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【web版完結】軍人少女、皇立魔法学園に潜入することになりました。〜乙女ゲーム? そんなの聞いてませんけど?〜  作者: 冬瀬
軍人少女、聖女一行を護衛することになりました。 〜勇者に魔王? 聖女は親友!? そんなの聞いてませんけど?〜
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28、応報

本日3話分投稿です。(2/3)

※暴力的表現があります。重いです。万全のコンディションでお読みいただくことをお願い申し上げます。



 レグスが浄化された、五日後。

 リッカとハルルは重要参考人として、共和国首都まで護送されることになっていた。

 まだ犯人と決めつけられたわけではなかったのだが、魔石は没収されたまま馬車に詰め込まれた。

 聖女フォリアは抗議してくれたらしいが、無実を証明するためにもリッカとハルルは彼らの要求を飲み込むしかなかった。




 ――その結果。


 どこからか話を聞きつけたらしい、皇国に恨む辛みのある暴徒化した共和国の民の集団に馬車を囲まれた際、あっけなく捕まって馬車から引きずり下ろされた。


 罵声、怒声、悲鳴。

 刹那に見えたハルルの絶望に満ちた顔。

 掴まれ、殴られ、蹴られて、刺され。


 レグスが消えたあの日からやまない雨を浴びながら、抵抗虚しく彼らの怒りを受け止めることしかできなかった。


 

 戦わなくてはいけない。

 ハルルを死なせるわけにはいかない。



 分かってはいたが、何もできない。

 仮にも、皇国で英雄に与えられる称号を持つ人間だというのに。

 自分がこの状態なら、ハルルはもっと酷い目に遭っているはずだ。



 助けないと。助けないといけないのに。



 必死にハルルがいた方向へ伸ばした手は、誰かに踏みつけられた。

 またどこかを刺されたらしく、口からごぽりと血が出てくる。

 もう痛覚すらどうかしていて、ただただ身体が動かなかった。



「やめてッ!! やめてください!!」



 遠くの方で、別の馬車で同行していたフォリアの声が聞こえた気がした。






 ◆◆◆






 護衛がなんとか殴りかかる自国民を引き剥がすのにかかった時間は、五分にも満たなかった。


 ――が、

 そこに転がっていたのは、胸部を含めた数箇所を刺さされてすでに虫の息の娘だった。



「なんて、なんて酷いことを――ッ」



 自分のそばに、フォリアが膝をつくのが分かった。

 火事場の馬鹿力というやつだろう。

 リッカは――ラゼは、彼女の腕を掴んだ。


「――を」

「えっ……?」

「は、る、る、を」


 必死だった。

 ここまで着いてきてくれた、彼を。

 大事な仲間を、なんとしてでも助けて欲しかった。


「おね、がい。ふぉり、あ」


 ぶるぶると震える手は、それでも強くフォリアを握って訴える。


「聖女様ッ!!」


 ざあざあ雨が降る中で、奥から焦りの滲む大声が聞こえた。十中八九、ハルルも重傷なのだろう。

 膝をついた時からフォリアはすでに治癒魔法をかけてくれている。

 だが、身体にナイフやらなんやらは刺さったままだ。

 全て抜いて治癒するには時間がかかる。

 

「決断をっ。中尉のほうは内臓がっ……」


 シンディのセリフは、妙にはっきり聞こえて。


「――はや、くっ!」


 ラゼは血を吐きながら叫んだ。

 ほとんど怒声に近いその叫びは、フォリアの肩を揺らす。


「すぐッ、すぐに戻るからっ。絶対に助かるから!!」


 それだけ言って、フォリアは走り出した。




 

 残されたラゼは空を仰ぐ。





 護送に着いてきた視察隊の面々は、周囲を沈静化かせようとしてくれていた。

 得意型ではなかったが、数人が治癒魔法をかけてくれていた。

 その中には、水色の髪をした少年もいて。


「死んじゃダメだよっ。ぼく、まだ、おねぇちゃんになんにも返せてないっ」


 こちらの正体も知らずに、そんな言葉をかけてくれる彼に思考がよどんだ。


 



 ――もういい。もういいんだ。

 そこまでされる価値は自分にない。

 ハルルさえ助かってくれれば、それでいい。





 ただの町娘だった自分が軍人になって、とうとう大佐にまでなった。

 様々な任務についたが、セントリオール皇立魔法学園で学生として生きることができた。

 学者になりたかった弟からすれば、この上ない贅沢なことだっただろう。

 仕事をして、勉強もして、大切な友人もできて。

 とっくの昔に死んだと思っていた父親の最期も知ることができた。彼が死の直前まで自分たち家族を想ってくれていたことも見届けた。


 これ以上、何を望むというのだろう。

 ここまでだ。十分生きた。これ以上、望むものなんて。望めるものなんて、もう残っていない。


 部下や友人たちの未来が気になりはするが、欲張りすぎだ。彼らには、他にもっと大切な人がいる。

 そう考えてしまう時点で、無条件に自分だけを大事にしてくれる唯一を求めていることだって自覚はしている。


 それでも、望みすぎなのだ。

 なぜなら――


 前世の記憶なんてものを持っていたくせに、状況に甘んじて何も守れなかった自分が、一体どの面さげてそんな存在を欲しいと言えるだろう。


 

(……父さん。……母さん、リド……)



 ――そろそろ、そっちに行ってもいいかな。

 同じところに行けるかは、分からないけど。





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― 新着の感想 ―
敗戦国ならともかく戦勝国の人間に対する扱いに無理が有りすぎてしらける
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