第50話 幼女、トドメを刺す
カラン……と、ひしゃげたライトシールドが地面に落ちた。
(ちっ、油断したかいッ)
ベラは舌打ちする。そして目の前の敵を警戒しながらも、己の機体の状態を確認していく。
(左腕が若干重いか。後は問題はないみたいだね)
攻撃を受け止めた左腕が僅かにダメージを負っただけのようである。ライトシールドこそ外れたが、それはライトシールドにかかった負荷を機体に乗せないためにパージしたためである。
そして現状のベラだが、『狂戦士』の攻撃によって弾き飛ばされはしたものの転ぶことなく踏み留まり、今はもうウォーハンマーを握って構えていた。
『良い蹴りだね。危うくお天道様まで飛んじまうところだったよ』
ベラは皮肉ではなく純粋に目の前の化け物を言葉で賞賛する。そして、ベラの言葉の通り『アイアンディーナ』は、首を跳ねた直後に『狂戦士』の『膝蹴り』を盾越しとはいえ喰らっていた。
(しっかし、首ぃ跳ねても死なないとはね。さすがにおったまげたね)
首を回しながらベラは心の中で呟く。
ほんの一瞬のことだったのだ。ベラが首を跳ねた後も『狂戦士』の身体は弛緩していなかった。それに気付いたベラがとっさにライトシールドを前に出した次の瞬間には膝蹴りが入っていたのだ。
それが胸部ハッチに直撃していればベラの肉体は操者の座の中で鉄と鉄にサンドウィッチにされて確実に終わっていただろう。それはここまでのベラの人生の中で最も危険な一撃だったのだ。
そして、目の前の化け物、もはや『狂戦士』というよりも『首無し騎士』といった姿だが未だ健在のようである。
(が、種は見えたね)
ベラは注意深く『狂戦士』を見る。切り裂いた首の断面からネバネバとした赤黒い、凝固した血の塊のような何かが出ているのを注視する。
(寄生スライム種か何かか。それを巨人に仕込んで動かしたってワケかい)
種を明らかになれば、その不死身さの正体もおかしなものではなかった。巨人族を何らかの手段で肥大化させ、それに巨獣の一種だろうスライムに寄生させて操っていた……とベラは理解した。
『ま、首があろうがなかろうがあたしにゃ関係ないけどね』
ベラが不敵に笑う。例え首がないまま動けようと最終的に四肢を分断させてしまえば動きも止まる。巨人の中から本体のスライムが飛び出してこようとも焦らずに対処すれば良いだけのことなのだ。
そもそもスライム種は不定形で攻撃が効かないと思われがちだが、コア部分とつながった粘体が切り離されれば分断された部位は動きが鈍り壊死する。止まっていては鉄機兵といえど内部に侵入されて危険にもなろうが、胸部ハッチへ入るのを警戒しながら切り刻んでいけばそれほど驚異はない相手なのである。
(ま、殺しきれなくとも出てきたら最悪ジャダンに燃やさせれば終いだろうよ)
全くもって問題なしとベラは考える。そして首なしの『狂戦士』が走り出したのを見ながら、フットペダルを踏みしめて自らも『アイアンディーナ』を走らせた。
『ヒャッハァアア!!』
迫る『狂戦士』にベラの『アイアンディーナ』がさらに一歩踏み出す。そのまま振り下ろされた大剣を掠めるぎりぎりで避けて懐に飛び込み、ウォーハンマーを振り上げた。
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「グァッ」
ヴォルフの叫び声があがる。巨獣との同調により痛みがフィードバックされたのだ。つまりは『狂戦士』の、その内部にいるブラッドスライムがまたダメージを受けたということだった。
「なるほどな。化け物とはよく言ったものか」
ヴォルフが呟く。今、ヴォルフを含む獣人たちは街の中央にある兵舎の中庭の一角にて陣を張っていた。
