第374話 少女、戦場を歩む
『チッ、兵の損耗が予想以上に早い』
『戦争の形が変わりつつある……ということなのだろうがな』
剣戟と爆炎の渦巻く戦場の中をモーリアン王国の金剛将軍ニオー・ウルバルが乗る鉄機兵『ジオー』と銀光将軍ゼック・ヴァモロの鉄機兵『ミステリア』が駆けていく。
『だが、どれだけ強力だろうがよ』
『懐に入れば脆いものだ!』
そして巨獣機兵を同時に攻撃し、元は半獣人であった心臓核を貫くと、巨獣機兵は絶叫しながらその場に崩れ落ちた。
『これで近辺の巨獣機兵は全てかたずけたぞニオー』
『ああ、そうだなゼック。各部隊は再度陣形を整えよ。大盾を構え、巨獣兵装に備えるんだ』
その声を聞いて鉄機兵とそれに伴う歩兵の列が動き出す。
巨獣兵装は脅威ではあるが、それでもそのほとんどは直撃でなければ鉄機兵を倒せず、大盾で防げば損傷も少ない。生身の歩兵も鉄機兵に隠れればその被害も大きくはない。警戒しながらの移動となるために歩みこそ遅くなるが、対処できないものではないのだ。
とはいえ、防ぐ前に攻撃を受ければ被害は甚大なものとなるし、その勝手が分からぬ者たちは容易に攻撃を受けてしまっていた。
(防ぐことはできる。できるが……厄介だな)
ニオーが目を細めて、戦場を見渡す。
敵味方、どちらの側からも爆炎や轟音が響き渡っている。先ほど己の口から出た通りに戦争の形が変わったのだと改めて実感せざるを得なかった。
そして巨獣機兵を仕留めたニオーとゼックを讃える兵たちの声を浴びながら、両者は次の相手を求めて戦場を駆けていく。
『デカくて目立つが高出力の巨獣機兵、小回りは効くが出力に制限がある巨獣兵装持ち獣機兵。それらが入り混じるだけでこうも戦場がかき乱されるとはね』
『巨獣機兵がそうそう増えるとは思わんが、製造法は確立している。巨獣機兵が死んでも巨獣兵装が残る。チッ、また来るか』
敵陣から巨大な炎の球が飛び出てニオーとゼックの機体へと放物線を描きながら落ちようとしたところに、自陣から同じ大きさの炎の球が飛び出て空中で激突して爆散した。そして火花の雨が彼らの機体に当たって散っていった。
『助かった……む!?』
ゼックの視界の敵鉄機兵から擦り抜けるように、否、すり抜けて突撃してくる鉄機兵の姿が映った。
『鉄機兵の亡霊だと? やられるかよ』
『待て、避けろ』
ニオーの言葉にとっさにゼックが愛機『ミステリア』で攻撃を避けると通り抜けた半透明な鉄機兵が幽鬼の如く、 霧のように消滅した。
『消えただと? 今のは』
『これはギミックウェポン『操霊機構』だ。であればこの場にヤツがいる』
『ヤツ?』
ゼックが訝しげな顔をしたがそれも一瞬、即座に気配を感じて敵の方へと視線を向ける。
『金銀コンビ。獲物の格としてはそこそこか。ベラ・ヘイローがいることを期待していたのだがね』
そう言って敵軍の中より現れたのは髑髏をイメージさせる造形をした白と黒の機体。その姿をニオーは知っている。
『鉄機兵『エッシャー』。八機将の霊機ゾーン・タオラか』
『戦場で会うのは久しぶりだなニオー。かつての大戦以来だ。会えたのがベラ・ヘイローではないのが残念だがね』
『お前もウチの大将狙いか。まったく妬けるくらいにモテるね』
ゼックの言葉にゾーンが笑う。
『貴様らのか細い希望を支える紛い物だ。仕留めねば誰も彼も夢から目を覚ませぬのだろう?』
『紛い物ねぇ。ま、俺らがあの人の背中にクィーンを見ているのは確かだが、あの人が紛い物というならそりゃあ見当違いな話だぜ?』
そのゼックの言葉にゾーンの目が細まり『ホゥ?』と呟いた。
『そういうことだ。ベラ・ヘイローがクィーンであるか否かはもはや重要ではない。我らはあの強い光に続いて剣を抜くだけのこと』
『なれば、なおさらに仕留めねばならぬのだろうよ。だが、まずは』
そう話している間にもニオーとゼックの率いるモーリアン王国軍とゾーン率いるローウェン帝国軍が列を組んで対峙していく。
『ここで貴様らを仕留めさせていただこうか』
