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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第四部 十二歳児に学ぶ皇帝の首の落とし方

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第332話 少女、元椅子を観戦する

 ヘイロー軍竜撃隊の隊長ガイガンと愛機『ダーティズム』。

 元ベラドンナ自治領軍将軍にして現在はベラの戦奴隷であるアーネストと彼の愛機『ラハトゥ』。向かい合う両者から漏れる闘気は周囲から音を奪い、やがてどちらともなく一気に駆け出して『ダーティズム』のウォーハンマーと『ラハトゥ』のウォーアックスが激突し火花を散らした。

 同じ長柄で、その先についているのが鎚か斧かの差しかない両者の武器は扱いに関していえばあまり違いはない。斧であれば関節部を狙って斬撃を当てて破壊することもできようが、それは鎚の裏側についているツルハシでも同じこと。どちらも攻撃の基本が遠心力を利用して敵を叩き潰すことを目的としているのだから使い方は近しく、それ故に互いの手の内はどちらもが理解していて、まるで舞うが如き戦いがそこに展開されていた。


「ヒャッヒャッヒャ、こいつは思ったよりも見応えがあるね。なかなかの見世物だ」


 この状況を作り出した少女がさも可笑しそうに笑う。この両者の戦いを取り囲んで観戦している兵たちも熱狂的に歓声をあげていた。ヘイロー軍最強の部隊の隊長と、敵対していたとはいえ鷲獅子大戦を生き抜いた英雄の対戦カードだ。戦闘民族のラーサ族を多く有するヘイロー軍がそれに興奮しないわけがなかった。


「ははは、ヘイローにはアーネストの実力を見せ、モーリアンにはヘイローの力を示す……か。まあ、確かにいい戦いだぜベラ総団長。なあニオーの兄貴」

「公の場でそう呼ぶのは止せと言っている」

「おっと失敬」


 ゼックが肩をすくめ、ニオーが呆れた顔で小さくため息をつく。

 ふたりは実際の兄弟というわけではなく、クィーンの元で義兄弟の契りを結んだ関係だ。穴蔵の友ともいい、ミルアの門を拝謁することを許された守護騎士同士でもあり、その絆は今でも損なわれてはいない。

 現在彼らはベラの左側でガイガンとアーネストを観戦しており、また彼らの周囲にはモーリアン王国軍の幹部たちも並んでいた。一方でベラの後ろにいたリンローは悔しそうな顔をして、目の前の戦いを見ていた。


「俺にやらせてくれれば……」

「はぁー、馬鹿かいあんたは。同じ鉄機兵マキーニの乗り手であるガイガンと戦わせるからこそ意味があるんだろうに。あんたのレオルフとやり合わせたって、巨獣と戦ってんのと大して変わんないだろう」


 不満そうな顔を浮かべるリンローにベラが愉快そうに笑う。


「それにだ。お前の使い道はこういうところじゃない。小兵を相手に小兵の戦い方をしていてもダメなのさ。あんたとあいつらじゃあ立っている舞台が違う。いい加減、それを自覚することだね」


 そう言われてはリンローも返す言葉がない。

 通常の鉄機兵マキーニが4メートルあるのに対してリンローの混機兵キメラ『レオルフ』は6メートルと大型であり、またこれまでの鉄機兵マキーニ同士の戦闘にはなかった巨獣兵装ビグスウェポンや機竜形態への変形などといった攻撃手段も多彩だ。反面、実力者との戦いでは敗北を喫していることが少なくなく、それがリンローのコンプレックスにもなっていたがベラは笑い飛ばす。


「そのためにあんたにはオルガン兵団を率いさせ、ザッハナインも付けた。あんたは一対一で倒すのではなく、より多くを奪い、より多くを殺すことを求められているんだよ」

「それでバル・マスカーを殺せるんですかい?」

「そいつはアレのカタナとやり合って勝てるのかってことかい? 無理に決まってるだろ」


 あっさりとした返しにリンローの顔が歪む。


「あのバル・マスカーって男は四六時中戦うことしか考えていない頭のおかしいやつだよ。味方も敵もない。分別ってものが存在していないんだ」

「そりゃ、総団長の下にいた時からですか?」

「そういう傾向はあったが……いや、あの頃とはもう違うね」


 ベラが遠くを見るような目をして言う。


「先日に会ったあいつはあたしに挑もうという目をしていた。昔は主人に噛みつかない分別はあったんだが、今はもうあいつは犬じゃない。裏返った……というよりは表返ったというべきだろうが……ま、バルみたいに戦うことしか考えてない馬鹿には部下は任せられない。だからアンタはそれで良いのさ。だからオルガン兵団を任せられる。けど、それじゃあ届かない境地もあるにはある。あたしだってまともに戦えばバルよりゃ弱いだろうさ」

