかしいみたい。

自分に懐いていた子供が別の誰かとじゃれ合ってるのを見てちょっとしたジェラシーを感じてしまっている……そんな気分なのかもしれませんね。

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