そこは巨獣使いである赤牙族に用意された場所だ。現時点において、この場にいながらヴォルフ達は魔力のパスで巨獣達と繋がって憑依という形で巨獣を操作していた。
その陣の中でヴォルフは瞑想状態のまま、苦い顔で操作を続けていた。形勢はヴォルフにとって不利な形で展開しつつあった。
(腎臓近くを抉られたか)
不利な状況であるにも関わらず、ヴォルフは対峙する相手の技量に舌を巻いて苦くではあるが笑っていた。笑うしかなかったというのが本音だろう。全くもって呆れるほどに恐るべき相手であったのだ。
ヴォルフは赤い鉄機兵とその仲間の分断を仲間たちに任せ、自身は切り札である『狂戦士』を投入していた。
巨人族を魔素を注入し肥大化させ、その内部にブラッドスライムを寄生させた巨獣、それが『狂戦士』だ。
肉体性能を限界まで発揮し、例え傷ついても身体の一部を失っても戦い続けることが出来る狂った巨人の戦士。十数の鉄機兵を破壊し、なお動き続けられるような化け物であるはずのソレは、今やたった一機の鉄機兵によって終わりを迎えようとしていた。
「クッ、仕込み武器だとッ!?」
真っ赤に焼けた鉄の杭が『狂戦士』を貫いていた。赤い鉄機兵の左腕から突き出た鉄杭が『狂戦士』の胸部装甲を突き破り、ブラッドスライムの粘体の満ちた巨人内部の肺まで到達していた。さらには鉄杭の熱量によりブラッドスライムが焼けて悲鳴をあげ、ヴォルフ自身も同調のフィードバックにより全身を焼け尽くされる衝撃を受けたのだ。
『ヒャッヒャッヒャ。ああ、やっぱりこいつは効くんだね』
赤い鉄機兵から女だか子供だかの声が響く。
ヴォルフは身体が焼け焦げる感覚を押さえ込みながら、大剣を振るって鉄機兵を退け、自身も下がって一旦は距離を取った。
(こいつはなんというヤツだ)
ヴォルフは己の巨獣使いの力を信じていたし、『狂戦士』は赤牙族の執念が生み出した最強の巨獣であるはずだった。
(鉄機兵では、我が『狂戦士』に比べて視界も悪く、動きも鈍いはずなのに……)
繰り出す攻撃のすべてが防がれ、逆に『狂戦士』は相手の攻撃を防げず傷つき続けた。
この状況の原因が何かと言えば、自分の攻撃がすべて読まれ続けたからとしかヴォルフには思えない。速度に劣る鉄機兵が『狂戦士』に抗するには先んじて動かなければならないはずなのだ。そうでなければ説明が付かない。
故に今も斬り合いながら、ヴォルフは実感するのだ。目の前の鉄機兵の乗り手は化け物だと。
「……ヴォルフ様?」
「まずいな。これは」
不安げな部下の言葉に、ヴォルフは無意識にそう呟いた。
(止むを得んか。こうなれば)
もはや出し惜しみは無用とヴォルフは割り切った。そして、ここで己の手札を使い捨てることを決めたヴォルフがソレを発動しようとした時だった。
恐るべき力の持ち主の、強大な咆哮が響き渡ったのは。
「これはっ!?」
ヴォルフは全身に悪寒を感じながら驚きの声をあげた。己と同調しているブラッドスライムが本能からの恐怖で震えているのが分かる。
(有り得んぞ、これは……まさか)
ヴォルフはその声の主を知っていた。遠き記憶、故郷にある竜の骸に憑依した時にその声を記憶し、模倣して巨獣を操るのが彼ら巨獣使いなのだ。だから分からないはずがなかった。
遠き過去にイシュタリア大陸を去った最強種たるドラゴンの遠吠えを。
次回更新は6月23日(月)0:00予定。
次回予告:『第51話 幼女、頑張る』
ベラちゃん、トドメなんて刺してませんよ。おかしいですね。
某週刊誌の次回予告みたいに適当にサブタイトルを決めるからこうなるんです。
だから次回は反省を生かして無難なサブタイトルにしました。
何をするのかは分からないけど、たぶん頑張ります。
ええ、ベラちゃんは良い子なのできっと頑張ってくれるはずです。




