第52話 幼女、もっと頑張る
『ブルーメをまたお前は傷つけるか!!』
叫び声をあげる異形鉄機兵に対しベラがニタリと笑う。異形鉄機兵の切り捨てられた右腕が再生しているのを興味深そうに眺める。
まるでヘドロが溶けて固まっていくように、ヌルヌルとそれは動いて腕の形へと変化していく。
『面白いじゃないか、ソレ』
ベラが笑いながら感心する。
そうしてできあがった腕はもはや鉄機兵の鉄の腕ではなく、は虫類そのものであった。また、相変わらず魔力によって生成された物質特有の不安定さはないようだった。
(あれだけ、一気に生成すれば構成が解けて消失するもんなんだがね)
ベラは目を細めて、異形鉄機兵を観察する。不自然な点は数あるが、ベラの視線は異形鉄機兵の胸元に向けられていた。
(あれかねえ)
再生時に首元にある水晶球が激しく光を発していたのをベラは見逃さなかった。故にその水晶球が何かしらの制御になっているのかもしれないとベラは考える。
(破壊するなら、あそこか……)
『グギャアアアアアアアッ』
観察するベラに対し、腕を修復した異形鉄機兵が叫び声をあげながら駆け出していく。
『元気いっぱいかい。ふん、結構なことだよ』
そう言いながらベラは右手に持ったウォーハンマーをグリップで操作して動かし、突き出された槍を弾く。
『おらよっと』
『アイアンディーナ』は弾いた勢いのままその身を一回転させ、遠心力で加速させたウォーハンマーを続けて異形鉄機兵に叩き込んだ。
『グギャァッ!!』
その勢いに弾き飛ばされた異形鉄機兵が叫び声をあげて地面に転がり、建物へと激突する。ブロック塀が飛散し周囲にまき散らされるが、
『ふん。効いてないのか、回復が早いのか』
ベラの呟きと同時に異形鉄機兵は崩れた建物から飛び出した。通り過ぎる異形鉄機兵の後ろを暴風が吹き荒れる。
『しっかし、お粗末だね』
しかし、加速されて突き出された槍はやはりベラへは当たらない。異形鉄機兵の力任せの攻撃はそのまま『アイアンディーナ』にカウンターを決められる。そして、再生したばかりの右腕がウォーハンマーのピックに突き刺さって、えぐり取られて宙を舞った。
『ォォオオオオオオオオオ』
異形鉄機兵が吠え、すぐさま右腕がまた生えてくる。やはりは虫類の腕であったが、さきほどよりも大きく太くなっているようだった。
『今のアンタにゃ男を殺されても消えなかったクレバーさがまるでないよ。オツムがイカれてるのかい? 残念なことだよ』
ベラは『本当にね』と吐き捨てる。確かに異形の鉄機兵の速度もパワーも驚異ではあるとベラも理解している。しかし、カウンターを乗せやすい単調な動きではベラには勝てない。変質する前の方がまだ歯応えがあったとベラは考える。
そして、再生途中の異形鉄機兵の頭部にウォーハンマーを打ち込み、そのまま地面に叩きつけた。
『ガッ、ハァア……ブルーメ……私に力を』
声が響く。これほどに攻撃を仕掛けても異形鉄機兵は動きを止めない。異形鉄機兵は地面に転がされながらも尾を『アイアンディーナ』へと振るった。しかし、それは『アイアンディーナ』左腕に握られている回転歯剣によって切り裂かれ、尾が地面に落ちてビクッと跳ねた。
『ブルーメェエエ』
どれだけ仕掛けても、どれだけ突き付けても、まったく届かない。そのことへの怒りの叫びが異形鉄機兵の頭部を裂けさせ、『口』を開かせて生の叫び声を響かせた。
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『ギャァアアアアア』
マリーアは叫ぶ。尾を切られたのだ。本来自分には備わっていないものだが、マリーアはその切り裂かれた尾の痛みを感じていた。
(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い)
