第245話 少女、山に向かう
エルシャ王国のダイズ王子との話し合いを終え、要塞アルガンナに向かっているという増援部隊も待たずにベラたち竜撃隊は山岳都市バルグレイズへと向かうこととなった。
現状のローウェン帝国軍は獣神アルマを失い、指揮系統が混乱している。八機将の獣魔ドルガ指揮の下でいずれ統制は取れるだろうが、その前に攻略を進めておきたいというのがベラの考えであった。
なお、竜撃隊以外にはフォルダム騎士団、それにダイズから他に騎士団を二団与えられている。これにマルカスの町で駐留しているヘイローの部隊に伝令鳥で指示を出して合流しバルグレイズの攻略を行う予定であった。
そして、移動中の魔導輸送車の中ではベラとガイガンがバルグレイズ周辺の地図を見ながら眉をひそめていた。
「やはり壁の頑丈さはアルガンナクラスはあるかね。リンローに門を破壊させるという手段も難しいねえ」
「鉱山のそばですし、あの辺りは石材の中でも硬度の高いラウナク岩が採れるところですからな」
都市を守る城壁は、鉄機兵という労働力があるために極めて頑丈に作られている。それは対鉄機兵であり、対巨獣のためのものでもあった。
「今はまだ飛空用の存在に対する耐性はない……とはいえ、またひとりで出るつもりですかな?」
「それが一番手っ取り早いんだから仕方ないさ。レオルフも飛べたなら良かったんだけど、ありゃあそんな気もないようだしねぇ」
ベラの言葉にガイガンがため息をついた。
空を飛ぶ鉄機兵というのはそれだけで恐るべき存在だ。
現時点においても飛行型は一部の獣機兵や竜機兵に精霊機 、魔獣使いが操る魔獣などが存在してはいる。
けれども空からの攻撃というのはそれほど強力なものではなく、地上に落ちれば一瞬で囲まれて破壊されることもあり、希少な飛行戦力を無為に消費する無能な指揮官も多くはなかった。
故に通常であればハラスメント行為に徹するか、伝令などに使用することが主であり、戦力として運用できているのはローウェン帝国の竜機兵部隊ぐらいなものなのだ。
そのため、単機でも戦い続けられるベラと『アイアンディーナ』はオンリーワンの非常に強力な戦闘手段となり得るのだが、ガイガンにしてみれば自分たちの大将が毎度敵の集団にひとりで突っ込んでいくのだから気が重いことこの上なかった。
「であれば、ガラティエの同行もお願いしたいのですが」
「ガラティエかい。上手くいっていないと聞いているけど?」
そう言ってからベラが窓の外、魔導輸送車に並走して移動している槍尾竜ガラティエと鉄機獣『ハチコー』を見た。
「ええ、やはり鉄機獣との連携は上手くいっていませんな。正直にいえば、やはり無謀だったのではないかと」
ガイガンの言葉にベラが眉をひそめる。
竜の巫女リリエと槍鱗竜ロックギーガの戦闘状況からドラゴンに乗っての運用の危険性を鑑みての鉄機獣の搭乗である。だが、ふたつのことを同時に……となればケフィンの負担も大きく、ここまでも問題となるほどのことはなかったにせよ、上手く運用できていたのかといえば怪しいところであった。
「ケフィンからも現状に対しての不満の報告も上がってきています。憑依操作を試させてほしいとも」
「憑依はドラゴン相手には無理だって話じゃあなかったかい?」
魔獣使いや巨獣使いはただ魔獣を操作するだけではなく、もっとも恐るべきは憑依操作にある。
けれども結局のところ、リリエではロックギーガに憑依することはできなかった。その原因についてはドラゴンという強力な存在に人の魂が接触することができなかった……というのが、リリエからの返答だった。
「すでに自我の強いロックギーガでは無理でしょうが、竜機兵から変異してまだ日も浅いガラティエとならば……とケフィンからは聞いています。実際ワシも確認しましたが、問題はないかと」
「なるほどね。よほど嫌だったのかね」
それがガイガンからの提案ではないのは聞くまでもなく、おそらくケフィンからの積極的な要請だったのだろうというのは想像に難くない。
ともあれ、戦力としては代替となるものを用意したのだから、ベラとしても無下に扱うつもりもなかった。
「鉄機獣一体の戦力がなくなるのは痛いが仕方ないね。許可するよ。それとその結果は獣人の里にも最速で連絡を送っておきな。他のドラゴンでも対応できるなら、試しておきたい」
「ハッ」
ガイガンの返事を聞いて、ベラが頷く。
「あとは懸念といえば、付いてきている連中だが……どんなもんなんだい?」
それは竜撃隊のあとに続いている騎士団だ。フォルダム騎士団と共にアズーラ騎士団とザック騎士団というエルシャの騎士たちが今回、同行している。
「それなりにできる連中です。ダイズ王子もこちらには気を使ったのか、期待しているのか」
「勝利の分け前を気にしているんだろ」
「ははは、それはそうでしょうが。しかし、フォルダムのところに比べれば正しく戦士ですな。いやフォルダム自身は悪くはないのですが」
マルカスの町からの共にいるフォルダム騎士団の構成要員は戦闘経験の薄い若者ばかりであり、与えられた鉄機兵も死んだ騎士たちのものを引き継いだものだ。
間に合わせの急造騎士団。フォルダム自身はそれなりの戦歴を積んだ騎士だが、団としてみればお粗末なものであるのは自他共に認めるところだろう。
「フォルダム自身は我々と彼らの繋ぎに終始するつもりのようです」
「それが正解だろうね。あいつんとこの団員を無闇に前に出したらバタバタ死んでいくだろうしさ。アレが団長になっているのも下手に死なせぬための安全弁代わりだね。自分のやるべきことを弁えてる男ってのは嫌いじゃないが、足手まといをまとめなきゃあいけないってのは気苦労が絶えないだろうね」
ベラの言葉にガイガンが苦笑する。
そして、一行は移動を続けていく。途中でベラたちはマルカスの町からやってきたヘイロー軍と合流することにも無事成功し、大きな戦闘もなく、山岳都市バルグレイズへと予定通りの日程で辿り着いたのであった。
次回予告:『第246話 少女、山に到着する』
できないとだけ返さず、ちゃんと代替案を用意できる人は優秀です。
これにはベラちゃんも経営的観点からしても認めざるを得ません。同時にイノベーションがいかに大切かも学んだベラちゃんはまた一歩、大人のレディに近付いたのでした。良かったね、ベラちゃん。




