第12話 幼女、紹介される
「まあ、素材はイマイチですが仕込みは悪くないようですね」
「聞きたくはないね。お子さまに何を言ってるんだい?」
マルフォイの言葉にベラはそう悪態をつく。
「連れてきたあなたがそれを言いますか」
「ボランティアみたいなもんだよ。金はもらうけどね」
「はい。分かっておりますとも」
現在ベラがいるのは奴隷商のヴァガーテ商会の来客室である。そこでベラはマルフォイと対面し、運んできた女たちの引き渡し後の手続きを行っていた。
そしてマルフォイがベラに差し出した銭袋に入っているのは210万ゴルディンほどである。売却金額は実のところその3倍だったが、ベラは盗賊団からの解放やここまでの護衛の報酬として三分の一を受け取ることになっていた。残りは女たちで分配されるとのことである。将来的に自分たちを買い戻すための足しにするのだろう。
「今後とも、うちをよろしくお願いします」
「まあ売るよりは買うだけの方がいいけどね。奴隷を連れてくるなんてのは今回だけにしておきたいもんだよ。世話をするのも面倒だしね」
(世話をしたのは俺なんだがな)
ボソリと後ろにいるボルドが呟いたが、幸いなことに話し合う二人には聞こえなかったようだ。
(なんにせよ無事たどり着けて良かったぜ)
ボルドはそう思ってため息をついた。
現在はベラが盗賊団を壊滅させてから6日後となる。
ここに来るまでの道のりは問題こそ起こらなかったが辛い部分もあった。その大部分を占めたのは捕まっていた女性たちのアフターケアである。盗賊団から解放されたと思えば、すぐに奴隷入りが確定だ。やむを得ないとは云え、心が暗くなるのも無理はない。
ベラは当然そうしたことに対するフォローには関与せず、それを行ったのはボルドとまとめ役のラマである。女心など分かるわけもない年寄りには厳しい仕事であった。
「それでずいぶんとお稼ぎなったのでしょう。良い品も運んできたと聞きます。どうでしょう。またお買いになりますか?」
「まったく耳が早いねえ」
マルフォイの言葉にベラが笑う。
ベラは街に辿り着いた日にすぐに賞金首も傭兵組合所に渡し、鹵獲した鉄機兵もコーザに預けていた。そのことをマルフォイはもう掴んでいるのだろう。だがベラはマルフォイの言葉には首を傾げて尋ねた。
「そうしたいんだけどね。もうロクなのは残ってないんじゃないのかい?」
それにはマルフォイも「ハハハ」と乾いた笑いを返した。
この戦奴都市の経済を支えているモナ地方の戦争は、現時点では一進一退といった状況となっているようだった。
確かにパロマ王国の騎士団が戦力として追加されたのは事実であったが、それは間者からの情報に寄れば政争に破れたコージン将軍の配下が戦線に送られた結果らしいとのことだった。
モナ地方へ流された騎士団が予想外に活躍したために一時的にパロマ王国が持ち直したのは事実だが、結局は捨て石であると判断され、ルーイン王国の方も現在では奮起しているようだとはコーザの言葉である。
前回の時点でもボルドくらいしかめぼしい者もいなかったのだ。戦力として使えそうな者はすでにあらかた売られているとベラは見ていた。しかしマルフォイの反応はベラの予想とは違っていた。
「紹介したい剣闘士がおります」
その言葉にはベラも目を細める。
「闘技場で勝ち続けている男なのですが」
その言葉にベラは目を細める。
「何分実力主義のヤツでして、貴族様方にも靡かず未だに街におります」
「奴隷じゃないのかい?」
「いえ、今は違います」
ベラの訝しげな表情を気にせずにマルフォイは話を続ける。
「流れの男です。あなたと同様のラーサ族。ラハンの戦部族を名乗っております」
「そりゃ、出来そうだね」
ラーサ族は西の砂漠地方にいる褐色肌の戦闘民族を指している。高い身体能力を持っており、ベラがウォーハンマーを振り回せるほどの筋力を持っているのもラーサ族であるためということが大きい。
「それで紹介ってのはどういうことなんだい?」
「そいつは元々鉄機兵乗りだったそうで。自分を雇わせるのに鉄機兵を所望しているのです」
「……なるほどね。よほど腕に自信があるみたいだね」
つまりは、条件の難しい案件をクリアできるベラに白羽の矢が立ったというわけであろう。確かに生身の実力が確かであろうと、鉄機兵を任せられるとは限らない。ましてや今の状況では空きの鉄機兵も少ない。実力も分からず博打に出ようという者は少ないだろうし、それが出来るかもしれない貴族連中には見向きもしないのでは確かに不良案件であろう。
(けど、この男があたしにハズレを引かせるかねえ?)