「そんなことは……」


 その言葉には横にいたゼックとニオーも耳を傾けていた。

 ベラよりも強いということは、ベラと同等の強さを持つジェネラル・ベラドンナよりもバルの実力は高いということでもある。それがかつての身内びいきによるものか、或いは事実であるのか。今のベラの言葉だけではふたりには判断がつかない。


「ずっとカタナを振り回すことしか考えていない相手と正面から戦えば当然負ける」


 だからこそベラはひとりではなかった。

 だからこそヘイローを治める立場ではなく、戦場にい続けることを選択した。

 己しかできぬ、己だからできる勝利への道を歩み続けてきた。


「けれども最終的に勝つのはあたしだ」


 故にその言葉は彼女の本心だ。戦いそのものではなく、ただ勝つことこそが彼女の信条であった。


「そりゃ、どういう意味です?」

「あたしらは別に武芸者じゃない。数に頼る。火力に頼る。結構じゃあないか。相手の土俵に乗らずに圧倒して潰す。あんたにゃ、そういう戦いができるように仕込んでいるはずだ。それを理解していないとは言わせないよ」


 その言葉にリンローは何も返せない。それは事実で、だからこそザラック中原での戦いを大勝に導けた。大将を討ち取ったのはベラだが戦況を変えるほどの戦功をあげたのはリンローたちヘイロー軍そのものだ。


「ゼック」

「言ってねえよ、俺はな」


 横にいたニオーとゼックがそう呟き合う。

 一言一句忘れたことはない。敵も味方も、多くが死に、多くが殺された鷲獅子大戦。ツワモノどものほとんどが天へと昇ったにもかかわらず、ニオーとゼックが生き残っている理由。それはこのふたりが弱かったから……ということに他ならない。

 もちろん、クィーン・ベラドンナの元に集った戦士たちの中では……というだけであって、ふたりが実力者であったことは確かだ。それでもクィーンは彼らを己の元に置かず、自軍を率いさせた。その時のクィーンの言葉と今のベラの言葉は近しかった。

 結果としてクィーンが倒された最後の戦場に彼らが辿り着くことはなかったが、今のモーリアン王国があるのは間違いなく彼らが生き残っていたからであった。


『結局のところ、生き残った方が勝ちなのさ』


 それから二人の脳裏には耳に入ってきた声と記憶の中の声とが重なって聞こえた。


「で、勝ったのはやっぱりアーネストかい」


 そんな周囲の状況など特に気にしてもいないベラが目の前の戦いの決着を見て頷く。

 勝利したのはアーネストだった。戦いは終始互角に見えていたが、最終的なところで焦れて踏み出したガイガンの隙を狙ったアーネストが『ラハトゥ』を懐に飛び込ませ、腰に差していた小剣を『ダーティズム』の胸部装甲に突きつけたのだ。

 技量としては互角。けれどもベラに敗れたとはいえ、アーネストは英雄のひとりだ。戦闘の駆け引きにおいてはアーネストに一日の長があったということだろう。


「順当な結果だけど、ガイガンがリンローみたいないじけ虫にならなきゃいいんだけどねえ」


 ベラの言葉にリンローが嫌な顔をしたが、対してベラはその様子を見て笑うだけだった。


 その翌日、モーリアン王国軍と同盟国軍は共にザラック中原を後にして自治領に向けて動き始めた。彼らが次に向かうのはベラドンナ自治領の防衛都市ナタル。その都市はベラドンナ自治領ができて以来、そこより先にモーリアン王国軍が侵攻したことはない自治領の防衛の要であり、さらにナタルはローウェン帝国とを繋ぐ『オーガロ渓谷』へと続く都市でもあった。


次回予告:『第333話 少女、移動する』


 リンローお兄ちゃんは男の人ですので意地があります。

 そんなリンローお兄ちゃんを可愛いなとベラちゃんは思っているようです。

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