第345話 少女、刺して燃やす
『グァアアアア』
ベラの放った炎の蛇腹小剣の刃先が『ディザイン』の脇腹の部分を貫き、シャガの苦痛の声が響き渡った。しかし深さはそこまでのものではなく、その事実にベラが舌打ちをする。
『チッ、硬いねえ。突き刺しきれない』
『クッ、オォォオオオ。言ったはずだ。この機体には鋼機兵のフレームを使っているとな』
血を吐きながらシャガがそう口にする。浅く刺さっているとはいえ内部にいるシャガが無傷であるはずはないのだが、どうやら喋れる程度には無事であるらしいとベラは理解して、その上で『なるほどねえ』と呟きながら笑った。
『けど、デュナンはあたしにお熱でね。他の男が近寄ると灼けちまうんだよ』
その言葉の直後に、浅く突き刺さった炎の蛇腹小剣が灼熱化し、膨大な熱量が発生する。無論それにたまったものではないのはシャガだ。
『クッ、ベラァアアアア!?』
己が焼ける感覚に苦痛の声をあげながらシャガが『ディザイン』を操作して炎の蛇腹小剣を抜こうと掴みながらベラに蹴りを放つ。
『ヒャハッ、根性あるねえ』
ベラがそう口にしたが『アイアンディーナ』はさらに炎の蛇腹小剣を押し込もうと力を込め、蹴りも竜骨の盾で受け止めていた。その状況にシャガの表情が歪む。
『で、中身はどうなんだい? レアかい? ミディアムかい?』
ベラの言葉にシャガは言葉を返せない。そうできるだけの余力がない。
硬いフレームで守られようと狭い金属の檻である操者の座周辺の機器が歪んで鋼鉄の嘴のようにシャガの肉をついばんでいるだろうし、さらにはデュナンの炎に当てられた金属が今もシャガの身体を焼いているはずだ。絶体絶命。シャガの命はもはや風前の灯であったが、しかし……
『今だ。放て!』
わずかな者の間で走ったその指示が戦況を一気に覆す。
『何!?』
『ライ……アスか』
ベラが目を見開き、シャガは吐き捨てるように呟きながら、炎の蛇腹小剣を掴む力を強めた。もはや決着はついたのだとシャガは認め、己が切り捨てられることを認め、そして戦士ではなく軍を率いし将として自らの戦いに泥を被ることを認めた。
『よかろう。ならば殺せ。確実になぁあああ!』
『このっ、ザケんじゃないよクソ野郎!?』
己が置かれた状況にベラが焦りの声をあげたが、すでに状況は完成している。その流れを止めることはベラであっても不可能だ。
ここでベラが誤算だったのは二点であった。まさか敵が己の将を捨てる判断を下すと予想できなかったこと、そして巨獣兵装持ちのオーガタイプの獣機兵に乗っている半獣人たちが脳を弄られ調整された者たちである故に殺気というものを持ち合わせていなかったことである。
そして決闘場まがいに周囲に取り囲んだ鉄機兵たちに隠れて放たれた巨獣兵装はその場に無数の鉄芯を降らしていく。回避行動をとれる余地はそこにはなかった。
『オォォオオオオオオオオ!』
ベラが咆哮しながら鉄芯を弾いていくが、それを塗り潰すように五つの巨獣兵装から生まれた鉄の雨は絶え間なく降り注ぎ、すべてが落ちて周囲に土煙が舞い、やがてそれらが消えたときには針の山がその場にできていた。
『ツゥ……やって……くれるねえ』
わずかに時間が経過した後、鉄の山の中で盛り上がった部分から少女の声が聞こえてきた。それには金剛軍団の兵たちも驚きの顔を見せたが、この指示を行なった張本人であるシャガの副官ライオスはわずかに眉をひそめただけであった。
『これでも生きているとは……全くしぶとい』
『はっ、あんたが今の命令を下したってことかい? まさか八機将を切り捨てるたぁ思わなかったよ』
シャガの気配はもはやなく、今の攻撃ですでに死亡しているようであった。
『あの方は将となったが戦士としてあろうとした。けれども戦士として敗れたのであれば、将としての責任はとってもらう必要がありますから』
『はっ、好き勝手やる以上は失敗したならケジメをつける必要があるってか。まあ、そりゃあ道理だ。あたしゃ見習いたくはないがね』
ガラガラと鉄芯の山が崩れていく。
その中から見えたのは見るも無残な姿の『アイアンディーナ』だ。頭上に掲げられた左腕の盾と正面の胸部装甲によって操者の座こそ護られていたが、全身には無数の鉄芯が突き刺さっていた。その様子を感じ取ったベラが『ハァ』とため息をついた。
『まったく、ここまでの損傷を受けたのは久方ぶりだね』
これより以前といえば罠で仕掛けられた爆発にやられたときだ。
あのとき油断はしないと誓っておいて、この様だとベラが自嘲する。それからベラの視線は正面のライアスの機体『マルドゥク』に向けられた。
『いいさ。油断したから……なんて、クソみたいなことを言うつもりはないさ。手段はどうあれ、あんたは良くやった。あたしが認めてやるよ。あんたは』
それから額から垂れ流されていた血を拭いながらベラが歪んだ笑みを浮かべる。その言葉に偽りはない。今この場において、名も知らなかった敵は己の一歩上をいっていた。決闘だから、味方ごと巻き込んだから、そんなことを卑怯とのたまうつもりはベラにはない。『アイアンディーナ』に傷をつけた相手を素直に賞賛する。
しかし、だからこそライアスの運命はこの時決まった。
己の膝を地につけさせた者を生かしておく懐の深さはベラにはない。いや、理屈などに意味はないのだ。これはもっと単純な感情だ。殴られて腹が立った……というだけの、ただの怒りであった。
『必ずあたしが殺してやる』
そしてベラが心の奥底から湧き上がる感情を言葉にすると、ガラクタ同然の『アイアンディーナ』から膨大な量の魂力が噴き上がった。
次回予告:『第346話 少女、玉を得る』
皆様、予想はできていたとは思いますがマルドゥクなどという強そうな名前の愛機に乗る人がモブのわけがありません。そしてシャガおじさんは残念でしたが、ベラちゃんは今日も可愛いです。