ともあれ、契約を交わすわけではなく、ひとまずは確認をしてみようかとベラは考えた。
「会ってみる。が、今日は寄るところがあるんでね。明日でも良いかい?」
ベラの言葉にマルフォイが笑顔で頷いた。
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「なるほど。モナ地方にいよいよ行きますか」
ベラはマルフォイのヴァガーテ商会の館を出た後は、続けてベンマーク商会の事務所へと向かい、コーザと面会していた。
「まあ、すぐじゃあないんだけどね。それで預けていた鉄機兵の方はどうだい?」
ベラの言葉にコーザが笑って返す。
「ええ、そうそう見ないほどに良く出来た機体ですね。さすがは騎士団仕様。癖のない育て方をしている」
ベラが手に入れた盗賊団の鉄機兵は、元はパロマ王国の騎士団のモノであった。鉄機兵の育て方を知っている組織の鉄機兵は、並の傭兵や盗賊団に育てられた鉄機兵よりも基本的に能力が高く汎用性に優れている。
「私共にお売りいただけるなら、それなりの額をご用意出来ると思いますが?」
「悩んではいたんだけどね。悪いけど先約が入っちまったし、諦めておくれ」
コーザにベラはそう返す。
マルフォイに薦められた剣闘士の件もあるが、前回の戦いで3対1で囲まれそうになった時のことをベラは考えていた。
(初手で一機つぶせたのは幸いだったけどね。でないと、ちょっとは苦戦してたかも知れないからね)
あれは楽観できる状況ではなかったとベラは考えている。所詮、ひとりで出来ることは限られる。ボルドの地精機はいるが、鉄機兵と比べればやはり見劣りする。なので仲間の数を増やしておきたいと検討していたところではあったのだ。
「破壊されたのは操者の座と胸部ハッチのみ。さすがの手際というべきでしょうか。竜心石の隷属化もウチの契約している魔術師を呼んでますのでどうにかなりますが」
「それで盗賊団のアジトの方は?」
「スカベンジャーをすでに向かわせております。他に嗅ぎつけられてなければ回収は出来るでしょう」
戦闘後の回収を任せられる者たちをスカベンジャーという。荷運びとは言え鉄機兵持ちの集団である。彼らはコーザの指示でベラが放置した盗賊の鉄機兵の残骸回収に向かっていた。
すでに竜心石はないので動きはしないが、その素材だけでもかなりの資産となるし、新しく鉄機兵を産む際の苗床にもなる。
もっとも、すでにある程度の時間は経っているために、盗賊団壊滅を知った誰かが死体漁りをしている可能性もある。回収が出来なければベラは金が入るどころかコーザのスカベンジャーを雇った分マイナスになる話だが、めぼしいものはすでに自分で回収しているし、鉄機兵の残骸は基本的には、鉄機兵でもなければ持ち帰るのは難しいシロモノだ。そもそも盗賊団のアジトなど、早々知られているモノではないからこそ、連中もベラたちが来るまでは生き延びていたのだ。
「ま、スカベンジャーが帰ってきてからモナ地方に向かうとするよ。鉄機兵の方の整備はよろしく頼むよ」
その言葉にコーザも「お任せください」と返す。
そして、ひとまずは明日の剣闘士の確認である。その相手が自身の背を守らせるに値するか否か、それが問題だった。
次回更新は2月4日(火)0:00。
次回予告:『第13話 幼女、観賞をする』
今日は男たちの殺し合いを観賞にきたベラちゃん。
腕とか斬られるのはちょっと痛そうですね。