目から涙がこぼれ落ちる。許せない。ブルーメの仇なのに、何故に殺されようとしないのか……と、そんな理不尽な怒りがマリーアの中を駆けめぐる。
それが更なる力を呼び起こす。口を生み出し、牙を生やし、炎を吐き、再び尾を再生して、己もブルーメとの繋がりを強める。ただひたすらに目の前の赤い鉄機兵を殺そうと変異し続ける。
憎悪がその身体を変質させ続けていく内に、その姿は長きに渡り歴史の中に忘れられたものを、原初の姿を呼び覚ます。
もはやソレと一体化したマリーアには理解ができていた。自らの存在のことを。鉄機兵と呼ばれるモノがなんなのかを。
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『ははは、こりゃあ凄い……』
ベラが笑う。そして、瞬時にフットペダルを踏み込んで『アイアンディーナ』を後ろへと下がらせると、その目の前を炎が吹き荒れた。
もはや目の前にあったのは鉄機兵ではなかった。ウォーハンマーで叩き潰し、回転歯剣で切り裂き、削ぎ落とし続けた結果、ソレは生まれてしまったようだった。
ベラとて分かっている。目の前にいるのはなんなのかということを。その名はこのイシュタリア大陸より消えたはずのこの世界における最強種。すなわちドラゴンであると。
『良し。少しは遊べそうだね』
そう答えるベラの前にいるソレは今や10メートルを超え、ベラの『アイアンディーナ』を見下ろすほどに肉体を膨張させていた。しかし、その代償としてドラゴンは飢えていた。己の中のほとんどのエネルギーを費やし成ったことで栄養を欲していたのだ。
『ガァアアアアアアッ』
もはやソレにマリーアであった頃の意識など存在していないようだった。ベラに対する憎悪ですら飢餓感に塗りつぶされている。餓えという根元の本能によってソレは今動いていた。
『あん?』
だが、ドラゴンは『アイアンディーナ』から視線を逸らした。それはベラに恐れを感じたから……というわけではなかった。しかし、ここまでの経験から喰らおうとするには手間がかかり過ぎると理解もしている。そして、餓えを満たすのにもっと狩りやすい獲物の匂いをドラゴンは察知していた。
『あ、ちょっと待ちなッ』
ベラが声をあげるがすでに遅い。ドラゴンはその声に反応せず翼を広げて、一気に空を舞ってその場を去っていった。
(あー、なんだってんだい?)
唐突に梯子を外されたような気分になったベラがドラゴンの去っていった方角を見て、その先に何があるのかを考える。
(おや、あっちは確か……)
『主様、無事かッ!?』
直後にバルからの通信が入った。
『無事かってのはどういう意味だい? あたしが負けるとでも思ってたのかい?』
『ああ、いや……』
バルが口ごもるが、その反応にベラが『ヒャヒャヒャ』と笑う。
『それよりそっちはどうなんだい? こっちは面白いもんが見れたが、通信を入れたってことは狼たちを始末できたのかい?』
『いや、5体は仕留めたが他は急に撤退していった』
バルの言葉にベラは眉をひそめる。すでに首無しの巨人兵もその場を去っていた。
(ドラゴンを見て立ち去ったのかね?)
或いはドラゴンを追ったのかもしれないとベラは考えたが、その真相を知るすべは今のベラにはない。
『それと先ほど、そちらから何かが飛び出していったようだが、なんだったんだ。主様?』
『なんだってドラゴンだよ。ドラゴンッ』
勢い良く答えるベラの言葉にバルが『ハ?』と思わず聞き返す。
『何度も言わせるんじゃないよ。凄いよこりゃあ。飛び出していったのは正門前だね。腹ぁ空かせてたみたいだし、きっとトンでもないことになるよ』
ベラは笑いながら、そう口にした。人同士の戦争が、鉄機兵同士の戦争が、音を立てて崩れていく。そんな予感を感じながら、ベラはドラゴンが過ぎ去った方角に視線を向け続けた。
次回更新は6月30日(月)0:00予定。
次回予告:『第53話 幼女、食事中にお邪魔する』
ベラちゃんは頑張ったよ。