『俺らはついでかよ。やってらんねえな。クソッタレ』
『腐るなゼック。ここで思い上がりを正してやればいいだけのことだ。その命を代価にな』
そして両者、両軍が激突する。
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『ウォォオオオオオオオ!』
ズドンと機械の巨人が地面に叩きつけられると、そこにハルバードが振り下ろされて乗り手が心臓化した核が破壊され、巨獣機兵の活動が停止した。
それを成したのは6メートルある巨大な鉄機兵『トールハンマー』。そしてその機体を駆るのはルーイン王国モーディアス騎士団を率いるガルド・モーディアス。対巨獣兵装用の、底面に車輪が付いた巨大なタワーシールドを持ちながら、自分の団を率いて進んでいく。
『見ての通りだ。所詮は鈍いデカブツ。我が勇士達よ。恐れることなく突き進め』
オォォォォオオオオオオオオオ
鬨の声が響き渡る。
戦いはわずかに優勢なれども一進一退の状況。すでにローウェン帝国軍の獣機兵たちの数は半減し、その裏にいた鉄機兵の軍勢との交戦を開始している戦場もある。またガルド率いるモーディアス騎士団やモーリアン王国軍などはともあれ、周辺国の兵達は弱兵でこそないものの、際立った強さもなく、ベラドンナ同盟軍が徐々に押されている戦場もあった。
(それにしても戦場の動きが早い。敵も味方も死ぬことを恐れていないような……この場がそうさせているのか)
元来鉄機兵を用いた戦争とはもう少し緩やかな展開をするものだった。一部のエースを除けば、剣や槍などで鉄の塊である鉄機兵を仕留めきることは難しく、損傷を与え、与えられながら数ヶ月に及ぶ期間をかけて戦争は展開されていた。けれども昨今、獣機兵や竜機兵といった高出力の機体が戦場に出現したことで、耐久力を削るのではなく、より速く機体を破壊することを念頭に置いた戦術が主なものとなっていた。その流れは敵味方共に同様で、そこに巨獣機兵と巨獣兵装が現れたことでさらに加速していった。けれども、それだけではない勢いがこの戦場には存在している。互いに退くことなく、闘争本能の赴くままに殺し合う。それはかつて鷲獅子大戦によって命を落とした戦士たちの怨念がそう促しているのかもしれないとガルドは考える。
(だが、かつての友が背中を押してくれていると考えれば悪くない。そして勝利するは我らだ)
かつての鷲獅子大戦以上の高揚を感じているのはガルドも同様だ。そしてガルドが迫る鉄機兵の列を何するものぞと横薙ぎに斬り倒すと、その直後にとっさに後方へと跳び下がった。
『クッ』
キィンと小気味良い金属音と共にハルバードの斬られた柄の先にある刃が宙を舞い、ガルドが舌打ちをしながらただの鉄棒となったハルバードを構えて、敵鉄機兵の背後から現れた機体を見る。
『……ネア・オーグ・サディアスか』
そこにいたのは八機将が一人。ジェネラル・ベラドンナが現れるまではローウェン帝国の象徴とまで謳われ、ローウェン帝国のための剣、即ち国剣の二つ名をも与えられた帝国の英雄ネア・オーグ・サディアスであった。
『クーデターを起こして捕まったと聞いていたが』
『我が剣、ただローウェンのために振るうのみ。参る!』
直後、ガルドの愛機『トールハンマー』が鉄棒を投げ捨てると同時に鉄拳飛弾を放ち、ネアの機体『テセウス』が剣を振り抜いて応じ、両者の激突がその場に火花となって広がった。
そして戦場のいくつかの場所で両軍が雌雄を決する戦いを繰り広げている中、戦場をバル・マスカーの『ムサシ』が駆け抜けていく。それはまるで求めるものがどこにあるのかを知っているかのように……
次回予告:『第375話 少女、戦場を観察する』
ベラちゃんは自分の出番はまだかと少し焦れているようですが、その間にもお兄さん、おじさんたちは大忙し。舞台が暖まるまであと少し。最終の幕が開くまではあと少し。もうちょっと待っていてくださいねベラちゃん。




